「ジェラス・トレイン」発売時の秘エピソードとは? 「プリズム・ムーン」も人気

 そしてSpotify第16位には、 '85年のシングル「ジェラス・トレイン」がランクイン。サビ部分では奈保子が高音でロングトーンを披露するという超難曲で、歌謡マニアの間では語り継がれるほどの作品だが、ここでは当時の売り上げより4ランクアップしているものの、さほど目立っていない。

ソ「『ジェラス・トレイン』は、全体的に聴けばとってもカッコいいのですが、パッと聴いた感じでは、そのよさが伝わりづらいから16位止まりなのかもしれませんね。このころは、さらに髪の毛を短くしちゃって、ラジオ番組では“松ぼっくり”って言われていました。ちなみに、その発売当時、奈保子さんが『こども電話相談室』に“ぼっくり”の意味を尋ねていたんですよ。それが“ふぐり”(睾丸)の意味とも知らずに(笑)。ほかの曲を見ても、シングル・レコードの売り上げは、アイドル時代の波に乗っているかどうかが大きいので、むしろこのSpotifyの順位のほうが全体的に理解しやすい気がしますね

「ジェラス・トレイン」のジャケット写真。白シャツに耳元のイヤリングがとても似合う

 ここからは、シングルのカップリング=B面曲について見ていこう。カップリング部門1位は、「夏の日の恋」(A面曲「コントロール」)、2位は「恋のハレーション」(A面曲「エスカレーション」)。この2曲は、前述のように人気プレイリストとしてバズりやすい夏歌ということに加え、それぞれ同時発売のアルバム『Summer Delicacy』、『Sky Park』にも収録されていることから、数字がより伸びやすいのだろう。他方、カップリング部門第3位、第4位は「プリズム・ムーン」(A面曲「微風(そよかぜ)のメロディー」)と「I'm in Love」(A面曲「ラヴェンダー・リップス」)が健闘いずれもアルバム未収録曲だが、それぞれの作曲者は、シティポップ・ブームでも再評価が際立つ尾崎亜美と林哲司だ。

 実は、衛藤ディレクター、この「プリズム・ムーン」を「ハリケーン・キッド」(シングル「大きな森の小さなお家」のB面曲で、ここではアルバム『LOVE』収録バージョンが人気)と何度も混同しては、ソワレに手厳しく指摘されているのだが(笑)、その理由を尋ねたところ、

「『プリズム・ムーン』はディレクターとして何百曲も奈保子の歌を聞いている中で、曲として面白いから覚えているんだろうなぁ」

ソ「『プリズム・ムーン』も名曲ですからね~。当時、レコード屋さんで“新曲は『プリズム・ムーン』”って告知があったから、スタッフもきっと『微風のメロディー』とどちらをA面にするか迷っていたんでしょうね。これは僕の推測ですが、『微風~』は元の歌詞が ♪Happy Happy Birthday~ だったから、(実際の誕生日と発売時期がずれているため)B面予定だったけど、♪Happy Happy Lady〜 に変更して、春先のシングルにしたのかもしれませんね。でも、“Happy Happy Lady”とささやかれても、ちょっと意味がわかりづらいかも(苦笑)。全然関係ありませんが、シングル『悲しい人』の発売前には『ローマ&サリンジャー』っていう、どこにもない曲名が新譜案内に書かれていました(笑)

ソワレと衛藤ディレクターの掛け合いにより、たくさんの秘話を知ることができた。次回のトークにも乞うご期待! 撮影/近藤陽介

 ちなみに、『プリズム・ムーン』は『私が好きな河合奈保子』でもカップリング&アルバム曲部門のファン投票第14位(カップリングとしては4番手)に入っている。『I'm in Love』は、林哲司が奈保子に提供した中では珍しくマイナー調で、クールな雰囲気の演奏と奈保子のホットな歌唱が好対照のミディアム・チューン。

ソ「『I'm in Love』が55位まで上がっているんですね! 似たイメージの『唇のプライバシー』が大好きだったので、これもA面曲として、ぜひ振り付きで聴いてみたかったですね。あと、シングルB面の中では、『プールサイドが切れるまで』(Spotify第87位、A面曲「刹那の夏」)がいちばん好きですね。イントロ部分は、(筒美)京平先生からの指示なのか、ホイットニー・ヒューストンの『Saving All My Love For You』がインスパイアされていますが、奈保子さんは三連のロッカバラードが上手なんですよ。以前、自分のライブで歌うために譜面を書き起こそうと思ったら、ものすごく複雑で、さらに奈保子さんによるサビ前のスキャット(意味のない音をメロディーに合わせて即興的に歌うこと)も高度なテクニックが必要で、とても驚きました。奈保子さんの歌は、目立たないけれど歌ってみると難しいものが本当に多いんです

 ソワレの話を聞いていると、ボーカリスト・河合奈保子の魅力が実に多面的でハイレベルなことが伝わってくる。しかも、奈保子本人もそういったテクニックをひけらかすタイプではないし、当時のマスメディアも“わかりやすい”ビジュアル面の魅力を伝えたほうが、反響が大きかったのかもしれない。

 続く第3弾では、今回言及しなかったアルバム曲や、近年のリリース・ラッシュについても触れていく。

Spotifyでの河合奈保子アーティストページも要チェック!(数字は2022年11月23日現在の累計再生回数) ※画像をクリックするとこの写真と同じページにジャンプします

(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)


【PROFILE】
ソワレ ◎シャンソン歌手。シャンソンに精通しCD作品などの監修やシャンソン歌手の育成に取り組むかたわら、イベントプロデュースや新宿界隈の飲食店のオーナーも務める。越路吹雪に多大なる影響を受け、作品解説や監修も手がけている。また、河合奈保子の大ファンでトリビュートライブを行うほか、ベスト盤『しんぐる・これくしょん』の解説、アルバムコンプリートBOX『Naoko Premium』『Naoko Live Premium』『ゴールデン☆ベスト』の制作協力と解説も担当。

ソワレ主催イベント『歌舞伎町シャンソンフェスティバル2022』
 2022.12/9〜12/26@東新宿Petit MOA、入場料4300円(1ドリンク制)
 イベント詳細やチケット情報はソワレ公式Twitterをチェック!
◎ソワレ公式HP→https://soiree.in/
◎ソワレ公式Twitter→@soireetoile
RELEASE INFORMATION
・2枚組CD『Masaaki Omura Works〜大村雅朗作品集〜』2022.9/21リリース!
・タワーレコード限定SACD/CD ハイブリッド盤『スカイ・パーク』『サマー・デリカシー』『スターダスト・ガーデン千・年・庭・園― (+1)』『スカーレット(+4)』2022.11/23リリース!
・アナログレコード『COLLECTION Vol.1 1980~1984』『COLLECTION Vol.2 1985~1993』2022.12/3リリース!
・タワーレコード限定SACD/CD ハイブリッド盤『LIVE(+5)』『NAOKO IN CONCERT(+2)』『ブリリアント<レディ奈保子 イン・コンサート>(+2)』『NAOKO THANKSGIVING PARTY (2枚組)』2023.1/25リリース!