『あるばむ』にまつわる秘話は?デビューアルバム『LOVE』には実験的要素アリ

 そして、アルバム第3位には'84年の『Daydream Coast』。こちらは海外録音作品で、楽曲提供や演奏で、デヴィッド・フォスター、ジェフ・ポーカロ、マイク・ポーカロ、ビル・チャンプリン、ピーター・セトラと名だたるミュージシャンが参加しており、当時も奈保子作品の中で本作のみ購入している洋楽ファンの話を多く耳にした。この中では、デヴィッド・フォスターとデュエットをしている「LIVE INSIDE YOUR LOVE」が34位で最上位となっている。

ソ「これも全体にいい曲がいっぱいですね。特に『ANGELA』(Spotify第52位)は、奈保子さんだけじゃなく、早見優ちゃんも大好きって言ってたし、テレビでもライブでもよく歌っていたし、いろんなキッカケがあっての人気でしょう。このアルバムの中では、この曲が比較的、歌謡曲っぽさがあって聴きやすいと思います」

 さらに、アルバム部門第4位は'83年の『あるばむ』。衛藤ディレクターの説明のとおり、ここから4作のアルバムがレコードの片面ずつ作家が異なり、本作はA面が全作詞:竹内まりや(作曲は竹内まりやと林哲司が担当)、B面が全作詞:来生えつこ、全作曲:来生たかおで、当時、奈保子がオリコンチャートで初めて週間1位となったことも話題となった。収録曲としては、竹内まりや×林哲司コンビの「砂の傷あと」が36位で最上位となっている。

ソ「『砂の傷あと』は、僕もシングル以上に大好きです。アレンジがシングル向きじゃないんだけれど、アルバムの中の1曲として、林哲司さんが奈保子さんのために一生懸命作った感じが伝わってきますね。そういえば、奈保子さんと(菊池)桃子ちゃんがフジテレビの音楽バラエティ番組『クイズ・ドレミファドン!』の“リンリンクイズ”というコーナーに出ていて、それぞれお友達に電話をかけてクイズに答えてもらうという内容なんですが、奈保子さんは自分のラジオ番組のスタッフさんを選んだのに対し、桃子ちゃんは林哲司さんに電話をかけたんです。

 そのとき、林哲司さんが“河合奈保子さんのヒット曲を2曲挙げてください”という問題を出されて、『デビュー』と『ラヴェンダー・リップス』って自分の曲だから答えられたのに対し、“おニャン子クラブのメンバーを2人挙げてください”という問題で“誰も知らないです”と答えていたのが面白かったです。おニャン子には楽曲を提供していませんからね(笑)」

 ソワレの話は、余談でもきちんとオチがつけられていて、さすがエンタテイナーだと感心させられる。そして、アルバム部門第5位は、'80年のデビューアルバム『LOVE』。ソワレも爽快で大好きというタイトル曲が最上位の41位だ。

「実は、このアルバム、歌唱法が楽曲ごとにまったく異なるんですよ。『フォーエバー・マイ・ラブ』はカンツォーネっぽいし、『LOVE』はフレンチポップスっぽい。リバプールサウンド風の『新世紀』もあるし、奈保子さんの音楽的素養から、さまざまな曲を歌わせる実験をしていたのかなと思いますね」

 確かに曲調も多岐にわたるし、歌詞についても、69位の「素肌の季節」は ♪幸せ CREAMY MORNING 哀しい CREAMY MORNING ああ どちらをあなたはくれますか~ と始まる意味深な歌詞で、その後の内容も、山口百恵の“青い性”路線にも通じる深読みができそうだが……。

ソ「でも、奈保子さんはそこまで考えてなさそう……。音楽家としての素養が強い分、歌詞はそこまで咀嚼(そしゃく)していなかったかもしれませんね」