恵まれた万太郎と大窪の悩みには「泣けない」?

 父は旗本の出で、東京府知事から元老院の議官になった。三男の自分は留学をしても就職先が見つからず、勝海舟の紹介で植物学教室のご用掛に採用された。必死に学んだが、植物学教室に来たことをずっと恥じていた。それなのに万太郎は、ただ草花が好きだと笑っていた。このままでは誰も万太郎に勝てない。そうみんな気づいている。だから自分も植物を好きになりたい。万太郎の横で、植物に抱く心を知りたい。

 「それは違いますき」。それが万太郎の反応だった。植物学雑誌の創刊号に載った大窪の「まめづたらん」の論文、好きでないならどうしてあんなに素敵な原稿が書けるのか。そう語る。まめづたらんは生きる場所を探して、岩の上に着生する。そこに引かれたのだろうと大窪の心を読み、「どうしてここへ来たかより、それでもみんなぁ、今ここにおって、今日も植物学を生きゆう。それだけでええがじゃと思います」、そう言うのだ。

 過去よりも未来。それが万太郎の哲学だとわかった。自己肯定感にあふれる人だから、他人にも寛大になれる。そう分析し、泣いてもいいシーンだろうな、と思う。が、涙は出てこない。エリートの話だからだと思う。万太郎も大窪も、結局は恵まれた人たちだ。2人の会話から“いい話”が出てきても、「ふーん」としか思えない。

『らんまん』主人公・槙野万太郎を演じる神木隆之介 撮影/近藤陽介

 どうしても、『あまちゃん』と比べてしまう。NHK BSプレミアムで『らんまん』の前に再放送されている。毎日のように、泣きそうになる。例えば第15週では、オタク男子2人にもっていかれた。中学生か高校生くらいの大きめ男子と、小さめ男子で、ヒロインのアキ(のん)が所属するアイドルグループの握手会に来る。大きめ男子がアキにこう言う。「あの、こいつ、小野寺ちゃん推しだったんですけど」。小さめ男子が続ける。「こいつも小野寺ちゃん推しなんで、話し合いの結果、今日から俺、アキちゃん推しでいくことにしました」。アキは「そうか、ありがとー」と言っていた。

 クラスの一軍には決して入れない男子2人が、話し合って「推し」を分けることにした。アキはそのおこぼれに預かった。笑う場面なのに泣けた。オタク男子同士の友情と知恵、素直なアキ。それを感じて、グッとくるのだ。石板印刷機を即金で買ったり、勝海舟に推薦してもらったり、そういう人はどうぞご自由に。そんなふうに思ってしまう。