聡子が古株の女中に勝った瞬間
綾も竹雄も、生活能力のない万太郎を支える寿恵子を大人物だと評価していた。だが寿恵子の自己評価は「草むら」だった。3年たち、寿恵子は万太郎から「わが家の軍師」と呼ばれていた。自己評価がどう変わったかはわからない。でも寿恵子は変わっていた。借金取りを手玉に取る“手法”を獲得していた。いいぞ、寿恵子、いいぞ、浜辺さん。
もう1人、変わったのが聡子だった。森有礼(橋本さとし)の死、女学校の廃止など田邊に突然、アウェーの風が吹きまくった。ブランデーらしきアルコールを飲みまくる田邊を聡子が止める。もともと忙しすぎたのだ、これでようやく自分のことに打ち込める、そう言って聡子は田邊のよいところを列挙する。
コーネル大学に日本で初めて入学し、この国で最初に植物学を修めた、鹿鳴館、西洋の音楽、ローマ字。「今、旦那様が始めた学問には、続く方たちがいます。あなたが、始めたんです」。夫に対し、ずっと「旦那様」と言っていた聡子。それが初めて「あなた」と言った。「聡子、ありがとう」という田邊に、少し勝ち誇ったような顔を見せた。そう思ったのは、私だけだろうか。
場面が変わって、朝か昼。お外にまだ人がいます。娘が聡子にそう言った。お父様は強い、だがお父様を守れるのはお母様とあなた方だ。そう言って聡子は玄関に向かう。横に女中もいる。「奥様、私が」というのを左手で制し、外に出る。これまでしてやられていた古株らしい女中に勝った瞬間だった。「みなさま、ごきげんよう。何かご用ですか」。
以上、寿恵子と聡子ウィークだった。スーパー内助の功と2人の成長ぶりを見て、ちょっと予感がしてきた。「内」から「外」へ、2人が歩み出す。そうなるといいのだけど。
《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。