ドイヒーな生活を丁寧に綴るのは、音読して心地よいリズムだから
──エッセイご執筆のテーマは身の回りにさまざまある中で、どんな話題を意識的に選ばれましたか?
大和書房の編集さんから「日記形式で」とご指定いただき、日常での気づきを素直に形にしていきました。退社してから新しく体験することばかりで、執筆ネタも周りにたくさんある環境。もともとスケジュール帳に2〜3行ほどの日記をつけていたこともあって、心の内を書き留めることは苦じゃなかったです。
──誰にも読ませない前提で日記を書く人が多い中、堀井さんのエッセイは他者が読むことを念頭に置き、日記をパブリックにひらいていくように書かれている印象を受けました。そう執筆することで、堀井さんにどんな収穫や新たな気づきがありましたか?
「どうしてこんなに悲しくて気持ちが掻き乱されるんだろう」とか「なんで当時あんなに切なくて苦しくなったんだろう」とか、出来事に対して生じた感情の理由や原因を考えるようになりました。2〜3行の走り書きではなし得なかった自浄作用があるんじゃないかな。書いたことで気持ちに一度区切りがつくと、次に進みやすくなる気がします。
──『OVER THE SUN』でも「執筆はセラピー」と話題に挙がっていましたよね。一方で最近のメールテーマである「ドイヒーな生活を丁寧に語る」を、堀井さんは「ファスティングもどき」で実践されたのかな、と感じる語り口に笑ってしまいました。
そうなんですよ! (ジェーン・)スーちゃんがこのエッセイを読んだときに「あなた、これいつもやってることをただ丁寧に書いただけじゃん!」って指摘されました。「よくこんなに文芸作品みたく丹念に描き込めるな」って(笑)。
《撮影の日は刻々と迫ってきている。
突然、前から興味はあったが会社員時代にはできなかったファスティングを決意。
ネットで調べると、一般的なやり方として、前2日の準備食、中3日の断食、後2日の回復食。そして期間中は1日に水2リットルと酵素ドリンクを飲むらしいということがわかった。
正式なものは、ちゃんとした施設で事前に体をチェックしたり、アドバイザーと一緒に進めたりと準備が必要らしいが、私にはもう時間がない。
その時、尾道でなぜか購入していた、万田酵素が目に入った。
ああ、酵素がここに。これは万田酵素も後押ししてくれているということか。》
(『一旦、退社。 50歳からの独立日記』より)
──感嘆する「ああ、酵素がここに」で吹き出しました(爆笑)。知らず知らずに丁寧になったのか、それとも意識してそう書いたのか、どちらですか?
もちろん意識して丁寧に(笑)。「ファスティングもどき」はいつもしゃべっているように書いたんですが、文章は丁寧にまとめるクセがあるんですよね。ナレーションや朗読でいろんな文章を読んできたから、心地よく感じるリズムが頭に刻まれているのかもしれません。太宰(治)や芥川(龍之介)の小説に登場する言葉遣いが好きなので。
──独立されフリーランスになったいま、堀井さんの生き方やライフスタイルに注目が集まっています。他者の言葉をわかりやすく伝えるアナウンサーというお仕事もしつつ、ご自身が「語り手」となる場面が局アナ時代より格段に増えることを、どのように受け止めていらっしゃいますか?
局アナ時代は自分のことをしゃべる機会はなかったですね。テレビでもラジオでも、最後に時間が余ったらゲストに話をお聞きしてきました。何より「自分語りし始めるアナウンサーってどうなの?」って感覚もありましたし。パーソナリティーではなくアシスタント色の強い番組を数多く経験してきたこともあって、思うところがあっても「飲み込む」ことを常としてきたんですよね。ずっと話をお聞きする立場だったから、自分の言葉で話すことに慣れていません。でも局アナでいたころとは意識を変えていかないと、と感じています。
◇ ◇ ◇
インタビュー後編では、堀井さんのプライベートに焦点を当て、子育てを終えて”卒母“ライフを満喫中の日常に迫ります!
(取材・文/岡山朋代、編集/福アニー、撮影/松嶋愛)
【Information】
●書籍『一旦、退社。 50歳からの独立日記』(堀井美香著、大和書房刊)
50歳でTBSを退社した著者が見本も模範もないフリーの世界に出た1年を綴った日記。新しい仕事、卒母、服装、美容まで赤裸々に!