今、若い世代からも、また海外からも熱い注目を浴びている昭和ポップス。昨今では、音楽を聴く手段としてサブスクリプションサービス(以下「サブスク」)がメインで使われているが、必ずしも当時ヒットした楽曲だけが大量に再生されているわけではなく、配信を通して新たなヒットが生まれていることも少なくない。
そこで、本企画では’80年代をメインに活動した歌手・アイドルの、『Spotify』(2022年7月時点で4億3300人超の月間アクティブユーザーを抱える、世界最大手の音楽ストリーミングサービス)における楽曲ごとの再生回数をランキング化。当時のCD売り上げランキングと比べながら過去のヒット曲、現在のヒット曲を見つめ、さらに、今後伸びそうな“未来のヒット曲”へとつながるような考察を、昭和ポップス関係者への取材を交えながら進めていきたい。
記念すべき第1回では、’85年にデビューし、工藤静香、中山美穂、南野陽子とともに“アイドル四天王”として人気を博した浅香唯の楽曲をピックアップ! ’22年9月には、キャリア初となる『ビルボードライブ』での公演を行うなど、今でも現役で活躍する浅香に、現在のSpotify人気曲ランキングを見ながら、これまでのキャリアも振り返ってもらった。
「C-Girl」は壁を立ててレコーディング、「セシル」は自身の娘もお気に入り
──今年、デビュー丸37年目にして全曲のサブスク解禁、おめでとうございます! ご本人としての思いはいかがですか?
「ありがとうございます! やっぱり、どれも私とともに歩んできてくれた、わが子のように大切な曲ばかりなので、今までアルバムやそのBOXを買ってくださっていた方以外にも聴いていただけるチャンスが世界中に広がるというのは、とてもありがたいです」
──私自身も、『おとラボ』という大人向けプレイリストを公開する企画で選曲する際、例えば、夏の名曲集というテーマなのに“「C-Girl」が入っていない!”とリスナーの方から叱られていたので、うれしいです。
ではさっそく、Spotifyの再生回数のランキングをご覧になったうえで、上位から感想などを教えてください。ちなみに、7月に解禁されてから、わずか1か月ちょっとで全楽曲の累計再生回数が50万回を超えています!
第1位は、CDセールスでも最大ヒットとなった、前出の「C-Girl」(「カネボウ’88 夏のプロモーション」イメージソング)。この集計が終了した’22年8月5日時点の再生回数は約8万6000回ほどですが、現在では累計10万回再生超えとなっています。この曲はやはり、ご本人としても思い入れが強いのでしょうか。
「主演していたドラマ『スケバン刑事(デカ)III』が終わったあとの1曲目だったので、ガラッとイメージを変えたいと思いました。それまでは“闘う女の子”をイメージさせる力強いメッセージソングが多かったので、“ザ・アイドル”風の曲をいただけたのが、すごくうれしかったです。その一方で、“こういう曲を歌うときには、どのくらいのテンションでレコーディングすればいいのだろう”って悩んでしまって大変でした。今まで少し離れていた路線だったので、ちゃんと集中して気持ちを作りこむために、レコーディングのときには壁を立ててもらって、周囲が見えないようにして歌いました」
──当時、男性誌などでは、「C-Girl」を、恋愛のステップを示す当時の俗語「A/B/C」の「C」という意味で受けとった記事もあったように思いますが……。
「そういう、ちょっとエッチな意味だろうって多くの方が思っていたみたいですよ(笑)。私が周囲に、“CはビタミンCのことで、『ビタミンC=元気』という意味だよ”って説明すると、逆に驚かれるくらいでした。私としては、“曲を気に入ってもらえたら、別にその解釈でもいいよ”って感じです。あまり小さいことにこだわらない性格なんでしょうね(笑)」
──第2位の「セシル」は当時、ノンタイアップにもかかわらず、CD売り上げも2位、シングルチャートでは7週間連続でTOP10入り、アイドル曲ながら有線放送でもTOP10入りのロングヒットと人気です。また、メッセージ性の高い楽曲が強い傾向のあるダウンロードランキングでは、「C-Girl」より常に上位となっています(レコチョク調べ)。
「確かに、ノンタイアップなのに当時も今も人気というのはうれしいですね。作曲は『C-Girl』に続いてNOBODYさんだったのですが、作詞は麻生圭子さん。この詞は麻生さんと、自身の恋愛観や、子ども時代から当時に至るまでの考え方の変化、プライベートについてなど、いろんな話をして生まれたんですよ。基本的に歌を歌うときは、自分の中で“どういったキャラクターにすればいいかな”って試行錯誤もあるのですが、『セシル』の場合は詞の内容と自分の心がリンクしていたので、ノーマルに歌えましたね。
ちなみに、主人によると、うちの娘も『セシル』が好きみたいです。それっぽいのを鼻歌で歌っているのを偶然、聞いたらしく。私がカラオケで“歌ってよ~”って言っても、絶対に歌ってくれないのですが(笑)」
──そして第3位の「Believe Again」も麻生圭子さんの作詞。当時は、映画版『スケバン刑事 風間三姉妹の逆襲』の主題歌でしたが、今聴いても、夢を追う10代の子どもたちにも届きそうな、普遍的なメッセージの詰まった名曲ですね!
