ガンダムシリーズ「サイレント・ヴォイス」は当時をしのぐ人気に
さらに意外なヒット曲として、売野雅勇にはアニメや特撮系の作詞曲も多い。このSpotifyランキングでは、第8位に森口博子「水の星へ愛をこめて」、第17位に、ひろえ純「サイレント・ヴォイス」、第21位に初のヒット曲となった井上大輔「めぐりあい」（ここまで3作すべてが『機動戦士ガンダム』主題歌シリーズ）、第33位に中村由真「Dang Dang 気になる」(『美味しんぼ』。'23年6月現在、契約上の理由でSpotifyは未配信)、第34位にMIO「エルガイム」、第42位に鮎川麻弥「風のノー・リプライ」（『重戦機エルガイム』）、第37位に池田政典「NIGHT OF SUMMER SIDE」（『きまぐれオレンジ☆ロード』）、第39位にSUGIZOによるカバーの「めぐりあい（feat.GLIM SPANKY）」、第40位に影山ヒロノブ「光戦隊マスクマン」、さらに第57位には森口博子の『GUNDAM COVERS』シリーズより「サイレント・ヴォイス with寺井尚子」と、実に10曲もランクインしているのだ。これだけヒットを飛ばしているからには、アニソンや特撮ソングを作る際、何か秘策などがあるのだろうか。
「アニメには総じて、作品中に神様や宇宙のような神秘的なものが出てくるんだよ。肉体には神様が宿っているという考えが、根底にあるんじゃないかな。僕自身は、特定の宗教じゃないけれど宗教心は強いので、それが歌詞に自然に表れて、うまくマッチしているんだと思う。だからアニメの曲がこんなに上位だなんてうれしいね！」
少々余談になるが、そういった信心深い作風は、例えば麻倉未稀に提供した壮大なバラード「人生は美しい」など、アニソン以外にも少なくない。だが、Spotifyで人気なのは圧倒的にアニソンなので、それだけ相性がよいのだろう。特に「水の星へ愛をこめて」は、'18年に実施された『発表！全ガンダム大投票』でも全361曲中の頂点に立ったほどの大人気曲だ。
そして、第17位のひろえ純「サイレント・ヴォイス」の人気にも注目したい。発売当時（'98年）はオリコン最高46位、TOP100内の累計シングル売上は1.5万枚（売野作品の中でも売上順で100位圏外）。ひろえ純自身も、本作以外にチャートインせず、普通なら誰もが忘れていそうなレベルのヒット曲だったが、ここでは余裕で100万回再生以上となる超人気曲なのだ。これは、森口博子がアルバム『GUNDAM COVERS 2』にてカバーしたことも、人気に拍車をかけたのだろう。
これについては、なぜ人気なのか、売野に改めて考察してもらった。
「これは、まず作曲を担当した芹澤廣明さんのメロディの完成度がとても高いんだよ。一度聴いたら耳から離れないような温かさと懐かしさ、そして切なさがあって、何度でも聴きたくなるような中毒性のあるメロディなんだ。簡単そうに見えて、普通の人にはとても作れない。もう最初の1小節目から、名曲の風格があふれてるよね。たった3音で！ 天才的だよ。
それから、ひろえ純さんという歌手と出会ったのも大きなヒットの要因。あの声でこの歌詞を歌われると、心が張り裂けるような懐かしさと、切なさを感じさせるんだ。サビに行くまでに号泣する準備はできているのに、追い討ちをかけるように、大傑作のサビが始まる。《WOW WOW WOW》この頭の歌詞のついてない、心の叫びのような3つの音だよ、ここでも3音！
そして、この高揚感を受け止めてくれるのが、《優しい目をした誰かに逢いたい》というフレーズ。決定的な矢が心に放たれる。ここの部分は、ちょっと神話みたいな響きがあるよね。冒険を始めるベクトルを無意識に感じるのかも。思えばタイトル自体も“声なき声”だからね。未知の世界からの呼ぶ声、運命の呼ぶ声かもしれない。ロマンチックなんだよ！」
'86年当時、さほどヒットしていないがゆえに、そこまで絶賛されていなかった楽曲についても、売野や芹澤がチェッカーズにも勝るとも劣らない情熱を注いでいたことが知れるのが感慨深い。また、そうした熱量を持って作られた楽曲が、発表から35年前後たって正当な高評価を受けるという事実にも胸が熱くなる。
最終回となる第3弾は、主に売野が書く女性ボーカル曲の人気についても触れていきたい。
（取材・文／人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝）
【PROFILE】
売野雅勇（うりの・まさお） ◎上智大学文学部英文科卒業。 コピーライター、ファッション誌編集長を経て、1981年、ラッツ＆スター『星屑のダンスホール』などを書き作詞家として活動を始める。 1982年、中森明菜『少女A』のヒットにより作詞活動に専念。以降はチェッカーズや河合奈保子、近藤真彦、シブがき隊、荻野目洋子、菊池桃子に数多くの作品を提供し、'80年代アイドルブームの一翼を担う。'90年代は中西圭三、矢沢永吉、坂本龍一、中谷美紀らともヒット曲を輩出。近年は、さかいゆう、山内惠介、藤あや子など幅広い歌手の作詞も手がけている。
◎“売野雅勇 作詞活動40周年記念 オフィシャル・プロジェクト MIND CIRCUS SPECIAL SHOW「それでも、世界は、美しい」”開催！
・日時：2023年7月15日(土) 16時開場／17時開演
・会場：東京国際フォーラム ホールA
・料金：全席指定 税込15000円
・音楽監督：船山基紀
・出演：麻倉未稀 / 稲垣潤一 / 荻野目洋子 / 近藤房之助 / さかいゆう / 杉山清貴 / 東京パフォーマンスドール(木原さとみ 他) / 中島愛 / 中西圭三 / 中村雅俊 / Beverly / 藤井尚之 / 藤井フミヤ / MAX LUX / 望月琉叶 / 森口博子 / 山内惠介 / 山本達彦 / 横山剣 ほか（50音順。都合により出演者が変更になる場合あり）
※演目詳細やチケット情報は特設サイトへ→https://masaourino40.com/
◎売野雅勇が自ら選曲したプレイリスト・売野雅勇セレクション～ティーンネイジ・ドリーマーが7/5より【おとラボ】で公開予定！
【おとラボ】URL→https://linktr.ee/otolabo
◎売野雅勇 公式Facebook→Facebook.com/urinomasao
◎売野雅勇 公式Twitter→https://twitter.com/urino222
