思い出される『あさが来た』柄本佑の名台詞

 と、まとめたところで最後に少し違う話を。「ネット号泣」の記事を読み、『あさが来た』(2015年度後期)を思い出した。マイ朝ドラ史上、ベストの長台詞があったのだ。それはヒロイン(波瑠)の義兄(柄本佑)の、死を前にしての台詞。明治維新という時代の波に乗れず、みかん農家になる老舗両替屋の跡取りだった。

2024年大河ドラマ『光る君へ』藤原道長役発表会見に参加した柄本佑 撮影/齋藤周造

 みかん農家になってよかった、誰に頭を下げるでも、愛想笑いをするでもなく、土の上に立ち、家を建て、子を育てた、こんな誇りはない。孫まで見せてもらい、ありがたすぎてお釣りがくる。だから笑ってくれ。そう妻に語りかける柄本さんのうまさに、文字どおり号泣した。

 彼の妻、つまりヒロインの姉を演じていたのは宮﨑あおいさんだった。宮﨑さんは『らんまん』でナレーションを担当している。だからリアルでの登場を期待する声もある──そういうネット記事も読んだ。大賛成だ。

映画『真実』ジャパンプレミアに登壇した宮﨑あおい 撮影/佐藤靖彦

 賛成ついでに提案をひとつ。『あさが来た』の魅力は、ヒロイン夫婦と姉夫婦の人生が巧みに交錯するところにあった。だから『らんまん』も、ふたつの夫婦を描いていってはどうだろうか。万太郎夫婦と、綾&竹雄夫婦。それが女性視聴者をつなぎ止める最良の作戦だと、かなり本気で思っている。


《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。