「京大式肉食獣」の異名でも知られる、人気プロ雀士、松嶋桃さん。
前半のインタビューでは、麻雀との出合いや、学生時代の思い出について語っていただきました。
インタビュー後半は、松嶋さんのタレントとしての活動、Mリーグの実況としてのプロ意識、そして今後の展望について伺いました!
(松嶋桃さんの学生時代と麻雀との出合いについては、インタビュー第1弾で語ってもらっています!→4歳で麻雀に出合い、国士無双でデビュー!「好きなことしか続けられない」Mリーグ実況・松嶋桃がプロ雀士になるまで)
アタック25で優勝。クイズタレントとして躍進
──麻雀のプロになった後、麻雀以外の活動で、クイズ番組の出演が増えましたよね。そのきっかけは何ですか?
「プロ雀士同士で行われるクイズ大会があったのですが、そこで優勝したんです。そのとき、周囲から“アタック25に応募してみたら?”と言われ応募したら運よく出場させてもらえて、しかも優勝したんです。クイズ番組に出るようになったのはそれがきっかけですね。 “クイズができるプロ雀士”というアイデンティティを与えられた気がしました」
──優勝してしまうのもすごいですし、そこからさまざまなクイズ番組に呼ばれるのもすごいですね。
「本当に運がよかったですね。優勝がきっかけで、たくさんご縁があって芸能事務所に所属することになって番組出演も増えました。プロ雀士という職業で目につきやすかったっていうのもあったと思います」
──クイズでいい成績を出せたのは、やはり受験時代に必死に勉強した成果ということですかね。
「それはあると思います。小さいころから本を読んで覚えていたことが、ものすごく今につながっているかなと思います。また当時は“京大卒”というブランドをうまく扱えなかったなと思ってたんですけど、今では京大卒だから目に止まって呼んでもらえてるので、よかったかなと。本当に何が役立つかわからないですね」
──その縁もあって、現在はカプリティオチャンネル(クイズ王の古川洋平氏が率いる、最強クイズ王集団の人気YouTubeチャンネル。登録者は10万人超え)でYouTuberとしての活動にもつながりましたよね。
「そうですね。人狼ゲームつながりで知り合って、そのあと麻雀対局をした縁で声をかけてもらいました。いい縁に恵まれているなって思います」
──現在は、チャンネルのレギュラーになってクイズを制作していますよね。
「そうなんですよ、いきなり“クイズの企画持ってこれます?”って言われて“えっ!”ってなったのを覚えています(笑)。なんの前振りもなくいきなりで、大丈夫かなって不安でした。でも、面白かったと言ってもらえてなんとか続けられています。問題を定期的に作るのは結構大変ですけど(笑)」
Abemaで実況者を本格的にスタート
──Abemaの番組に出るようになって、実況のお仕事も担当するようになりましたが、ご自身ではあまり得意ではないなということだったんですよね。
「そうですね。あまり合ってないとは思っています。家で本を読んだり、動画を見たりするのが好きな人間なので、大勢の人とかかわったり、話したりするのが得意なほうではないし、自分の声も好きではないです」
──自分の声が好きではない?
「普通にしゃべっているのに、“声を作っているみたい”と言われることがあったんです。ずっと自分の実況が嫌いだったんです」
──そんな感覚だったんですね……。
「うまく実況ができてないことに自分がいちばん気づいてはいるけども、どうしていいかわからなくて大変でしたね。すでに女性の麻雀実況なら小林未沙ちゃん(※)がいて、わかりやすい実況をしていたので、“これができないといけないのにな”と思って悩んでいた時期もありました」
※小林未沙:Mリーグ公式実況者。元プロ雀士で、現在は女優、声優、ナレーターとして活躍
──現在はMリーグの公式実況を担当されていますが、そこでは何を意識していますか?
「視聴者目線であることと、私自身が楽しむことですかね。あと掛け合いはすごく大事にしています。日吉さん(※)はグイグイと自分で引っ張っていくタイプですけど、私は引っ張るタイプではないなと思っています。私は視聴者の代表として、解説の人に聞いたりとかしながら、一緒に場を見ていけたらいいなっていうのを第一に考えていますね」
※日吉辰哉:プロ雀士で、Mリーグ公式実況者。熱量ある実況が特徴。Mリーグで数多くの名言を産み出している
──視聴者に寄り添うような実況ということですかね。
「そうですね。最初はうまくやろうとして(小林)未沙ちゃんをお手本にしてたんですけど、ぎこちないし明らかに向いてないというのに気づきました。マネするだけでは、彼女の下位互換にしかなれないなと悟ったんです」
──自分の中で手ごたえがない状態で苦しんでいたんですね。
「戦っているプロの気持ちはわかるし、それなら割り切って麻雀プロとしてふるまおうと心がけました。解説のプロとも距離感が近いので、いいタイミングで踏み込んだ質問をするようにしてから少しずつほめてもらえるようになりました」
──Mリーグの前口上も実況の方が考えると伺ったのですが、どのようにして文章を作っているんですか?
