アニメ・マンガ・ゲームと、日本のエンタメコンテンツは2022年もすさまじかった。
女子高生たちの4ピースバンド「結束バンド」が繰り広げる青春音楽アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』や、“幻の14話”が生まれた(?)『リコリス・リコイル』(ともにアニプレックス)、マンガでは、『かぐや様は告らせたい』や『ゴールデンカムイ』(ともに集英社)の完結。ゲームでは、『ポケモン スカーレット・バイオレット』が(任天堂)発売3日で販売本数1000万本を達成するなど、注目ニュースがめじろ押しだった。
個人的には、’21年に10周年プロジェクトが始まった『魔法少女まどかマギカ』(シャフト)や、漫画『スプリガン』(たかしげ宙/原作、皆川亮二/作画)など、過去の名作にもたくさん触れた’22年でもあった。
「あれ、このシーン、どこかで……」
ところで、数々の名作に触れていくと気づくことがある。アニメやマンガといった二次元の作品には、“類似する描写”がいくつか存在するのだ。更に、それらには元となった作品・制作会社・作者の名称を取った呼び名が存在するらしい。もちろん類似しているからといって、微細な部分やシーン別の状況は作品ごとにまるで違う。ただ、少なくともモチーフになった何かしらの概念が存在するようである。
編集という職に携わるうえでも、表現の源流を調べないわけにはいかない。だがしかし、どう調べたものか……(ggrks)。誰かわたしに、二次元作品の表現技法を教えてくれる人はいないのだろうか……。
ガイナ立ち
???「お悩みですか!!」
FM中西「びっくりした……スギモト、ずいぶん偉そうな登場だね」
スギモト「お疲れ様です。なんか浮かない表情してますね? どうしたんですか?」
FM中西「いや、アニメとかマンガに出てくるいろんなシーンあるじゃない? どんな名前があるのか調べたいんだけど、どうすればいいか悩んでて……」
スギモト「あー……」
「ガイナ立ち」は、岡田斗司夫が創業し、かつて庵野秀明らも在籍したアニメ制作会社・ガイナックスが主に利用していた描写。“キャラの後ろから腕を組んだロボットがせり上がってくるシーン”を用いた作品が多いことから、会社の名前をとって“ガイナ立ち”の名称で呼ばれている。ロボットがあって初めて成立するため、厳密にいうと写真のような立ち絵はガイナ立ちではない。なお、この描写は同社が製作を手がけた『新世紀エヴァンゲリオン』や、『トップをねらえ!』だけでなく、他社作品でもたびたびモチーフにされている。ちなみに、写真のように高所からこちらを見下ろすポーズに逆光が差すパターンを「ロム立ち」と呼ぶ。
勇者パース
スギモト「なるほどですね。ぶった切っていいですか?」
FM中西「え、怖。なんで? 何かあったの?」
スギモト「いや、そんなん調べればいいし作品を見ればいい話じゃないですか(笑)。なんかイライラしちゃって(笑)」
FM中西「だからってなんでヘラヘラしてんだよ怖いよ」
「勇者パース」は、広義には剣を構えたポーズとアングルを意味するシーン名で、別名・サンライズ立ち。『機動戦士ガンダムシリーズ』を手がけるアニメ制作ブランド・サンライズのロボットアニメで頻繁に登場する構図。中でも、1990年~’98年に放送された『勇者シリーズ』において多く見られることから、“勇者パース”という呼び名が主流になっている。“パース”とは「遠近法」を意味しており、物体の距離や位置を調整することで被写体に変化をつけ、奥行きや空間を作る技法である。勇者パースでは剣先を画面いっぱいに近づけ、剣を下に構えることでパースの効果が生まれ、剣の全体が長く大きく見える。
皆川フェード
FM中西「そういや、スギモトは昔からいろんな作品見てきたよね。シーンの考察とかも好きなの?」
スギモト「好きっすね。作品ごとに同じようで違う描かれ方をしているので、その源流とかを知るとまた違う魅力があって、たまらないです」
FM中西「なんでそんなに好きなの? きっかけとかあった?」
スギモト「そうですね……あれは10年ほど前でしょうか。うだつの上がらない日々を過ごしていたとき、ひとつの作品に出合ったんです。季節は確か、春ごろでしたかね。薄暗い部屋で電気もつけないで」
