林哲司と組んだ「思い出のビーチクラブ」は売野自身の体験談が歌詞に!
稲垣潤一の話に戻すと、Spotify第15位にも「思い出のビーチクラブ」がランクイン。'80年代の稲垣はアルバムチャートの1位か2位というヒット常連に対し、シングルは「ドラマティック・レイン」以外オリコンTOP10ヒットがなかったこともあり、こちらも、累計約3万枚というセールス。だが、サブスクではシティポップの代表曲として挙げられるほどの人気曲だ。
「『思い出のビーチクラブ』も大好きな歌。これは『夏のクラクション』とも実はつながっているんだ。昔、三浦半島の佐島まで、国道134号線を走ってよく通っていて。そこは周りがすべて海で、まさに“素敵すぎる”景色なんだよ(笑)。その佐島に向かうまでのところにボートハウスがあって、そこはボートからも直接上がってこられるという、まさに理想の場所だった。そこから油壷の方に行くと、諸磯湾に廃墟となった“諸磯ビーチクラブ”というのがあったんだ。中に入ってみたら、もう周りが草だらけの、25メートルのプールの跡があって。だから、この歌詞の《ビーチクラブも 今は閉鎖(とざ)されて 水のないプールだけ》ってホントの話なんだよ」
そういったリアルな景色と、夏の日の恋の思い出が見事にオーバーラップしていることが、シティポップの名曲として語られる要因だろう。なお、本作は'87年の日本作曲大賞を受賞したことも当時、話題となった。
「(作曲を担当した)林哲司さんとは、最近でも菊池桃子さんの'22年の新曲『Again』を一緒に作らせてもらいました。林さんには、稲垣さんとのトークイベントで、“売野さんってさ、(歌詞の中に)ダイヤモンドが多いと思わない?”って言われたことがあったね。でも、稲垣さんの曲には“ダイヤモンド”は1回くらいしか使ったことなかったから、稲垣さんはピンと来ていなくて(笑)」
そんな冗談交じりの苦言が言えるほど大の仲良しで、40年間もともに仕事ができるというのは、なんと“素敵すぎる”関係だろうか。取材中、売野からはさまざまな本音が飛び出して面白いし、林哲司も世界的に大ヒットとなっている松原みきへの提供曲「真夜中のドア~Stay with me~」について、“自分の中で特別にいい作品とは思っていない”と語るなど、決して周りに媚びない。そういった、ふたりの“本音で接したい”というキャラクターが、互いを引き寄せ合っているのだろう。
次回は、1986オメガトライブ(のちにカルロス・トシキ&オメガトライブ)、矢沢永吉、そして意外に多いアニメソングのヒットについても迫ってみたい。
(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)
【PROFILE】
売野雅勇(うりの・まさお) ◎上智大学文学部英文科卒業。 コピーライター、ファッション誌編集長を経て、1981年、ラッツ&スター『星屑のダンスホール』などを書き作詞家として活動を始める。 1982年、中森明菜『少女A』のヒットにより作詞活動に専念。以降はチェッカーズや河合奈保子、近藤真彦、シブがき隊、荻野目洋子、菊池桃子に数多くの作品を提供し、'80年代アイドルブームの一翼を担う。'90年代は中西圭三、矢沢永吉、坂本龍一、中谷美紀らともヒット曲を輩出。近年は、さかいゆう、山内惠介、藤あや子など幅広い歌手の作詞も手がけている。
“売野雅勇 作詞活動40周年記念 オフィシャル・プロジェクト MIND CIRCUS SPECIAL SHOW「それでも、世界は、美しい」”開催!
・日時:2023年7月15日(土) 16時開場/17時開演
・会場:東京国際フォーラム ホールA
・料金:全席指定 税込15000円
・音楽監督:船山基紀
・出演:麻倉未稀 / 稲垣潤一 / 荻野目洋子 / 近藤房之助 / さかいゆう / 杉山清貴 / 東京パフォーマンスドール(木原さとみ 他) / 中島愛 / 中西圭三 / 中村雅俊 / Beverly / 藤井尚之 / 藤井フミヤ / MAX LUX / 望月琉叶 / 森口博子 / 山内惠介 / 山本達彦 / 横山剣 ほか(50音順。都合により出演者が変更になる場合あり)
※演目詳細やチケット情報は特設サイトへ→https://masaourino40.com/
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