コスト意識に目覚めた万太郎、寂しさを隠せない竹雄

 さて次は万太郎だ。プロポーズ予告は置いておき、実は成長した姿を見せていた。こちらはすごく驚きだった。金銭感覚が、いきなり進歩していたのだ。

 始まりは植物学雑誌。学生たちと話して出版を思い立ち、教授の田邊(要潤)に認めてもらおうとする。すると、ひょんなことから「学会誌」にすればよいということになった。怒ったのが講師の大窪(今野浩喜)だ。学会の事務局長は自分で、自分は大変忙しいのだといきり立つ。そこからの万太郎が今までとまったく違ったのだ。

 編集も印刷も自分たちがやる、大窪にお願いするのは、自分たちの監督と費用面だけだと説明する。「学会誌として出すわけですから、まあ、経費は学会にご負担していただけると」。そんなふうに話を持っていく。なんと、万太郎にコスト意識が芽生えているではないか。そう驚いていると、さらなる進化に出会う。大窪に「学会誌ですき、事務局長のお言葉をいただかんと」と巻頭文の執筆を依頼するのだ。ことを円滑に進めるため、持ち上げてみせる。万太郎、ビジネス書でも読んだのか。

 万太郎の変化に敏感なのが、竹雄だった。雑誌の話が進展する以前、竹雄は万太郎の体力が人並み以上になっていることに改めて気づく。「病弱な万太郎」の見張り役を、タキ(松坂慶子)に命じられたのが幼き日の竹雄だ。「丈夫な万太郎」を前に、すごく複雑な表情を浮かべる。万太郎の成長は喜ぶべきことだが、己の存在意義が失われることでもある。それらの感情が重なって、一瞬の寂しさとなって表れる。別れの予感がする。竹雄と私が重なった。勤め人はつらいし、友との別れは切ない。こういう琴線に触れる感じが、万太郎には足りないと思う。

 そんなこんなで3人は、いよいよ大人として自分の道を歩み出す。その分岐点になりそうな第9週だった。


《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。