「歩いて行こう」10位ランクインに驚き! “いい歌とヒットする歌の違い”とは

 ランキングに戻ると、第10位に'20年のシングル「歩いて行こう」、第15位に'21年のシングル「胸の汽笛は今も」が入っている。特に「歩いて行こう」は、'12年から九州地方を中心に放送されているテレビ番組『前川清の笑顔まんてんタビ好キ』(テレビ朝日系)のオープニングテーマとなっていることもあり、'02年の「ひまわり」以来、CDシングルでは18年ぶりにオリコン週間TOP20入りとなった。長男でシンガーソングライターの紘毅が作詞・作曲した穏やかな曲調で、コーラスには次女の侑那も参加しており、ほのぼのとさせるナンバーだ。

「『歩いて行こう』が10位とは……、このランキングの中でいちばん驚きました。『タビ好キ』は、おじいちゃん、おばあちゃんに向けた番組ですが、主題歌のほうは若い方も聴いてくれているということですね! でも、コロナ禍ということもあり、“頑張っていこう”という前向きな歌を、みなさんが聴きたいというのがあるのかもしれませんね」

「歩いて行こう」は次女の侑那が描いたジャケット写真からも“ほのぼの感”が伝わってくる

 他方、「胸の汽笛は今も」のほうは、現時点ではオリコンTOP100には入っていない。しかし、SpotifyではCDヒット曲の「歩いて行こう」の半数近く再生されており、ノンタイアップ曲ということも考慮すれば、堅調な人気曲と言えよう。このことをご本人に説明したところ、“いい歌とヒットする歌の違い”についての持論を語ってくれた。

「クール・ファイブ時代にも『恋唄』('72年)というシングル曲があり、当時、全然売れないと言われたんですよ(注:実際には、オリコン最高14位、累計17万枚でスマッシュヒット作なのだが、その前作『この愛に生きて』と、その次作『そして、神戸』がともにオリコンTOP10入り、累計30万枚以上の大ヒットだったので、世間的には『恋唄』で失速したかのように見られがちだった)。

 でも、故郷の長崎に帰ったとき、同級生がカラオケで歌ってくれて、いい歌だなと改めて思いました。さすが阿久悠先生の歌詞だと。そんな風に、“実はいい歌だから”と、カラオケなどによって徐々に広がったような気がしますね。スナックである人が歌って、そこにいた女性が“いい歌ね”と言って、また違う場所で歌う。そうやって広まっていって、今、意外と知られている曲になっていると思います。

 だから、『胸の汽笛は今も』も、そういうタイプかもしれませんね。これは、有馬三恵子さん('19年逝去)の遺作ですが、実は10年前にできていたんです。でも、当時60代の僕には歌詞がよくわからず、お蔵入りになっていて。その後、(作曲の)都志見隆さんに“今の僕に合うものを”と頼んだとき、“前に作ったのがあるじゃないですか”と言われて歌詞を読み直してみたら、“こんなにいい歌詞だったんだ”と気づいて、出すことにしました。お客様にとっても、CDは買わなくとも、いい歌だと思って聴きながら昔をしのんで相づちを打てる、なんとなく心に響く歌なのかもしれませんね

 確かに、同じ都志見隆作品である「男と女の破片」のような、孤独感や哀愁で相手のハートをぐっと掴(つか)むタイプの楽曲ではないものの、穏やかな気持ちになって明日も頑張ろうと思える、まさに“いい歌”だと実感できる。

「胸の汽笛は今も」のジャケットは切ないながらも、どこか力強さも感じられる