大好きな矢沢永吉との仕事は、1通の手紙から始まった
続いて、第20位の「PURE GOLD」、第29位「バラードよ永遠に」など、矢沢永吉への提供曲がTOP60に5曲もランクインしていることも興味深い。「PURE GOLD」以外に「SOMEBODY'S NIGHT」といったヒット・シングルのほか、アルバム『情事』に収録された官能的なロックンロール「FLESH AND BLOOD」など、アルバム曲も人気だ。
「41位に『青空』が入っているのがうれしいなあ。矢沢さんの場合は曲先(曲ができてから、後で詞をのせる作り方)で、僕もそのメロディーが大好きだね。これは、まず普通のラブソングを書いたんだけれど、なんだかちょっと違う気がして、ビートルズをリスペクトする男が登場する歌詞を書き直して2つ出したんだ。そうしたら矢沢さんが、後者のほうもいいねって言ってくださって、実は2つの歌詞をくっつけちゃった。だから、今まで誰にも指摘されていないんだけれど、歌詞の中で“お前”と“君”が出てくるという、ちょっと風変わりなものになっているんだ。
『FLESH AND BLOOD』は、ストレートにセックスのことを書いたよ。曲が来たときからエネルギッシュでギンギンな感じがしたから、それに合う歌詞にした。アルバムタイトルは『情事』だけれど、矢沢さんからはそういったコンセプトがあることなど一切、指示がなかったよ」
矢沢とそれほどまでに意思疎通が図れている理由を聞くと、「そもそも大ファンなんだよ!」とテンションが上がった。
「僕はキャロルのころからの矢沢ファンで、文京公会堂の1stコンサートも行ったほど。とはいえ、僕の作詞の方針は、自分のことを気に入ってくれる人に届けたいという思いが強いから、自分からは一度も営業したことはないんだよね。その代わり、どう考えてもヒットしそうにない案件でも、いただいた仕事はすべて受けるようにしてきたんだ。
だから、これだけ幅広く書いていたら、(自分で営業をしなくても)矢沢さんから、いつか依頼をいただけるはずだと、ずっと待っていたんだ。ただ矢沢さんには、自分がもっとも尊敬している山川啓介さんと、次に大好きなちあき哲也さんがたくさん書いているから、同じ作詞家の人とずっとやるのが好きなんだろうと、半ば諦めていて。
そうしたら、'88年に発売されたアルバム「共犯者」では(それまで起用されていない)大津あきらさんが書いたのを知って、当時の矢沢さんのディレクターさんからのアドバイスもあり、矢沢さんに手紙を書くことになって。それで、ファンレターみたいな文章(笑)と、10編のタイトル候補を出したら、小倉のライブで初めてお会いできた。そこからすぐ、「SOMEBODY'S NIGHT」('89年)の歌詞の依頼が来たんだ。最初からシングルの予定で依頼してくださったそうで、うれしかったなあ」