バーチャルYouTuber(VTuber)の市場が急拡大し、億万長者が生まれているという──。
「2016年から活動するキズナアイが火付け役。その後、2017年以降は増加の一途で、2020年には桐生ココというVTuberが年間のスーパーチャット、いわゆる投げ銭額で1億5000万円を越えて世界一に。ちなみに2019年のスーパーチャット1位が約3300万円なのと比較すると、その急激な拡大に驚きます。今後もしばらくは増加の一途でしょうね」(Webメディアのライター)
バーチャルYouTuberは、2Dや3Dのアバター(イラストなど)のキャラクターを使ってYouTubeに動画を流したり、ライブ配信をするYouTuberのことで、つまり生身の人間ではなく2次元のキャラがお話ししたり、やり取りするわけ。
「暗黙の了解というか慣習として、“中の人”や“魂”と呼ばれる語り手の素性は明かさないことがほとんど。視聴者もキャラクターの話を聞いたり、チャットしたりすることを楽しんでいます。そのため、一般的なYouTuberとは違って表に出て活動することや取材を受けたりすることもほぼなく、それぞれのブロードキャストの中だけで活動が完結している。だからこそファンの熱量も高く、上位クラスになればスーパーチャットの金額も非常に高額になるのかと」(前出・ライター)
ちまたでは“VTuber”という呼び名が完全に定着。「ホロライブ」や「にじさんじ」という超メジャーなVTuberプロダクションやプロジェクトの人気っぷりはfumufumu news読者も聞いたことがあるのでは?
まさかの“魂”さんにインタビュー
「もともとゲームをすることや話すことが好きだったのですが、それらを実況する……といった活動はやったことがなくて、“してみたい!”と思ったことすらありませんでした。そんな時、友人がVTuberにすごくハマっていて次々と布教されまして(笑)。試しにと見てみたらめちゃめちゃ面白くて、気づいたら私も沼にいました」
そう教えてくれたのは、2021年6月から活動を始めたばかりの『Mi→RiSE -ミライズ- 』というVTuberプロダクション所属の新人・奉城アイル(の魂)さん。
とある調査では2021年10月の段階で、すでに1万6000人以上もVTuberがいるという加熱っぷりで、競争が激化する一途の世界。そこに今また1人(1キャラ?)、スターを目指すプリンセスが登場したというわけ。ということで今回、私たちは、まさかまさかのVTuberの魂(中の人)にインタビューすることができちゃいました!
彼女が好きで参考にしてるのも、前述した大手のVTuberだそうで、
「にじさんじ所属の葛葉さんです。それこそ、バーチャルYouTuberを私に布教してくれた例の友人が最初にオススメしてくれたのが葛葉さんでした。正直、それまでは“人のゲーム実況を観るのって面白いのかなぁ”と思っていたのですが、ゲームを遊んでいるときのリアクションや、独特な語彙(ごい)のセンスがめちゃめちゃ面白くて、“ゲームをプレイしているだけなのに、ここまで楽しませられるってすごいなぁ”と。以来、ゲーム実況に対する考え方がガラッと変わりましたし、彼のユーモアセンスにとても惹(ひ)かれました」
男性VTuberの沼にどっぷり……だけで終わらなかったのが彼女。
配信環境は“お屋敷”!?
「いろんなVTuberさんの活動を見ているうちに、“好きなことを通じて画面の向こうにいる方たちを楽しませられるっていいなぁ。私もやってみたいなぁ”と思うようになり、それからなんやかんやあって、いい感じのお屋敷を見つけましたので、この活動を始めました!」
お屋敷って……いったい? どういった環境から配信しているのでしょうか?
「お屋敷はお屋敷です。基本的な機材やPCは、もともとお屋敷にあったものを使わせていただいています。活動していく中で“この機材は新調したほうがいいかな〜”って物があれば都度、新しくしていく感じで。でもそこまで詳しくないので、どれが高性能なのかとかはよくわかっていないのですが」
──そういった配信環境を整えるためにかけた予算は?
