お互いの顔が見えなかったからこそ生まれた“お風呂デュエット”のハーモニー

──おふたりは劇中で「上を向いて歩こう」を“お風呂デュエット”されていますが、事前に相談したり歌合わせをされたりしたのですか。

天童 実は一切しなかったんです。クリスさんが後ろの男湯にいらっしゃるんですけど、本番の1回で息がバチッと合ったんですよね。普通、コラボやデュエットをするときは必ず横に相手の方がいらっしゃって、目と目を合わせたり呼吸を合わせたりするものですが、今回は男湯と女湯という隔たりはありましたが、とてもいい気があの場にありました。

クリス 僕も天童さんのお顔が見えなかったからこそ、逆に入りやすかったところはあります。お互いの姿が見えないのでリズムの調整もできないから、そのときの気持ちで歌うしかないっていう感じで。でもその分、すごい経験ができましたね。

天童 実を言うと、私はあのとき泣きそうだったんです。でも声が震えてしまいますから「私が泣いたらダメだ!」と思い、必死にこらえました。われながらすごいハーモニーになっていて、私たちが演じるふたりの関係性をより深く感じていただけるシーンになっていると思います。

(C)2023 映画「湯道」製作委員会

──ぶっつけ本番であのハーモニーとは、さすがです! 歌っていて特にグッときたフレーズはありましたか?

天童 「幸せは雲の上に~」のところですね。つらいことがあっても「まるきん温泉」で出会って、そこから幸せにつながっている人たちがいるということとリンクしていいなと思いました。また、浴室という天然エコーがかかった空間で響きが素晴らしくよかったんです。私たちがいつも歌っているホールとは全然違うので、もう1曲歌いたいくらいでした(笑)。

──いつか「銭湯コンサート」を開催する日があるかもしれませんね。

クリス 実は僕、ちょうどこの映画でそういう企画があって銭湯で歌ってきたんですよ。そのときに浴室の響きをお店ごとに確認してみたのですが、それぞれで違ってすごいなと思いました。造りもどこも別物で、そういうところも素晴らしかったです。

クリス・ハートさん 撮影/junko

──本作には個性豊かな登場人物がたくさん登場しますが、おふたりが特に気になるキャラクターや、印象的なシーンがあれば教えてください。

天童 素晴らしいキャストのみなさんが勢ぞろいで、それぞれの個性も出されているので、どの登場人物も興味深かったです。それぞれの生活や人生にはいろいろなことがあるけれど、それらをお湯に流して、お風呂につかって嫌なことは忘れて、気持ちを温める。ファンタジックな要素もありながらリアルな部分もあって、ステキなシーンがたくさんありました。

クリス どの人にも感動するところがあるんですけど、僕が何よりも心に残ったのは「まるきん温泉」という場所でみんながつながっているところです。みなさんそれぞれの思い出があって、そこでの支え合いがある。「まるきん温泉」という場所自体がひとつのキャラクターになりそうな感じがあるんですよね。