視聴者に通じた『らんまん』スタッフの熱意
最終話、完成した図鑑を見た寿恵子が「万ちゃん、らんまんですね」と言った。ドラマのタイトルを夫婦愛の証(あかし)とする。脚本家の長田育恵さんと制作陣は、昨今の視聴者が欲しいものをよくわかっている。『らんまん』の平均視聴率は前2作の15%台を脱し、16%台が確実だ。朝ドラと真剣に向き合った、その熱意が伝わってきたからだと思う。
『らんまん』とは結局、「新しい酒にして新しい皮袋に盛るぞ、おー」という朝ドラだったと思う。「新しい酒は新しい皮袋に盛れ」を微妙に変えたのは、どう見ても万太郎のモデルである牧野富太郎氏が“古い酒”寄りだというところによる。『らんまん』と関連づけて報じられてもいたが、経済観念のなさや女性観の古さなど昨今からは「?」な点が満載な人なのだ。
一方で小学校中退という学歴にもかかわらず、学問の権威・東大に飛び込み博士にまで上り詰める姿は、昨今の実力主義にも通じる。ここは“新しい酒”寄りだ。つまりは古さと新しさの同居する富太郎をバージョンアップし、今どきの女性も心を寄せられる万太郎という“新しい酒”にする。そのために前半は育ちのよさから来る優しさや屈託のなさが描かれ、寿恵子と出会ってからは妻への一途な愛に目覚める人となっていった。この「万太郎“新しい酒”化計画」がハマった人には、とても良いドラマだったろう。かく言う私は一貫して万太郎におぼっちゃんの気ままさを見てしまい、冷めたままだったのだが……。
万太郎という人物を盛る“新しい革袋”については、決して嫌いではなかった。寿恵子がビジネス上手の叔母・みえ(宮澤エマ)に感化され、槙野家の家計を立て直し成功していく姿は小気味よかった。何より姉の綾(佐久間由衣)が大好きだった。酒造りがしたいのに、「女は穢(けが)れている」と遠ざけられる。その理不尽さは今にも通じるものだから、綾がいてくれて本当によかった。仕事への情熱を理解してくれる人への恋心や、新たな挑戦を始めた途端の思わぬ失敗など、節目ごとに「わかるわかる」と心を重ねた。