田邊の研究室で利用される万太郎の悲哀

 7週の万太郎は、以前よりカッコよかった。英語のヒアリングもスピーキングも得意、日本の植物学の現在地もわかっている。それでも心沸き立つまではいかず、うーん、万太郎お坊ちゃん、田邊にしてやられそうだなーと眺めていた。が35話、わが心に異変が。初めて万太郎に心が動いたのだ。

 それは、学生とのやりとりだった。書生仕様の和服姿の3人の横で、上等そうな洋装の万太郎。ほら、こういうところだぞと見ていたら、そこから万太郎の悲哀が浮かんできたのだ。

『らんまん』主人公・万太郎役の神木隆之介 撮影/吉岡竜紀

 きっかけは標本作り。万太郎、まずはきれいに作ってみせる。植物名の特定に移ると、「フランシェ・サバティエの書いた『日本産植物目録』の2巻」「ツュンベリーの『日本産植物図譜』」と外国の文献をすらすら挙げ、あっという間に済ませてしまう。その鮮やかさ、手際のよさに学生の1人が、先輩にこうささやいた。「何と言うか、ものすごく便利な人が来ましたね」。

 ドキッとした。対等な関係の相手を「便利な人」とは言わない。何気ない言葉にこそ本音がある。どんなに優秀でも万太郎は「自分とは別な人」、はっきり書くなら「下の人」。それが学生たちの意識だとわかった。ささやいた学生が丸眼鏡で、見るからに善人なのもこたえた。『まんぷく』(2018年度後期)でも丸眼鏡をかけ、ほっこり青年を演じていた俳優で、前原滉さんというそうだ。優しそうな彼の口から出る「便利な人」という言葉は、徳永や田邊の口から出るより心が痛んだ。あ、これって万太郎への思い入れ? 7週目にして、やっとそんなふうに思った私だった。