「ここで『スケバン刑事』の卒業が決まっていたので、“これからも強く生きていこう”というメッセージが込められています。この歌は、そのときそのときの私の気持ちで歌い続けているのですが、たまにライブで歌っている途中、泣きそうになります。それだけ力をくれる、エネルギーにあふれた楽曲なんですよ。ライブでは必ず選曲しているから、もしかすると、いちばん歌っているかもしれませんね」
『スケバン刑事III』で共演した風間三姉妹は「家族のような存在」
──さらに、第4位「Remember」(浅香唯、大西結花、中村由真による『風間三姉妹』名義)、第6位「STAR」、第7位「瞳にSTORM」、第9位「虹のDreamer」と、フジテレビ系テレビドラマ『スケバン刑事III』の主題歌が続き、やはり、テレビタイアップ曲はサブスクでも上位となっています。一度、風間三姉妹のコンサートを見学した際、観客が通常のアイドルファンというよりも、むしろ野球やプロレスファンに近いノリで驚きました。
「ほかのアイドルのファンの方を知らないのですが、確かに私のファンの方々は、“イェーイ!”ってノリがよくて熱いですね! だから、コロナ禍によってコンサートなどで騒げないのは、みなさん、すごいストレスみたいで……。
この楽曲たちも一緒にライブで歩んできているので、『スケバン刑事』を、というよりも、歌ってきたその時代、その時代を思い出す感じですね。ただ、『Remember』に関しては、スケジュールの関係で全員バラバラでレコーディングしたので、3人ともちょっと心残りなんです。
私たち3人は、仲がいい友達というより、家族のような存在なんです。しばらく連絡しなかったとしても、“連絡がないのは元気ってこと、何かあったら便りがあるはず”って思うくらい、信頼しています。だから、三姉妹コンサートは今後もできたらいいですね」
──これらの楽曲はいずれも’87年に発表されたのですが、この忙しい時期に歌唱力がメキメキと成長されているのもすごいですね!
