キャバクラ界の“リアル”とは? 芸人流の迅速なボケはお客さんにも好評

──芸人活動を始めてからもキャバクラのバイトを続けられたのは、どうしてだと思いますか?

「芸人って、オーディションなどで急に呼び出されることがすごく多いんです。だから、シフトが自由っていうのはかなり大きかった。それに、キャバクラで働いていて嫌なこともいっぱいあったんですけれど、行きたくないと思ったことは一度もなかったんです。別のバイトをしていたときは、何回かズル休みとかしたこともあったんですが(笑)。いちばん長く働いた店は店長も芸人だったから、急きょ芸人の仕事が入っても、シフト面をうまく調整させてくれました。それもあって誠心誠意、働こうって思えた。遅刻も芸人の仕事が入ってどうしようもないとき以外では、絶対にしなかったですね。

 あとは、お客さんからの理不尽な言動も、ある程度は笑いに昇華して受け止めるというか、心の中で相手にツッコミを入れてやり過ごしたり、“この人を喜ばせるようなことを言ってみみよう”と考えて試したりと、どこか楽しんでいたのだと思います

──キャバクラの仕事に向いていたのですね。

でも私、キャバクラの面接、めっちゃ落ちているんですよ。“キャバクラやるから手伝いに来てよ”ってオーナーから声をかけられたにもかかわらず、3時間くらい誰も接客せずに、店長から“今日はもう帰っていいです”って言われて、そのままやめさせられたこともあるくらい(笑)。

 当時は体力があり余っていて、芸人活動とキャバクラ以外にも、整骨院やバー、スーツアクター、早朝のビル清掃など、いろいろなバイトをしていました。清掃のバイトは、チノパンにスッピンといういでたちで出勤することが多かったんですが、“私、今は冴(さ)えないけれど、実は夜の蝶なのよね〜”ってひとりで悦に入ったりして(笑)、忙しかったけれど、それなりに充実していましたよ」

晴天さんは話していてもすごく表情が豊かで、こちらも楽しい気持ちになれた。リアクションのよさも、人をひきつける秘訣のひとつなのだろう 撮影/吉岡竜紀

──キャバクラでは何店舗くらい働かれたんですか。

3店舗です。最初は高円寺で働きましたね。妹があとから上京して一緒に住むんですが、最初は同じキャバクラで働いていました。妹は私と違ってちょっと小悪魔系のタイプで、お酒もかなり飲めるし、どんどんのし上がって(笑)、最終的には歌舞伎町の大人気店に進出していましたね。めちゃくちゃ稼いでいたので、当時は妹が家賃を払って、私はお小遣いや交通費をもらったりするくらい(笑)。私は高円寺のあと、女芸人からの紹介で、ほかにも何人か芸人仲間が働いていた中野の店に移りました

──女芸人さんが何人も働いていたら、楽しそうな店ですね。

「そうなんですよ。また次も女芸人の紹介で(笑)、今度は渋谷のキャバクラで働くようになったんです。その店が長くて、7〜8年ほど在籍していました。店長やボーイもほとんど芸人だったということもあって、シフト面などで優遇してもらいやすく、働きやすかったんですよね。制服はチャイナドレスで、わりと大胆なスリットが入っていました(笑)」

──女同士の争いのようなものは、激しかったんですか?

「それが、渋谷なのでギャルが多いのかと思いきや、20年以上続いている老舗で、10歳上くらいの先輩もいて、ちょっとスナックの雰囲気もあるレトロなお店でした。それと私、学生時代から女のいざこざに巻き込まれたことがなくて。敵だと思われないんですかね(笑)。だから、もしかしたら人気上位のお姉様方には多少の売り上げ争いがあったかもしれませんが、自分は一切なく過ごせました

──そういえば、お客さんは、晴天さんが芸人だと知っていたのですか?

「どのお店でも、オーナーが“この子、芸人なんだよ”って言っちゃうことはありましたね。でも、芸人って紹介されても“そうなんだ〜”くらいで興味がない人のほうが多かったです。逆に、肩書きに食いついてくる人は、よかれと思って仕事や生き方のアドバイスをしてくるんですよ。例えば、“芸人なんて、どうせ売れないからやめなよ”“さっしー(指原莉乃)のモノマネをテレビで見たけど、もっとほかの有名人も取り入れなきゃダメだよ”“この先どうするつもりなの?”とか。“よけいなお世話ですよ”と思ったこともあったけれど、基本的には相手を全肯定して話を聞いていました」

──では、キャバクラで働いていてプラスになった経験ってありましたか?

「キャバクラで働いたことで何か大きなプラスになるっていうのは、ないんじゃないかな。実際にお笑いに生かせたことがあるかって言われたら、こういう取材をお受けすることぐらいですね(笑)。ただ、キャバクラ時代で自慢できることがあるとしたら、お客さんからも、お店のボーイや女性陣からも、やめるまでノークレームだったんです。もしかしたら、かわし方がうまかったのかな。本気で怒ったりもしないし、“私のほうが可愛い”みたいな態度も絶対に出さなかったし。もともとクレームとかにめっちゃ凹むタイプなので、その性格が功を奏して、うまく立ち回れたのかもしれません。

 あと、逆に、芸人の経験がキャバクラで役立ったっていうことはありますよ」

──例えば、どんなときでしょうか。

「私は身長が173センチと大きいので、男の人が“180くらいある? “ってふっかけてきたりするんですよ。そうしたら、すかさず“2メートル40センチですよ!”って答える。普通のキャバ嬢は、“ええ~”とか“何それ〜”みたいなリアクションしかしないから、即座にボケを返すと“やるじゃん”みたいな感じで言ってもらえるんですそれで場内指名はめっちゃもらいましたね。別に本命のお姉さんがいるお客さんたちからも、“君、面白いからいていいよ”って。

 でも、何かを言われてすぐ返すのは、芸人の世界で言ったら基礎中の基礎というか、できて当たり前のことなので、“たとえここでウケても驕(おご)っちゃダメだ”と自分に言い聞かせていました」