スギモト「それで……」
FM中西「その話気になるんだけど結構時間かかる?」
スギモト「2万光年くらいですかね」
FM中西「うん。単位も間違えてるし、また今度にしよっか」
「皆川フェード」とは、『スプリガン』、『ARMS』などで知られる漫画家・皆川亮二の作品でたびたび見られる演出。アニメや実写映画などの作品で見られる“フェードアウトによる場面転換”をマンガで表現しており、主要シーンや顔をアップで残して透過し、次の場面と重ねる手法。過去の回想シーンなども表現でき、1コマ内でセリフや場面がつながったまま、違和感なく場面転換することが可能になる。
シャフ度
FM中西「あれ……もしかしてなんだけどさ」
スギモト「はい」
FM中西「さっきからちょいちょい演出っぽいことしてるのは、俺の悩みに実戦で答えてくれている感じ?」
スギモト「ですね。権利関係で画像はなかなか使えないので、僕が一肌脱いでやろうと思って」
FM中西「メタいね」
FM中西「なに。“何でも知ってるな”って言ってほしそうな顔だけど」
スギモト「何でもは知……(以下略)」※『物語シリーズ』参照
「シャフ度」はアニメ制作会社・シャフトの作品でよく見られる構図で、「シャフト角度」の略。他にも、「シャフト角」「シャフ角」といった呼び方もある。顎を上げながら、背中を思いっきり反って挑発的に見つめる描写で、同社が制作した『物語シリーズ』『魔法少女まどか☆マギカ』『さよなら絶望先生』などではリアルに1話に1回くらいのペースで登場する。肌感だが、左後ろを向く描写が多い。ちなみに写真は、“シャフ度”として注目されるきっかけになった、戦場ヶ原ひたぎのシーンをイメージ。
アイリスアウト
FM中西「いやーなんかありがとね。前よりもっとアニメやマンガが好きになった気がする!」
スギモト「いえいえこちらこそ! 初めて自分でシーンを実践してみましたけど、こんなに大変だとは思わなかったです」
FM中西「だよね。でも今回教えてくれたシーンを知るだけでも、作品の見方が変わるかもしれ…」
スギモト「それじゃ、お先に失礼します!」
FM中西「え」
「アイリスアウト」は、映像技法の一種。画面の端から円形に映像が暗くなり、最後に真っ暗になって作品が終わるときに使われる技法。なお、逆に中央から円が広がってシーンが始まることを「アイリスイン」と呼ぶ。映画撮影監督のビリー・ビッツァー(1872年-1944年)により生み出された手法と言われており、日本では『キテレツ大百科』の“トホホなオチ”でもよく使用されていた。
こうして、ガイナ立ち、勇者パース、皆川フェード、シャフ度、アイリスアウトなど、数々の演出を知ることができたFM中西。表現技法の多様さと奥深さを知ると同時に、アニメやマンガに登場する描写には数々の歴史があり、その分、たくさんのクリエイターたちが魂を削り、シーンひとつひとつに思いを込めていることも再認識できた。
最後に:煽り文
スギモト「あ、そういえば! 写真とかどうします? 中西さん撮ってないですよね?」
FM中西「あーほんとだ!!!せっかくやってくれたのに超もったいないじゃん……」
スギモト「まあいいですよ。いつでもやってあげますから(笑)」
FM中西「ま、それもそっか」
スギモト「じゃあ! さっきの回想シーンの続きしましょう。その前に伏線として幼少時代の経験がかかわっていてですね……」
FM中西「いいって! てかさっきアイリスアウトしてただろお前!」
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「煽り文」は、週刊少年ジャンプをはじめとするマンガ誌において、主に作品の最後のコマに添えられる文章のこと。マンガに限らず、出版物の帯に書かれている宣伝文句もこれに該当する。主に、そのマンガの担当編集者が書いているらしく(作家が書くパターンもあり)、作品をより読ませるためにどんな煽り文を記載するかは編集者の腕の見せどころ。個人的に最近好きだった煽り文は、呪術廻戦116話「渋谷事変㊱」より《殴り、裂き、燃やし、弄ぶ。人も呪いも、宿儺の下には皆平等に価値がない。》
(文・FM中西/出演・スギモト/撮影・ウマギョウザ)