いきすぎた正義感が、無用な暴力となってまた傷つけていく
一度ゲームの世界から離れ、現実の世界に目を向けてみよう。ここ数年では、ネット上での誹謗中傷行為も話題を集めている。
'99年ごろに起こった「スマイリーキクチ中傷被害事件」(※)を筆頭に、2010年代後半に入るとYouTuberやインフルエンサーに対する批判・中傷が相次いだ。
※スマイリーキクチ中傷被害事件:お笑いタレント・スマイリーキクチが、凶悪事件の実行犯であるとする誹謗・中傷被害を長期間にわたり受けた事件。
特に女子プロレスラーの木村花さんがSNS上での誹謗中傷をキッカケに自殺し、その後のニュース報道を通じて「ネット上での誹謗中傷行為」に関して敏感になった方もいるであろう。
「しょせん他人事(ひとごと)だから」と思って放つひと言でも、何百・何千と集まれば大きな否定として受け取られてしまう。芸能人・インフルエンサーだけではなく、学校の裏サイトやSNSの裏垢からネットいじめへと発展するパターンは現在でも続いている。
この記事を書いている’23年2月現在、日本では「寿司テロ炎上」の話題が毎日のように報道されている。大手回転寿司店にて若い男性が迷惑行為をしている動画がSNS上にアップされた。
もちろん、加害者男性がやらかしたことは悪徳で不品行であり、お店側の損害は計り知れない。お客のマナーについて議論が進むことも、筆者はむしろよいことだと感じている。
だがそれと同じくらいに、加害者男性の住所・氏名や家族のプライバシーを暴露し、その後の人生を台無しにしてしまうような赤の他人による私刑がネット上で巻き起こっている状況だ。少年が通っていた高校にはクレームの電話が相次ぎ「これ以上、学校に迷惑をかけられない」と自主退学したという。
不品行な振る舞いをした若い男性に対し、店側が裁判をするとアナウンスをしたうえで、ここまで大きなバッシングを与えている状況なのだ。
このような様子を見ていると、まさに『ペルソナ5』で描かれた「不正や間違いを覆そうとネット上でアクションする人たち」が、ゲームの中だけの世界ではないことが容易にわかるだろう。それもかなり過熱化し、行き過ぎた形でだ。
いきすぎた正義感が無用な暴力となってまた傷つけていく、不徳な悪行を起こす人を監視する社会と化した日本に、本作品の表現と本書の評価はピッタリとハマっているといえるだろう。
(文・草野虹/編集・FM中西)