万太郎と田邊の関係と相対する、妻同士の関係

 聡子と田邊、夫婦関係は悪くない。そのことを伝える場面も17週には用意されていた。田邊の政策論(テーマは「ローマ字」)を聞いた聡子が、感慨深げにこう言う。「旦那様ほどご立派なお方はいらっしゃいません。聡子は旦那様にお仕えできて、幸せにございます」。田邊はうれしかったからだろう、聡子にブランデー(たぶん)をすすめた。一口飲んで、「なんです、これ? 喉(のど)が熱い」と聡子。

 幸せそうな聡子。とは思えなかった。幼さばかりが際立つのだ。初対面の寿恵子に語った、結婚の経緯を知っているからなおさらだ。2人の娘を残し、田邊の妻が亡くなる。田邊と知り合いだったのが、判事をしている聡子の父。「お一人ではご不便だろうからと、私が参ることに」と聡子は言っていた。そういう結婚が山ほどあった時代に、尊敬できる人の妻となれたことは幸運だったろう。それにしても「御茶ノ水の高等女学校を途中でよして、こちらに」という聡子は、夫を尊敬するだけで幸せだろうか、などと思ってしまう

『らんまん』で田邊の妻・聡子を演じる中田青渚 撮影/廣瀬靖士

 17週を見終わり、「弱きもの、汝の名は女」というシェイクスピアの台詞が去来した。次週以降も、万太郎と田邊の関係は描かれるはずだ。森が初代文部大臣になり、ますます政治性を強めていくはずの田邊。寿恵子が2人目を妊娠中で、ますますお金が必要になる槙野家。聡子と寿恵子は、どんなふうに生きていくのだろう。特に寿恵子。マッチ箱の内職のままだろうか。2人が「弱きもの」でなくなっていけば、『らんまん』をどんどん好きになれるのに。そんな期待は、さてどうなるだろう。

 


《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。