「東京砂漠」の1位に納得。「CMのイメージで、ひとつの完成形ができた」
第1位は、クール・ファイブが '76年に発表した「東京砂漠」の、ソロになってからのセルフカバー・バージョン。クール・ファイブ時代は、オリコン最高19位、累計売上約17万枚で、前川が歌唱した中では11番手と堅調なヒット曲だが、ストリーミングではレコードが大ヒットした「長崎は今日も雨だった」(オリコン最高2位、累計約73万枚)を差し置いて堂々の1位だ。前川自身は、どう感じているのだろうか。
「この順位はお客様の納得度だと思いますね。『長崎は今日も雨だった』はレコードが1位だけど、Spotifyでは2位ですよね? その違いを僕は、なんとなくわかります。『長崎~』は地域限定で、歌詞の内容も、“今日の長崎は、別に雨は降ってないよ?”と長崎の話になる。これに対し『東京砂漠』は、みんなが共感できる。東京というものに憧れて、そこでは“砂漠”のように渇望した思いがあって……。“雨”よりも、“東京の砂漠”に共感する。その差かもしれませんね。
歌というものは、押しつけても人気が出るものじゃないんですよ。もちろん、僕らは売れたらいいなと思って、どの楽曲に対しても“みなさんにいい曲だと思ってもらいたい、歌ってもらいたい”という同じ気持ちを持っているんですが」
『東京砂漠』は、その共感度に加えて、'80年代から'90年代にダイア建設(当時)のCMソングに起用されたことで覚えている人も多いだろう。
「あれも大きなきっかけだと思います! ダイア建設のCMは、本当にいいコマーシャルでした。当時のダイア建設の社長さんが『東京砂漠』を大好きで、“CMのBGMとして流したい”とおっしゃって。新宿の高層ビルの屋上でタキシードを着た男たちがバスケットボールをしている、というシーンで流してくれたんです」
「長崎は今日も雨だった」のほうは、前川自身が出演するCM(グリコ『ワンタッチカレー』)で前川が ♪あなたひとり、にんじん~、とコミカルな替え歌を披露していたのを覚えている人もいるだろうが、確かに「東京砂漠」が東京の夜景の中で流れている映像は、前川の力強い歌声により、“大都会の中でも大切な人とともに生きていける”といったメッセージ性が生まれるほど、鮮烈なイメージがあった。
「僕の『フィクションのように』(キリンビールCM曲)を作ってくださった井上大輔さんが、よく“自分はレコーディングで満足するのではなく、映像とセットになった音楽を作りたいんだ”とおっしゃっていたんです。そう考えると『東京砂漠』は、あのCMのイメージで、ひとつの完成形ができたんでしょうね」
この「東京砂漠」の作詞は、ちあきなおみ「喝采」や五木ひろし「ふたりの夜明け」などドラマティックな歌詞に定評のある吉田旺が手がけ、作曲は、当時のリーダーである内山田洋が担当している。
「実は、この曲はアルバム候補の中の1曲だったんです。アルバム用として12曲が集められて、その中からシングル用の新曲を決めていたんですね。当時のクール・ファイブは売れていたから、たくさんの曲が集まってきて、その中から僕が決めました。内山田洋の曲だから、というわけではなくて、純粋にいいものを選びました。特に、歌詞がすてきだと思ったんですよね」
ちなみに、当時オリコン最高2位、累計50万枚ヒットとなった「噂の女」も、前川のセレクトだったそう。ただ、こちらはSpotify24位と、現在の人気は「東京砂漠」ほどではないようだ。
「『噂の女』のほうは、“男に捨てられたのよ~”って描いている世界が限られていて、現代とマッチしていないのでしょうね。しつこい感じがするのかも(笑)。それに比べると『東京砂漠』は今、さらっと聴いてもいい歌なんです」