岡田有希子の曲は「“B面用”はない。シングルのA面を張れる自信作ばかり」
そしてSpotify第16位には、そのB面曲「二人のブルー・トレイン」がランクイン。竹内まりやの歌詞も、杉真理のメロディーも、アイドルポップスとしては実にわかりやすく優れた作品で、岡田有希子のボーカルも非の打ちどころがなく、他のアイドルならTOP10ヒットでも間違いないくらいだ。ただ、「Love Fair」や前出の小室作品と比べると、新鮮味は少なく感じるかもしれない。
「この曲も、杉さんらしいアメリカンポップス風で、難しいだろうけど大丈夫かなと思ったんですが、有希子ちゃんはこちらの希望どおりに歌えちゃいましたね。決してこの曲の出来が悪いのではなく、『Love Fair』と同時期のシングル候補だったので、必然的にこちらがB面になったんです。基本的に、有希子ちゃんの曲は“B面用”には作っておらず、シングルのA面でも大丈夫!、という自信作ばかりです。ただ、そういう曲ばかりを集めてアルバムを作ると、ちょっと“ごった煮感”が出てしまうので、同じアレンジャーの方に依頼するなど一貫性を持たせて世界観を大事にしました。松任谷正隆さんの起用は、私が大好きだったからです(笑)」
Spotify第22位には、松任谷正隆が作曲・編曲をした「あなたを忘れる魔法があれば」がランクイン。同アルバムのオリジナル曲としては最上位だ。
「これは私が大好きだった康珍化さんに歌詞をお願いしたバラードです。もしかして、この曲がいちばん難易度が高いかも? と思いましたが、これも有希子ちゃんは歌えましたね。特にアルバム曲は、3時間のあいだに4曲ほどレコーディングする必要がありましたから、今から考えてもすごいことだと思います」
國吉美織から現代のリスナーたちに、感謝を込めて伝えたいメッセージとは?
國吉は現在、音楽ユニット・Milly la foretとして活動しつつ、コミュニティFMのFMカオン(84.2MHz、神奈川県央エリア)でトーク番組を担当し、普段の音楽活動やディレクター時代のエピソードなども語っている。また、9月には、“水の中から見た世界”をコンセプトにしたライブを開くにあたって、その楽曲や映像制作に時間をかけているという。
最後に、現在のリスナーに向けてメッセージをお願いすると、
「必死に作った音楽を、決して使い捨てではなく、長く大切に聴いていただけているということに、本当に感謝しています。私自身、どの曲も本当に大好きで、どれも可愛いので、お好きなものを自由に聴いてくださったらうれしいです!」
と、笑顔で語ってくれた。
これは社会全体に言えることだが、とかく、自分が担当しているうちに数字の成果を上げようと瞬間の記録だけを追い求める傾向が、情報化社会にともなってますます顕著になっている。しかし、今回の岡田有希子作品のように、長く聴かれることを目指せば、それが当時は生まれていない世代に伝わったり、海外で聴かれるようになったり、“記憶”されるものとして残っていくものも確実に存在するのだ。こうしたヒット現象は、私たちの生き方にも大きなヒントを与えてくれることだろう。
(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)
【PROFILE】
國吉美織(くによし・みおり) ◎クリエーター。イギリス留学後、上智大学軽音楽部でバンド結成。EAST WESTなどさまざまなコンテストで最優秀キーボーディスト賞、作曲賞、バンド賞などを受賞。卒業後ミュージシャンの道を親の猛反対で断念、ポニーキャニオンに入社し
女性第一号の音楽ディレクターとなる。が、上司の「あなたらしい生き方を!」というアドバイスで退社、念願だった創作&演奏活動を再開し、現在に至る。クレジットは、 ディレクター、プロデューサー、ボーカル、コーラス、キーボード、ピアノ、リコーダー、ベース、ティンウィッスル、葦笛、ゲムスホルン、タンバリン、プログラミング、レコーディングエンジニア、ミキシングエンジニア、レタリング、イラストレーティング、フォトグラフ、映像制作、作詞、作曲、編曲、などなど。