日本国内だけ見ていればいい時代では、当然ない

 そのほかにも『NiEW』の始める新しい事業には、まさにオルタナティブな仕掛けが満載だ。そのひとつには、FMラジオ局・J-WAVEの番組『GRAND MARQUEE』とのパートナーシップが挙げられる。

アーティストをサポートしていく中で、日本国内だけ見ていればいい時代ではもうなくなったなと当然思っていて。どんどんアジアや欧米に進出することは、いまアーティスト自身もトライしているし、僕らみたいな会社が一番やっていかなきゃいけないことだなと思ったんです。J-WAVEさんも“TOKYO POP CULTUREを世界へ”というミッションをお持ちで、タッグを組もうという話になりました。

 具体的には、『GRAND MARQUEE』の中に『NiEW』のコーナーを設けてもらって、そこで紹介した最新のカルチャー情報を日々Podcastでも配信していきます。日本はまだ黎明期ですが、世界的には音声コンテンツ市場の拡大がめざましくて、日本もこれからぐっと音声メディアを使う人が増えていくと思います。カルチャー情報へアクセスする方法もどんどん多様化しているから、文字で読みたい人はウェブサイト、動画で見たい人はYouTube、音声で聞きたい人向けにPodcastと、それぞれスタートしていきたいと思っています

 さらにそのPodcastは、4月4日にローンチしたばかりの新カルチャーウェブメディア、その名も『NiEW』のサイト上から、直接聴取できる仕組みが実装される。

WEBメディアに再生プレイヤーを実装するの、20年前に『CINRA MAGAZINE』でもやっていたんですが(笑)、昨日のニュースを耳で聴くみたいな感じで、記事を見ながらPodcastを聴いてもらえるサイトのつくりにしました。カルチャー情報を毎日発信するPodcastを作ったらどうなるんだろうと思って。意外とみんな、移動中とかに聴いてくれるような気がしたんですよね

ダイレクトなアーティスト支援、J-WAVEとの協業、新メディアを日本語・英語・中国語版でローンチと、精力的に活動する柏井万作氏 撮影/福アニー

『NiEW』のサイトはカルチャーシーンのニュースやコラム、レビュー、アーティストインタビューなど多岐にわたるコンテンツを届けるメディアだが、驚くべきことに、日本語版だけでなく、英語版と中国語版も同時にローンチした。この点にこそ、柏井氏の“オルタナティブ”精神が宿っていると言える。

欧米やアジアの人々から見て面白い!と思ってもらえる日本のカルチャー情報を届けたいと思っています。今までだったら、僕は特に洋楽が大好きだったから海外に対する憧れが強くて、日本のカルチャーが海外に追いつく、みたいな感覚でやってきた部分があったし、日本の多くのミュージシャンも、向こうの音楽をリファレンスにしたサウンド感を目指してきたと思うんですよね。でもそれって、当の海外の人から見たらあまり面白くないだろうなと思うし、そういう感覚でものづくりをしても、グローバルの中で半歩先を行くもの、オルタナティブなものってなかなか生まれないわけで。

 そんな状況が一変してきて、去年あたりからSpotifyで日本の音楽がかなり聴かれるようになってきたんですよ。それも、例えばYOASOBIや藤井風さんといった、日本独自の文化から出てきた音楽が世界で聴かれるようになってきたんです。特にYOASOBIは、海外にはない日本独自のネットカルチャー的な文脈から生まれてきたもので、ああいうポップスがグローバルから見たらすごく新鮮なものに映るんだというのは、大きな発見でした。

 日本のシティポップも世界中でブームになっていますが、それも『はっぴぃえんど』や山下達郎さんが作ってきたものが、世界からみてオルタナティブな音楽として評価されたということですよね。彼らだって洋楽に憧れがあったけど、それを日本独自にどう作り直せるんだろうって考えて、1970年代にはもう完成させていた。それが日本の音楽文化の潮流のひとつになって、藤井風さんのような世界的なヒットにつながっていったと思うんです。そういう視点をもって、世界に対して日本のカルチャーをどうプレゼンテーションできるのか、少しずつトライしてみたいと思っています