50代以降、夢中になれるものの見つけ方

──本当に映画がお好きなんだなって伝わってきます。50代になると夢中になれるものが見つけづらいという声をよく聞きますが、どのようにすれば見つかると思いますか?

「50代って年齢的にも仕事も落ち着いてきて、好きなこともできる年齢ですよね。そこで(やりたいことが)見つからないってことですか!?」

──そうですね。自分の周りの40代でもすでに「疲れてしまった」と言っている人もいますね……。

「紙一重の世界ですよね。ひとつ間違ったら、全然何もやる気がなくなってしまうところを、そこから面白いものを見つけるのが、僕はちょっと得意ってことですかね。人に言うほどではないけれど、自分が面白がれたらいいんですよね。例えば『鉄男』では、(コマ撮りの)アニメーションの表現を映画に持ち込むことが面白かった。レコードで同じフレーズを何度も聴くみたいに、ワンシーン、ワンカットを何回観ても面白いものを作るのに没頭したんです

──塚本さんのように、どうすればひとつのことをやり遂げられるのでしょうか。

初期モチベーションをどれだけキープできるかが大事だと思うんです。ずっと舐(な)めていてもおいしい飴(あめ)みたいに、自分にとって1個、面白いと思える遊び道具があるといい。その飴の味を思い出して、いつ発動しても面白がれるんですよ。映画を作ること自体はいつも同じなんですけれど、その中でちょっとでも新しい遊び道具を自分なりに見つけています。それを自分以外のプロデューサーとかに説明しても伝わりにくいだろうなっていう感覚もあって……。そこが難しいですね」

──面白いものを見つけるのが、大事なのですね。

「今はちょっと息苦しくて大変な世の中ですよね。何かを作り出すときの初期衝動やモチベーションが、楽しいことではなくて世の中への不安とかになっている部分もある。できればそんな世の中じゃなかったらいいのにって思います。“やらざるをえない”がモチベーションになっているのはちょっとつらい感じがするんです。何かやるにしても“二番目に面白い”だとダメなんですよ。いちばん面白いっていうのが大事なんです。僕の場合は仕事自体が好きなことなので、そこは恵まれているのかもしれません。映画を作ることも、出演することも自分がやりたくてやっていることだから」

塚本晋也監督 撮影/佐藤靖彦

──最近、塚本さんがハマっているものはありますか?

このあいだ、軽トラックの荷台にタイニーハウスを作ったんです。タイニーハウスを作るので多いのが、60歳とか定年後の年代だそうなんです。僕も定年後のコロナ禍の中で始めました。映画以外で本当にやりたいこと! 人が止めようが笑おうがやりたいことだったんです(笑)

──ワクワク感が伝わってきます。

「タイニーハウスを作るときには、昔からやりたかったことだから少し緊張して儀式めいていましたね(笑)。でもみんな60代になると、本当はやりたかったことってあるんじゃないかって思う。僕は映画が関係していないとモチベーションが上がらないので(笑)、タイニーハウスの様子は豊岡劇場というミニシアターの応援動画としてYouTubeにもアップしています」

世界最小(たぶん)タイニイハウス・キャンピングカー、ミニシアターを訪れる 豊岡劇場応援動画

──若い世代からも「やりたいことが見つからない」という言葉を聞きますが、何かアドバイスはありますか?

やっぱり初期衝動を感じるものをやるっていうのがいちばん大事なんじゃないかと思います。例えば、周りに言ったときに納得はしてもらえるけれど、実は自分のモチベーションは薄れているっていうものより、誰も理解してくれないかもしれないけれど、本当はこっちがやりたいんだよっていうほうが大事。それは何でもいいと思うんです。例えば女装してみたいとか、人に危害を加えること以外で、人には言えないことだったとしてもやってみたいこと、それをやってみればいいんじゃないかなって思います」

──初期衝動って見落としがちですが、原動力として大事なのですね。

例えば、“ハッ”って目が覚めたときにベッドの上で、身体中にチューブがつながっている。もう自分が死ぬときまで管は取れないという瞬間がいつか来るかもしれない。“ああ……やっておけばよかった”というふうにならないために、僕は映画以外ではタイニーハウスを作っとかなきゃと思いました。そうやって、自分がベッドの上にいるときのことをしょっちゅう考えちゃいますね。子どものころは20歳になるなんてすごく先だと思っていたけれど、そのときは確実に来ましたし。気づけば、63歳になっていますからね