知らなかった人に興味を持ってもらう“玄関”でありたい

 法人化した2006年以降の『CINRA.NET』は、編集部員(と言っても柏井氏を含め2名)がキュレーションする音楽を中心としたカルチャーメディアとして、本格的なスタートを切った。ミュージシャンにインタビューをして生の言葉を伝えるなど、作り手への愛がこもったメディアとして、少しずつファンを獲得していく。

 並行して柏井氏は、「才能あるアーティストたちをバックアップしたい」との言葉どおり、無名だけれど有望なミュージシャンを紹介する場を次々と設計していった。そのひとつが、2007年から現在まで続くライブイベント『exPoP!!!!!』。毎月4~5組の新人アーティストたちをなんと無料で見られるこのイベントは、早耳の音楽リスナーに愛されるだけでなく、若きアーティストたちの登竜門として憧れの場となっている。過去にはKing Gnuやあいみょん、SEKAI NO OWARI、indigo la Endらも出演者陣に名を連ねた。

早耳リスナーが集う無料音楽イベント『exPoP!!!!!』には、のちにビッグになるメンツも出演。15年以上続ける思いを語る柏井万作氏 撮影/福アニー

僕のやりたいことって、知らない人にいいものを知ってもらう“玄関”みたいな場所を作ることだったんですよ。『exPoP!!!!!』もそういう場でありたかったから、テレアポ営業でスポンサーを獲得して、なんとか無料で続けてきました(※最初の6回のみ有料での開催)。

 もちろん、僕らが用意する“玄関”からいい音楽を知ってもらったら、それ以降の専門的な領域に対して、お客さんもきちんとお金を払ってほしいと思っています。CINRAの事業全体で、その棲み分けはすごく意識していました。それもあって『exPoP !!!!!』は絶対に土日にはやらないと決めています。土日はちゃんとチケット代を払ってライブを見に行ってほしいなと思っているので。

『CINRA.NET』を有料の雑誌じゃなく、無料で見られるウェブメディアという形態にしたのも、同じ理由からです。読むのに知識が必要なほど専門的な情報には、ちゃんとお金が払われてほしいし、そこを我々ウェブメディアが食いつぶすべきではないと思っています。僕らのつくる記事やイベントから新しいカルチャーに興味を持ってもらって、それがきっかけで自分と向き合ったり、カルチャーに救われたり。そこのきっかけづくりを本気でやっていこうというのが、自分の考え方だったんです