自分の身を守る行動を、もっとポジティブで日常的なものにするために

 発売から約半年がたつ「omamolink」。現在はメディアでの露出やイベント登壇の機会も増え、石川さんの事業と活動への共感を軸に、会社をともに運営する仲間も集まった。事業が順調に進む中で、石川さんが今後実現していきたいことも広がりを見せている。

 そのひとつが「守活(まもかつ)」だ。「守活」とは、“日常に潜むリスクから自分や大切な人を守る活動”のこと。性犯罪被害から身を守る行動を日常生活に溶け込ませ、多くの人に自分事(じぶんごと)化してもらいたいとの想いから、石川さんがつくった造語だ。

守活ハンドブック

性犯罪は加害者が絶対に悪い。その大前提はゆるぎません。ただ、加害者が悪いからと言って、私たちが何もしなくてもいいわけではない。交通ルールを守るように、自分の身を守る行動を自然とできるようになればいいなと考えています。リスクを回避する行動を、美容や健康を維持するのと同じレイヤーの活動としてとらえてほしいんです。それで、人目を引くような“守活”という言葉を生み出して、学校に配布するリーフレットや多くの方に情報発信するためのメディアもつくりました」

 守活のリーフレットでは、性犯罪の発生件数や発生場所などのリアルなデータが掲載されているほか、身を守るための選択肢を増やせるよう、最新護身アイテムも紹介されている。また、万が一被害に遭っても心を守れるよう、相談窓口も掲載されている。さらに、心のケアにいちばん大切なのは“周りからのサポート”ということで、grigryチームの一員である精神科医が、家族や友達が適切に寄り添えるようなコラムを寄稿している。

 さらに、まだ構想段階だが、omamolinkの海外使用や、地域の見守り活動に貢献したい有志メンバーを集めた「みまもリーダーズ」の組成なども検討しているという。

「omamolinkの購入者から、“娘の海外留学時に使わせたい”といった声や“緊急連絡先として見守ってもらえる人がいない”といった声をいただきました。その声に応えるためにも、いずれはomamolinkを海外で使えるようにしたり、緊急連絡先に登録できる人がいない人でも安心して使ってもらえるような体制をつくっていきたいと考えています。

 自分たちの住むエリアを安心して住める場所にしたいと、地域活動への貢献に積極的な方も実はたくさんいらっしゃるんですよね。そのような方に登録していただき、omamolinkでSOSが出たら、その地域に住む“みまもリーダーズ”が駆けつけるような仕組みがつくれれば、女性だけでなく高齢者の見守りなどにも活用できると思っています」

 さらに、社会全体に対して、性犯罪被害の実態を啓発できるような映像の制作なども視野に入れている。日本ではまだ、性犯罪が被害者に与えるダメージについて、軽くとらえている人が多いと感じているからだ。

「望まない性行為をしたときに、精神的・肉体的にどのような変化が起こるのかについて、国内では性犯罪に関する知識のある人とそうでない人の間で認識の差が大きく開いているように思います。“命を取られたわけじゃない”と、被害経験を軽んじられることも多い。まずは実情を知ってもらえるような映像を作れたらと考えています」

自分や大切な人を守るために、まずは自分ができることから始めてほしいと語ってくれた石川さん 撮影/佐藤靖彦

 石川さんは最後に、読者へのメッセージとともに今後についてこのように語った。

最終的にはあらゆる人が、不安なことを一切考えずに、幸せに生きられる社会の実現を目指しています。でも、そのような社会の実現はすぐには難しい。であれば、背筋を伸ばして歩くほうが素敵だからとか、身につけると気分が上がるからomamolinkを持っているとか、身を守る側がよりポジティブな気持ちで行動を起こせるような提案をしていきたいなと思っています。読者のみなさんもぜひ、自分や大切な人を守るために、どんなことでもいいので、今日から始められることをやってみていただけたら嬉しいです」

(取材・文/市岡光子、編集/FM中西)