クリスさんにいつか歌ってほしい天童さんの1曲とは?
──本作の紹介の中で「『湯の心』には日本の文化がある」と書かれていましたが、日本文化のひとつに演歌があります。天童さんといえば日本を代表する「演歌の女王」でいらっしゃいますが、クリスさんは天童さんや演歌にどんな印象をお持ちですか?
クリス 後輩の立場で偉そうなことは言えませんが、歌詞の内容を力強く気持ちを込めて歌われる天童さんを、毎回ステージで拝見するたびに感動しています。海外の人も天童さんのことを「歌がすごく上手」って言うんですけど、僕は天童さんの表現力もすごいなと思っています。僕も天童さんのように、日本の文化や季節を歌でみなさんに届けられるように頑張りたいなと思います。
──J-POPとはまた違った、演歌ならではの日本語の使い方がありますよね。
クリス 演歌って日本語の勉強にもなるんですよ。日本の景色や季節が、気持ちや思い出などいろいろなことにつながっていて。そういうことは日本に住まないとなかなか理解できないことだと思うので、演歌は深いなと思います。
──天童さんは、いつかクリスさんとご一緒してみたかったそうですね。
天童 私は以前から、クリスさんが持っているハートの温かさが印象に残っているんです。そのぬくもりを英語ではなく日本語で歌い伝えてもらったときに、聴いている方は胸にずしっと来るんですよね。なので、1曲でもいいですから、いつか演歌を歌っていただけないかなと思っているんですよ。
──そうですよね! 何か歌ってほしいリクエスト曲はありますか?
天童 私の持ち歌に「道頓堀人情」(とんぼりにんじょう)という曲があるのですが、その中の「負けたらあかんで 東京に」という大阪弁の歌詞を、クリスさんが歌って表現してもらうとどんな感じになるのか聴いてみたいって、いつも思っていたんです。でも気が弱いからなかなか言えなくて。今日この場をお借りして、思い切って言ってみました(笑)。
クリス ありがとうございます。まだ力不足でうまく歌えないと思うので、練習します(笑)。
──今作の『湯道』も演歌も、ひとつの道を極めるのは大変なことだと思います。おふたりが「歌」という道を極めるために心がけていることや、大切にされていることはありますか。
天童 昔から「他人に優しく、自分に厳しく」と言いますが、やっぱり人に優しくなることですね。一生懸命頑張っているみなさんを私も応援したいですし、そういう気持ちをいつも忘れないでいたいと思っています。
クリス その歌のパッションを大切にして、自分らしく、自分にしかできない歌を歌うことが何よりも大事だと思います。そうじゃないと、なかなか形にならなくてただ苦しいだけだと思うので。これからも歌を通して人とつながることを大切にしていきたいです。
──作中では、さまざまな人が幸せそうにお湯につかるシーンが出てきましたが、おふたりは普段どんな“入浴タイム”を過ごしていらっしゃいますか?
天童 私は自宅のお風呂で「明日はこんなお仕事があるからこういう衣装を着よう」といった考え事もするし、「今日の歌い方ちょっとおかしかったぞ」と思ったらもうひとりの私がいて、「どこよ?」「どうしてうまくいけなかったの?」と、ひとり反省会もします。
クリス 僕はこの映画のおかげで、改めてお風呂に入る大切さを感じました。海外ではシャワー文化なので、あまり湯船には入らないし、入ってもちょっと洗って出るといった感じなんですよね。
撮影はすごく緊張していたのですが、「まるきん温泉」の大きなお風呂に入ったらちょっと落ち着いてきて、リラックスしてすごく集中できたんです。なので、撮影が終わってからはわりと自宅の湯船に入るようになりました。僕はよく身体が硬いって言われるんですけど、身体や健康のためにも、お風呂に入る意味があるなと思っています。
──クリスさんは今まで銭湯に行ったことはありますか?
クリス 一度、海外の友人と一緒に行ったことがあります。海外の人は裸になるのが恥ずかしいというイメージを持っている人が多いのですが、そのときは友人もリラックスできて、楽しくていい思い出になりました。その後はなかなか銭湯に行く機会がなかったのですが、今回の映画の影響でまた行きたいなと思っているので、次はぜひ息子と一緒に行きたいですね。
──では最後に、おふたりが本作の出演を通して感じたことを教えてください。
天童 本作を観ると、まるでお風呂に入ったときのようなぬくもりを感じていただけるんじゃないかと思います。そのぬくもりは、きっと多くの方が忘れかけていることなのではないでしょうか。私もこの作品に出させていただいてから、お風呂のお湯をすごく大事にするようになりました。最近はお風呂に入るときに「今から入らせていただきます」「ありがとうございます」という気持ちが自然にわくようになったんです。
この作品に携わらせていただいて、元気、勇気、そして温かさを伝えるのは、歌も同じだなと思いました。なので、私のコンサートに来てくださったみなさんに「元気になったわ」と言っていただける歌手を目指して、これからも頑張ろうと思います。
クリス 改めて、日本の文化は素晴らしいなと思いました。銭湯の歴史や文化もそうですが、ただの場所というだけでなく、コミュニティやいろんな人の思い出がつながっているのはすごく大事だなと思います。それを日本人の方にも忘れてほしくないし、海外の方にも「銭湯」という日本文化を紹介したいなと思いました。
(取材・文/根津香菜子、編集/福アニー、撮影/junko、ヘアメイク/市岡利之(天童よしみ)、井原結衣(クリス・ハート))
【Profile】
●天童よしみ(てんどう・よしみ)
和歌山県出身・大阪府育ち。1971年に読売テレビ『全日本歌謡選手権』で10週を勝ち抜き、最年少で7代目チャンピオンとなり、’72年に「風が吹く」でデビュー。「道頓堀人情」「珍島物語」などのヒットを飛ばす中、ディズニー映画『ブラザー・ベア』(2003年)では劇中歌を歌うなど、演歌の枠に収まらずに活躍を続ける。日本レコード大賞では最優秀歌唱賞を3度受賞。NHK紅白歌合戦では紅組のトリを3度務めるなど不動の人気を誇り続け、’22年に歌手生活50周年を迎えた。
●クリス・ハート(くりす・はーと)
1984年生まれ、アメリカ・サンフランシスコ出身。2012年に日本テレビ『のどじまん ザ!ワールド』に出演。見事優勝を飾り、翌年に「home」でデビュー。リリースしたカバーアルバムやオリジナル曲がヒットし、NHK紅白歌合戦に2年連続出場を果たす。’22年には Amazon Prime Video にて配信された『ザ・マスクド・シンガー』シーズン2に出演し大きな話題となった。
【Information】
●映画『湯道』
出演:生田斗真、濱田岳、橋本環奈、小日向文世/天童よしみ、クリス・ハート、戸田恵子、寺島進、厚切りジェイソン、浅野和之、笹野高史、吉行和子、ウエンツ瑛士、朝日奈央、梶原善、大水洋介、堀内敬子、森カンナ、藤田朋子、生見愛瑠、吉田鋼太郎(特別出演)、窪田正孝(特別出演)、夏木マリ、角野卓造、柄本明
企画・脚本:小山薫堂
監督:鈴木雅之
公開日:2023年2月23日(木・祝)
配給:東宝
(C)2023 映画「湯道」製作委員会