啖呵を切り、追加融資を引き出した寿恵子

 200円の借金の期限が過ぎているのに、「2円50銭しか返せない」という寿恵子。磯部は石板印刷機を売れば100円くらいにはなる、それより奥さんを売り飛ばそうかと近づいてくる。投げ飛ばし、啖呵を切る寿恵子。「たかが200円のはした金、あー、ちいせえ、ちいせえ」。そこからケロリ系寿恵子だった。

 「知らざあ言って聞かせやしょう。この家の主(あるじ)が正体、この世に雑草という草はなし、植物学者、槙野万太郎たあ、この主のこと

 磯部に笑ってみせる寿恵子。にっこりでなく、にんまり。「白浪五人男ですか、変わった奥方で」と言ってしまった磯部は、もう寿恵子の軍門に下ったも同然。その機を逃さず、あらためて商売のお話を、と寿恵子。万太郎の植物図譜を見せる。

『らんまん』で借金取りの磯部を演じる六平直政 撮影/佐藤靖彦

 今のところ自腹だが20銭で300冊、60円の実入りがある。そう言ってから、磯部を質問攻めにする。「こんなに珍しくて可愛い植物が載っているのに、どうして版元が見つからないんでしょう?」「磯部さまは、この図譜に価値がないとお思いですか?」。そして馬琴を引き合いに出す。「馬琴先生が版元の蔦屋重三郎と組んで、いくらお稼ぎになったか知ってますか?」。

 この調子で200円の追加融資を獲得する。やったね、寿恵子。心で拍手をしたのは、3年前の場面があったから。それは峰屋をたたんだ報告に綾と竹雄がやって来たときのこと。寿恵子は綾に、八犬伝を見せていた。綾と万太郎は、運命に導かれ戦う八犬士のようだと言った。その点、自分は何の取り柄もない、「(八犬士の)戦いを見ている村人、もしくは草むら」だと言っていた。