「好きなものじゃないと続けられないと思ったんです。なので麻雀プロを志しました」
そう語るのは、Mリーグ(※)公式実況で知られるプロ雀士「松嶋桃」さん。
※Mリーグ:麻雀のプロスポーツ化を目的とし、2018年7月に発足した、麻雀のプロリーグのこと
松嶋さんは、現役で京都大学法学部に入学。ストレートで卒業した後、法科大学院へ進学し、プロ雀士となった異色の経歴の持ち主です。
愛らしいルックスとは裏腹に、点数の高い大物手を狙う戦闘スタイル、そしてお肉が大好きなことになぞらえ「京大式肉食獣」という別名でも知られています。
そんな才色兼備な松嶋桃さんについて、これまでの人生遍歴や、麻雀にかける思いを伺うべく、fumufumu newsでインタビューを実施。第1弾となる今回は、松嶋さんの麻雀との出合いと、学生時代のエピソードを伺いました。
4歳で出合った麻雀。寝る間を惜しんで受験に取り組んだ中高時代
──松嶋さんは幼少期はどんな子どもでしたか?
「基本的にインドアで、家でテレビを見ることと、本を読むのが好きな子どもでした。生き物図鑑みたいな本が好きで、結構そのときから何かを覚えることを楽しんでましたね」
──初めて麻雀に触れたのは何歳ですか?
「親戚が麻雀好きな人が多くて、少なくとも4歳のときには麻雀で遊んでいましたね」
──4歳! 早いですね。そのときならまだ漢字も読めるか怪しいくらいですが……。
「どこまで理解できていたかはわからないですけど、母いわく1歳から理解してたよって聞きました。まったく記憶がないので信憑(しんぴょう)性は不明ですけど(笑)」
──当時は勉強が楽しかったと、他のメディアでも言ってましたよね。
「小さなころから本を読んでいたので、知らないことがわかるようになるっていうのがうれしかったんです。中学受験のために塾に行くと、知らないことがたくさん出てきたので、すごく勉強が楽しかったです。当時は(笑)」
──“当時は”が付くんですね(笑)その後、中高一貫の南山(なんざん)に進学した後、京都大学に現役合格されていますが、高校3年になったとき、そもそも受験できるような状況ではなかったっというのは本当ですか?
「本当です。高校受験がなかったので完全に油断してずっと遊んでました。気づいたら、受験まであと1年しか残ってないという状況なのに、勉強がまったく足りていなかったんです。しかも、勉強するにも机に向かうこと自体がめちゃくちゃ苦手でした」
──そんな状態で、どうやって勉強を……?
「まず勉強は、机に向かわなくても、とにかく何かしらやっていようという発想に変えました。受験勉強に関しては暗記が必要だと考えていたので、今日はこの解答パターンを覚えるぞというものを、電車の中、お風呂中、お手洗いみたいなスキマ時間に常に覚えていました」
──相当努力されたんですね......。
「本当に寝ているとき以外は勉強していたという自信があります(笑)。食事中で参考書を見られないときでも、暗記していた内容を思い出して曖昧(あいまい)なところを復習していました。〇〇時代の出来事を、1から順番に言っていくみたいな」
泣きながら勉強する毎日。過信していた自分に見い出した“無理なもの”
──京都大学卒業後、法科大学院に進学されたとのことですが、弁護士を目指していたんですか?
「いえ、特にこだわりはなかったです。京都大学も“法学部に行きたい!”というより、センター試験の結果を見て“配点的に法学部がいちばん入学できる可能性が高い”と思ったからなんです」
──そういうことだったんですね。あくまで自分を分析して、最善の行動を選んでいたと。
「はい、なので自分の身の振り方を悩んだまま、法科大学院へ行ったというのもあって、法律家を目指すという意志が周囲よりも弱かったんですよね。そこで法律の勉強が楽しくなればよかったんですけど、最後まで楽しくなれませんでした」
──少し苦しい2年間になってしまったんですね。
「そうです。あと、特待生で入学したので学費が免除になったんですけど、成績が悪くなって特待生ではなくなると免除がなくなるんですよね。家族に迷惑をかけられないし、どのテストも落とせないというプレッシャーがすごかったです。テスト前は泣きながら法律の知識を詰め込んでいました」
──学費免除という状況だからこそ起きたプレッシャーだったんですね。
「周囲は弁護士になるために生き生きと勉強しているし、他の先輩はすでに就職して働いているし、その意識のギャップがある中で、“時間を無駄にしているのでは”と思いながらハードな勉強を続けるのはつらかったですね。勉強がつらすぎて、ひどいときは2週間高熱で寝込んで蕁麻疹(じんましん)も出ました。それでもなんとか卒業はしました」
──ではかなり嫌な過去というか……。
「でも今は、いい経験かなって思っています」
──そうなんですか!?
「それまでは自分を過信していたんですよね。法科大学院に入るまでは、夢はなかったけど、どこでもある程度はやっていけるんじゃないかと思っていました。 でも実際に体験してみて“無理なものは無理なんだ”ということに気づけたのは大きかったです」
──つらかった分、学べることも多かったんですね。
麻雀ライフの始まりは国士無双! 雀荘でつかんだプロになるきっかけ
──麻雀にのめり込んだのは、京都大学法学部に入学前に、先輩から麻雀を誘われたことがきっかけとか?
「そうです。入学式の前のオリエンテーションで、先輩が麻雀しようよって誘ってくれて。1局目で親の国士無双(麻雀でいちばん点数が高い「役満」)をあがって、麻雀ライフが始まりました。われながら本当に漫画みたいな話ですよね(笑)」
──なかなか狙ってもできるものではないですが、最初から恐ろしいですね……。その後はサークルとかで麻雀をしていたんですか?
「サークルでもやっていたんですけど、人数がそろわなくなってきたのもあって、先輩と雀荘(じゃんそう)に遊びに行くことが増えたんです。すると雀荘の人に、“女の子で麻雀打てるの珍しいね。よかったら働かない?”って言われて、アルバイトとして雀荘で打っていましたね。そこからプロの雀士に会うことになり、プロテストを受けることをすすめられました。
私が続けられていたのが麻雀しかなかったですし、やっぱり好きなものじゃないと続けられないなと思ったので」
◇ ◇ ◇
終始、穏やかな雰囲気で進行した、松嶋桃さんへのインタビュー。当時はつらかった思い出も、今となっては自分の人生に役に立っていると、笑顔で話してくれました。
松嶋桃さんへのインタビュー第2弾では、松嶋さんのタレントとしての活動、Mリーグの実況としてのプロ意識、そして今後の展望についてインタビューします。
(取材・文/翌檜 佑哉)
【PROFILE】
松嶋桃(まつしま・もも) ◎1984年、愛知県生まれ。プロ雀士。麻雀プロリーグ「Mリーグ」公式実況担当。京都大学に現役合格、法科大学院(ロースクール)修了の才女。4歳から麻雀に触れ、法科大学院卒業後、プロ雀士の試験をトップ合格し、アイドル雀士としての地位を確立した。人気クイズ番組『パネルクイズアタック25』『クイズタイムショック』『東大王』といった有名番組に多数出演し、頭脳派タレントとしても知られる。著書に『京大卒雀士『戦わない』受験勉強法』(ベストセラーズ刊)がある。