最近、ハマり役が多い成海璃子に期待したい!

 と、どうも『らんまん』に素直になれなく、申し訳ない気持ちだ。だから最後に、15週の見せ場をもうひとつ紹介する。十徳長屋のえい(成海璃子)と隼人(大東駿介)夫婦が、100円を返しに来た。もともとは隼人が万太郎のスーツケースを盗み、中に入っていた植物標本を万太郎が100円で買い取ったのだ。「おまえもおまえの戦いをしているんだろう」。そう言う元彰義隊もカッコいいが、返すきっかけを作ったのがえいだと思われる描写がうれしかった。えいと質屋で会った寿恵子が、100円に困っている事情を語る。その場面の後に、えいと隼人が100円をきれいに包んで、持ってきたのだ。

 『らんまん』が朝ドラ初出演だという成海さんは、今どきの女性を演じさせるととても上手だ。できる女性ではなく、ちょっとダメな女性が似合う。諦めもある。だけど意地もある。そんな女性を演じさせると、ピカイチだと思う。2年前、深夜ドラマ『スナック キズツキ』(テレビ東京系)でファンになり、最近でも同じくテレ東の深夜ドラマ『かしましめし』でいい味を出していた。

『らんまん』で長屋の住人・倉木えいを演じる成海璃子 撮影/齋藤周造

 『らんまん』も期待して見ていたが、これまでは「惚れた夫と子どもを守る主婦」の感じだった。もっと成海さんらしさを。と願っていたら、15週のえいは、隼人を上手に正しく導いている感じが出ていた。いいぞ、えい。泣けない『らんまん』だから、えいに泣かせてもらいたい。
 


《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。