スマホなし生活は無理にチャレンジすることでもない

──私は時間の余白を予定で埋めたくなってしまうので、その場の流れで動く旅に憧れます。ただ、そういうタイプの人間は同時に「スマホを置いた旅」にハードルの高さを感じてしまうのですが……手始めにやるとしたら、どんなことがいいですか?

 この作品でも、スマホなし旅の前に「予行演習」をしていますが……よく言われるのは「寝室にスマホを置かない」ですよね。さらにやるなら散歩や近所のカフェでお茶するときにスマホを持って行かない、あたりでしょうか。

 最近はスマホ決済できる店も増えていますし、持ち歩くことは「悪」じゃない。だから、手放すことをすすめているわけではなく、この作品も「スマホを置いて旅したら、僕はこういう体験をしました」という報告でしかありません。

──それでもきっと、やってみたいと感じている人はいるんじゃないかな。

 そういえば旅先で出会った人たちに「スマホを持たずに旅しているんです」とお伝えしたときの反応が、わりとポジティブだったんですよね。みなさん、心のどこかでモヤモヤしている思いがあるのかもしれません。でも無理にチャレンジすることでもないんじゃないかな。

ふかわりょうさん 撮影/junko

──スマホを置いた旅を実践することで、あらかじめふかわさんの中で「こういう収穫が得られるんだろうな」という予想があったと思うんですが……それを超えてどんな豊かさに出会えましたか?

 和紙の素晴らしさ。これに尽きます。

──「書き心地が素晴らしい」と本作の中でおっしゃっていましたよね。

 想定外の魅力でした。「こんなにも素晴らしいものなんだ!」って感動しました。PCやスマホで文字を打つ習慣があるからこそ、宿で記帳するときのインクが染み込む様子にぞわぞわっとしました。人間ってそういうアナログな感触をキャッチできるじゃないですか。バシバシ刺激されました。

──日常に戻っても、和紙を生活の中に取り入れているんですか?

 おみやげをたくさん買ってきたのと、書籍の扉に和紙を使いました。あとやっぱり住むなら障子があるような和室の部屋がいい、とも。和紙に囲まれる空間が必要だなって。和紙を見ているだけで酒の肴になるんですよ。

──えー! つまみになります?(爆笑)

 (即答して)なりますよ! 和紙を見ながらお酒を楽しめるくらい、虜(とりこ)になりましたね。触り心地もいいし、見ているだけで心が和んで落ち着くんですよ。和食屋さんでも和紙の上に料理が載っているほうが日本酒もおいしく感じる気がして。こんなに和紙の魅力に取り憑かれることは予想していなかったですね。思わず紙漉き体験に向かったほどですから。もう「和紙熱」が収まらなくて(笑)。