間違いをただすためのアクションは、正義か? 悪か?
ゲームについての解説は書籍に任せつつ、ここでは『ペルソナ5』が現代的なディテールを帯びている点について追いかけてみたい。
主人公たちの怪盗団は「怪盗お願いチャンネル」というWebサイトで評価されており、その支持率が重要なキーワードになっている。中には主人公らを貶(おとし)めるようなグループも登場し、ネットを味方にするための情報操作・世論操作が描かれる流れは、フェイクニュースやポストトゥルースをかなりストレートに表現している。
この話題が世界的に大きな衝撃を与えたのは2016年ではないかと思う。アメリカの大統領選挙とイギリスのEU離脱を問う国民投票などで、フェイクニュースサイトを出自とするでたらめな情報やヘイトスピーチが次々と報道され、それらが真偽不明のままSNSを通じて拡散。2つの選挙において、支持率や投票結果に大きな影響を与えたといわれている。
その後は多くのフェイクニュースが広まるなど悪化の一途をたどり、こういった情報を広めたり信じている層を「オルタナ右翼」「陰謀論者」と表現するようになったのも、ここ5年ほどの話題である。
『ゲームが教える世界の論点』の冒頭では「ゲームは政治に影響する」という核たる部分を記す際に、藤田氏も彼らの存在について触れ、その危うさを書いている。このように記した部分と、『ペルソナ5』が語られる部分は別々の章であるが、筆者としてはかなり身近な話題であるがゆえに、2つの箇所は地続きのように見えてしまう。
『ペルソナ5』の主人公らは、正義感ゆえに悪事を働く人たちを暴こうとする。そしてゲーム内の“大衆”もまた、正義感ゆえに”匿名”で主人公らを攻撃するシーンがある。本作はゲームということもあり「悪人」の立場が明確に描かれ、あくまで主人公としてプレイヤーは置かれている。
さて、現実にはゲームのようにわかりやすい「悪人」はいるのだろうか? そもそも「正義」「悪」とは何が理由で誰が決めるのだろうか?
折しも『ペルソナ5』のリリース日は’16年9月15日。先に説明したポストトゥルースやフェイクニュースが盛り上がったタイミングと被(かぶ)っている。この状況を予見していたかはわからないが、不正や間違いを覆(くつがえ)そうとネット上でさまざまなアクションをする人たちが持つ危うさや団結力を、偶然にも描いているように思える。