「当時は忙しすぎて、ボイストレーニングの時間もありませんでした。今の若い方は、ある程度、歌もダンスもレッスンされてからデビューすると思うのですが、昭和のアイドルは、ほとんど“昨日、東京に来ました~。何もわかりませ~ん”という子たちを、周りが見守りながら育てていく、というスタイルで、私も歌いながら成長していった感じです。その成長が見えてきたのが偶然、この時期だったんじゃないかな? 10代後半って、いちばん伸びしろがありますからね」
配信先行曲が8位に!「早くライブでこの歌のコール&レスポンスをしたい」
──そして歴代のヒット曲と並んで、’20年の新しい曲「LIGHT A SHINE~月はずっと見ている」も第8位に入り、たくさん聴かれています。以前から配信していた楽曲ゆえ、多少リードしていた部分もありますが、ひっそりと配信先行でリリースされた楽曲が8位にランクインしているのは大健闘でしょう。これは、浅香さんには珍しいほど爽快なアッパーチューンですね。浅香さんを“SUNSHINE”、ファンの方を“MOONLIGHT”、その2つが重なって“∞DAYS”になる、という詞の表現が見事です。
「私もこの順位に驚きました! ファンの方が“ずっと見ていますよ”と言ってくれているような結果ですよね。
この曲は、歌詞も本当にすばらしくて。作詞・作曲・編曲をされたSUNNYさんは、Mr.Childrenのサポートメンバーもされているすごい方なんですが、私と同世代なので、アイドル・浅香唯も、今の私も知ってくださっていて。昭和のキラキラ感も出しつつ、それを歌うのは今の私、という絶妙なバランスで作ってくださいました。確かに、ここまで爽快な曲は珍しいかも。
ちょうどコロナ禍の中で作っていただいたのですが、“いつか、この歌のコール&レスポンスをファンの方とできたらいいな”と思ってSUNNYさんにリクエストしたんですよ。それで、とても明るい曲になっています。
今後もライブでは絶対に歌っていきますし、その際には、中盤にある♪いつか、きっと~♪の部分でファンの方と掛け合いをしたいのですが、(声出し禁止のため)まだできていないんです。だから、早くこのコロナ禍が落ち着いて、みんなで大声が出せたらなと思います」
──30周年記念BOXに収録されていた第11位の「ありがとう」や第12位「Shake Love」も「LIGHT A SHINE」と同時期に配信されており、こちらは浅香さんご本人による作詞ですね。
「そうですね。思いの強いものは自分で書いていきたいですが、あまりに気持ちが大きすぎて、逆にうまく伝えられない側面もあるので、そういうときは第三者に書いてもらったほうがいいと思っています。だから、『LIGHT A SHINE』のときも、自分が楽曲に込めたいことをSUNNYさんに伝えたうえで、あとはノータッチなんです。私以外の方に書いていただいたアイドル時代の楽曲でも、いろんな作家さんと話をさせていただいて、私をわかってくださっているなと思える方に書いてもらっています。だから(誰名義であっても)、いつも私の思いはたくさん入っています!」
──浅香さんは、麻生圭子、湯川れい子、有川正沙子、吉元由美、三浦徳子など女性作詞家の方の作品が多いんですね。
「女性ならではの言葉のチョイスや表現の仕方が繊細でいいなぁと思ってお願いしたものが多いのでしょうね。もちろん、男性目線の作品もすてきだと思いますよ」
──第12位「Shake Love」の順位に驚かれたそうですね。
「30周年記念BOXに初収録されましたが、こんなマニアックな曲まで聴いてくださってうれしいです! これは、もともとライブ用にと1ハーフ(1コーラス+サビ繰り返し)だけ冗談っぽく作ったのですが、そのうちファンの方からも、“この歌を歌って!”という声を多くいただくようになって、フルサイズでレコーディングしたんです。その意味では、ファンの方々に育ててもらった曲ですね」
インタビュー中、随所に出てくるように、浅香は当時ヒットしたこと以上に、今でもライブで歌い続けていくことを有意義に感じているようだ。これは何より、自分の楽曲をわが子のようにずっと大切に育てている証拠だろう。
インタビュー第2弾では、ランキングをさらに掘り下げて、当時ヒットチャート圏外だった楽曲や、アルバム収録曲に関する思い、さらには9月に実施するビルボードライブへの意気込みについても語ってもらう予定だ。どうぞお楽しみに!
(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)
☆浅香唯、ビルボードライブに登場!
◎2022年9月3日(土)@大阪・Billboard Live OSAKA
1st ステージ OPEN 15:00 / START 16:00
2nd ステージ OPEN 18:00 / START 19:00
◎2022年9月11日(日)@神奈川・Billboard Live YOKOHAMA
1st ステージ OPEN 14:00 / START 15:00
2nd ステージ OPEN 17:00 / START 18:00
☆ママ・アーティストの音楽祭 ママホリ2022に出演!
◎2022年10月10日(月・祝)@東京・立川ステージガーデン
OPEN 15:00 /START 16:00 (~19:15予定)
出演アーティスト:相川七瀬、浅香唯、斉藤由貴、中村あゆみ、NOKKO、MAX
※公演詳細やチケット情報は公式HPへ→http://www.yui-asaka.com/index2.html