かしぶち哲郎とのタッグは17曲も! 『Love Fair』で「新しい時代が来たなと」

 他にも、岡田有希子への楽曲提供の特徴としては、ムーンライダーズのドラマーであった、かしぶち哲郎が作詞・作曲・編曲のいずれかで参加した楽曲が17曲と、全アイドルの中でも群を抜いて多いことだ。このSpotifyランキングでも、13位に幻のシングル曲「花のイマージュ」、14位に7thシングル「Love Fair」がランクイン。

岡田のまなざしにドキッとする、「Love Fair」のジャケット写真 

 当時、ムーンライダーズとしても、ソロの作家としても大きなヒット実績のない中で、'85年のアルバム『FAIRY』から彼を起用し始めたのは、どういった経緯からだろうか。

「『花のイマージュ』のとき、私はすでに担当を外れていますが、かしぶちさんを岡田有希子の制作スタッフに引き寄せたのは私です。後任のディレクターも、かしぶちさんが好きだったんでしょうね。

 かしぶちさん自身、ムーンライダースの中で、メインではなく独特な味のある曲を歌っていらしたんです。メンバーのみなさんとは、依頼する前からプライベートで面識があり、有希子ちゃんのレコーディングを進めているうちに、“この子は、かなり難しい歌でも歌えるぞ”と気づいて、今こそチャンスだと思いました。アイドル時代のうちに、どんな歌でも歌えるようになっておけば、この先のアーティスト人生に生かしていけるのではと信じて、事務所や(プロデューサーである)渡辺有三さんにも提案したらOKしてもらえました

 ムーンライダーズからは、ギタリストである白井良明がポップス系の作家として幅広く活躍し、國吉も堀ちえみの楽曲を多数依頼しているが、

「ちえみちゃんには明るい曲調が似合うので、白井良明さんメインでお願いしました。かしぶちさんの曲は、しっとりとしていて、一見シンプルなのに、歌ってみるととても難しいんですよね。まりやさんの曲を歌った人は他にもいましたが、かしぶちさんや小室さんの曲を歌ったアイドルがいなかったのと、私自身、新しいもの好きだったことから依頼を決めたんです」

 かしぶちが詞曲を手がけた中で初めてシングルとなった「Love Fair」は、歌詞も抽象的だし、メロディーも音数が少なく、アイドルポップスとはかけ離れた、当時としても前衛的なイメージのある楽曲だ。

「独特な世界観を持った、不思議な構造の歌ですよね。『Love Fair』がシングルになったときは、心の中で“バンザーイ!”って言っていました。サンミュージックの会議で、今度のシングルはコレ! って決まったと聞いて、有三さんと思わず顔を見合わせたくらい驚いて、“新しい時代が来たな”って思いましたね」

國吉らスタッフ陣が常に唯一無二の音楽を求めていたからこそ、数々の名曲が生まれたのだろう 撮影/山田智絵

 ちなみに、本作はあまりに斬新だったためか、ランキング番組『ザ・ベストテン』では、ラジオやハガキリクエスト部門がいつもほど伸びず、総合で4作続いていたベストテン入りを逃している。オリコンではTOP10入りを継続し、グリコ「セシルチョコレート」のCMソングとなった効果からか、累計売上も前作より伸びているものの、『ザ・ベストテン』が世間的なヒットの基準だった当時、國吉は周囲から責められなかったのだろうか。

「(ベストテンに)入らなかったんですね? 今、初めて知りました。でも、単純な曲のほうがすぐに人々に理解される反面、飽きられやすいでしょうし、こういった曲が長く愛されたらいいなと思っていましたね。実際、勢いだけで売れすぎて本人も疲弊しちゃって、やがて売れなくなるよりは、確実に及第点のセールスを維持して長く愛されるほうが、アーティストのためでもありますよね。

 でも当時は“そんなやり方をして、いったい何枚プラスで売れるの?”と偉い人に責められてはトイレでよく泣いていましただから、ある程度の売り上げを維持しつつ、制作費を確保するというハンドリングをいろいろ考えましたね。これ以上やったら次の制作費が厳しいな、とか。そういう点でも有三さんは優れたプロデューサーでした。さまざまな音楽の要素、ヒットの要素をいくつも考えて、最適な結論を出すというのが素晴らしかったんです」

岡田の主演ドラマ『禁じられたマリコ』(TBS系)のロケ現場にて 撮影/藤沢謙