デラシネが好きなのは、『舞いあがれ!』の繊細さと優しさが詰まっているからだ。そこで詠む貴司の短歌が繊細で優しい。航空学校時代に舞にぐいぐい近づいてきた柏木学生(目黒蓮)を好きになれず、貴司にずっと肩入れしていた。卒業後、柏木が舞の実家を訪ね、貴司と話すシーンがあったから、「貴司、頑張れ」と見守っていた。すると、舞が貴司の歌をそらんじた。《トビウオが飛ぶとき 他の魚は知る 水の外にも 世界があると》。やったね、貴司。勝利を確信した瞬間だった。
柏木と別れた舞の部屋には、別な貴司の短歌。《君が行く 新たな道を 照らすよう 千億の星に 頼んでおいた》。これが万葉集にある恋の歌の本歌取りだとわかるのは後のことだが、確かに静かな熱が伝わってくる歌だった。
さて、ここからが『舞いあがれ!』の脚本家・桑原亮子さんの話になる。『舞いあがれ!』の短歌は、すべて桑原さんの作だ。桑原さん、歌人なのだ。2011年の歌会始の儀(お題は「葉」)で入選もしている。《霜ひかる 朴葉拾ひて見渡せば 散りしものらへ 陽の差す時刻》という入選歌を読むと、『舞いあがれ!』だなーと思う。「散りしもの」に目をやり、「陽の差す」希望を詠む。そんな価値観が『舞いあがれ!』につながると感じるのだ。
伝えてくれるのは、小さなエピソードたちだ。例えば貴司が公園で開いた子ども短歌教室。遠巻きに眺めていた女の子に舞が、「よかったら、参加せえへん?」と誘う。女の子は「お金持ってへん」と言う。「お金いらんで、やってみる?」と舞。「お金」を意識せざるをえない今の子どもと、それを温かく包む舞。『舞いあがれ!』は静かな佳作だと思う。