「植物の根はアンパンマン的」知られざる土壌内の世界

──藤原さんが植物で特に好きな部位はどこでしょう?

「僕はお花を買うときは“きれいだな”と思うし、育てているレタスを見ているときは、“葉っぱがおいしそうだな”と思うし、お米というイネの種子を食べるときには、“香ばしくてうまいな”と感じるんですが、今回書いていて思ったのは、根が面白いなと。見えないところに人の本質が出るといいますが、それは植物も同じだと思ったんですね」

──根の魅力とは何でしょう?

「ひと言で言うなら、生き物と共生することです。自分の光合成したでんぷんを無償で放出して、土に住まわせて微生物を寄ってこさせる。それからセンサーを持っていて、細かい根が土の中をまさぐって連携プレーをする。根毛は単細胞なので短い期間で死ぬんですが、それは土の中の生き物の餌(えさ)になる。だから、根はいわば“アンパンマン的”なんですよ。“自分を食べて”と言ってみんなを集めて、にぎやかな地下世界を作り上げている。その土壌内の世界の豊穣さを、私たちはもっと知るべきだと思います」

現代人は“待つ”ことを忘れすぎている

──他に現代人が植物から学ぶべきことはありますか?

「待つ、ということです。私たちはいろいろな場面で待つことを忘れすぎてはいないでしょうか。何でもこちらから追いかけすぎて、息が切れて疲れることが多い。例えば、本を読んだらじっくり寝かせて、頭の中で考えが出てくるまで待つ、という行為よりも、次々に押し寄せる映像を確認して終わる。人と話すときには、ゆっくりと耳を傾けるのではなく、言葉尻をつかまえて表層的に議論を処理する。そうではなくて、太陽が出てこなかったら、電気で人工太陽を作るのではなく、出てくるまで工夫して待つ、とか、水不足であるならば、ペットボトルを大量生産して用意するのではなく、環境破壊しない程度の水の利用の仕方を考える、とか。

 そんな風に、自分の背丈に合った、人と自然、人と人との間の取り方を考えないといけない。現在、科学者から提供されているデータを信じるならば地球の環境は限界まで破壊されているので、もう一度、植物から真剣に学ばないといけないでしょう」

──巻末では「植物について考えることは、初めて会った人なのに昔から知っている気がすると錯覚する、あの感覚に似ている」とありました。

「初めて会った人だけれど、昔どこかで話したことがある気がすることはないでしょうか。“ご縁”という言葉でしか言い表せないことがあると思います。同じように、実は私たち人間と植物は、大昔には共通の祖先を持っている。それが分化したものとして、私たちは存在している。だから植物を観察していると、人間の中にある植物性のようなものとの対話が始まるのではないでしょうか。植物を見れば見るほど、懐かしさを感じる。そして、その中に自分を発見して、ドキッとすることがあります」

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 めくるめく植物の世界。植物について思いを巡らせることは、藤原さんが言うように、私たち自身のあり方、生き方自体を考えることにもつながるのでしょう。これを機に、文明の力にすべてを委ねてあくせくと過ごす毎日を、見つめ直してみるのもいいのかもしれません。

(取材・文/篠原諄也)


【PROFILE】
藤原辰史(ふじはら・たつし) ◎1976年生まれ。2002年、京都大学人間・環境学研究科中途退学。同年、京都大学人文科学研究所助手、東京大学農学生命科学研究科講師を経て、2021年4月から京都大学人文科学研究所准教授。専門は農業史、食の思想史。主な著作に『ナチスのキッチン』(決定版=共和国、河合隼雄学芸賞)、『分解の哲学』(青土社、サントリー学芸賞)、『給食の歴史』(岩波新書、辻静雄食文化賞)、『縁食論』(ミシマ社)、『農の原理の史的研究』(創元社)、『中学生から知りたいウクライナのこと』(ミシマ社、小山哲と共著)など。

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