「前日の試合を見て、資料を確認しつつ、当日の1試合目の選手が発表されるのを見てから原案を作ります。そのあと、スタジオで直接選手に世間話をしつつ話を聞いて、そこから修正する流れですね。あとはシーズンの中盤以降になると条件戦が出てくるので、そんなときは他チームで気になる選手とか、戦い方とか、気になるポイントについて聞きますね」
麻雀に貢献できる存在へ
──Mリーグの実況者として楽しいと思えることは何でしょう。
「やっぱりMリーグを特等席で見られることですね。手牌(※)も見れて、解説の人にリアルタイムで質問できるし、選手の生の声を聞ける。視聴者からしたらこれ以上ぜいたくなことはないと思うので、いち麻雀ファンとして楽しいです」
※手牌:ゲーム進行中に常に自分の手元にある牌のこと
──逆に大変と感じることは?
「舞台の大きさ、見る人の多さです。Mリーグの規模の大きさは麻雀界でもいちばんですし、麻雀の実況は技術的にも大変です。複数人同時でテンパイしてリーチをかけると、順位の条件も一気に変わり、当たり牌と、残りの枚数など見るべき部分は多い。そのため伝えるべき情報の選別には気を遣います。あとは盛り上げるべきところでは絶対盛り上げないといけないし、番組の味つけを担当する身として、みなさんに満足してもらえるような実況ができるように気を張っていますね」
──そう言われると、実況に要求される情報量はかなり多いですね
「他には台本読みのときでも、私は声が高くキンキンしてしまうので、聞き苦しくない声のトーンも研究したりしてます。決まった型がない分、毎日いろいろ試していますね」
──それだけプロ意識を持って実況に挑んでいらっしゃるんですね。
「実況のプロになれたとか得意だとは、何年たっても思えないんですよね。それだけ難しい仕事を任せてもらっている実感があります。だからこそしっかりとやり通せるように頑張りたいです」
──Mリーグ公式実況以外にも、テレビやYouTubeのタレントとしての出演もどんどん増えてきました。最後に、今後どんな存在になりたいか教えてください。
「麻雀を知るきっかけになれる存在がいいかなと思ってます。麻雀を知らない人にとって、知るきっかけをくれる人の存在ってすごく大事だと思うんです」
──そうですね。確かに初めて麻雀を知ったとき、そこにいる人はすごく大事な気がします。
「そのきっかけの人が、何か面白いことをやってたり、何か魅力的な面があると麻雀を好きになってくれるかもしれないですよね。そのあとMリーグを見てくれて、別の選手のファンになってくれてもいいし、私は通過点でいいので、麻雀の入り口になれる存在として貢献できればなと思います」
◇ ◇ ◇
終始ニコニコと笑顔で質問に答えていた松嶋さん。話の端々に「麻雀界の役に立ちたい」という意気込みを感じる時間でした。
筆者もひとりのMリーグファンとして、松嶋さんの昔の実況と今の実況を見比べてみると、声の印象がまったく違っていて、よりよい実況になるよう、日々アップデートをし続けているのがわかります。
Mリーグの公式実況として、さらに麻雀界を盛り上げていく松嶋桃さんから、今後も目が離せません。
(取材・文/翌檜 佑哉)
【PROFILE】
松嶋桃(まつしま・もも) ◎1984年、愛知県生まれ。プロ雀士。麻雀プロリーグ「Mリーグ」公式実況担当。京都大学に現役合格、法科大学院(ロースクール)修了の才女。4歳から麻雀に触れ、ロースクール卒業後、プロ雀士の試験をトップ合格し、アイドル雀士としての地位を確立した。人気クイズ番組『パネルクイズアタック25』『クイズタイムショック』『東大王』といった有名番組に多数出演し、頭脳派タレントとしても知られる。著書に『京大卒雀士『戦わない』受験勉強法』(ベストセラーズ刊)がある。