「個人差はあると思うのですが、通常は、最低でも15万円ぐらいはかかる……と聞きます。恐らく、その大部分はPCが占めていると思いますが……(笑)。PC、マイクなどの性能にこだわると倍くらいかかるでしょうし、ゲーム実況をやる場合はキャプチャーボードなどの機械も必要になってきますので、その分もさらにかかるかと。
全部合わせて見てみると、少し手を出しづらい価格ではありますね……。私はありがたいことにほとんどの機材を貸していただいていますので、実はだいぶ浮いています。新しく用意した物だと、ザっと4〜5万円ぐらいかと!」
どうやら、われわれでいう「スタジオ」を借りてやっているようだが、違うかもしれない。真相は霧の中。いずれにせよ、ゼロからやるには結構なお金がかかるようだ。気を取り直して、彼女本人について聞きましょう。
登録者数が一気に伸びたキッカケ
──奉城アイルさんの身長や年齢やプロフィールは?
「身長:157cm(+王冠)=175cmです。年齢は18歳。とある屋敷に住む、自称メイド。
もともとは王族の者だけれど、ある日、趣味である散歩をしつつフラフラしていたところ、家主不明の屋敷を見つけ結構、気に入ったため、そこに住みつきました」
──フムフム。聞き手も誰とどうやって話しているか、不思議な感覚になってくる。
「基本的に敬語で、やや腰が低いです。比較的、真面目でしっかりしている雰囲気を放ちますね。常日頃から冷静さを欠かないように意識しているけれど、好きなものを目の前にした途端、ありとあらゆるネジが吹っ飛びます。好きなものを“好き”と言えない空間が苦手。王族出身なので自分にはそこそこ自信があり、大抵のことは“まぁ、なんとかなるでしょう”と思っています」
ユニークであり、とても好感をもてる存在ということがわかりました。そして王冠が立派! そんなアイルさんを見てみたいという人のため、活動の頻度をたずねると、
「基本、平日はほぼ毎日配信しています。たま〜〜〜にイレギュラーで土日祝日に配信することもあります」だって。
──アイルさんのファン層はどんな方たちですか?
「チャットなどのコメントを通して見た感じ、社会人の方が多いのかな? という印象を受けますね。でも、学生さんもいらっしゃるみたいで。それと、ノリがよくて面白い方が多いような気がします」
やはりアイルさんとノリが合う人が多いのね。どんな企画をやっているかというと、
「主にゲーム実況、雑談ですね。ゲーム実況の方では、ガチャのシステムがあるタイトルなら“ガチャを引いてお目当てのキャラを出せるか!?”みたいなこともやっています。雑談ではひたすら話しています。テーマに困った時は、それこそテーマをガチャで決めたり(笑)」
もちろん、それだけしょっちゅう配信していれば、再生回数や反響だってその日の内容でさまざま。
「チャンネル登録者数が一気に伸びるキッカケになったのはYostar様から配信されているゲームアプリ『アークナイツ』の実況配信ですね。初回配信はもちろん、その後の配信もたくさんの方に観ていただいています。とても驚きましたし、うれしいです」
顔を出せないメリット、デメリット
飛躍の一因もゲーム実況。でもなんでもかんでもうまくいくわけじゃなく、思った通りいかないことだって……。
「活動を始めたばかりの頃はよくありましたね」
だから“継続は力なり”だっての。そんなアイルさんの魂さんには非常に興味深いポイントが実はあるのです──。
「はるか昔の御先祖様か、それとも前世の方なのか、詳細は不明ではありますが、夢で見たのは表舞台に立ち、お芝居をする姿でした。私自身、演劇鑑賞やお芝居をすることが好きなのですが、それはもしかしたらそこから来ているのかもしれません」
ということで、役者さん、タレント活動をしていたことがある様子。そうなると聞きたくなるのが、
──顔を出せないVTuberをやるメリットは?
「詳細が不明なぶん、思い切った行動をしやすいのではないかなぁと思います。いろんな意味で(笑)。乙女には秘密がたくさんありますからね。裏の顔を隠しやすいのはいいことだと思います」
──デメリットを感じる点は?
「でも裏を返せば、そのぶんいろいろと伝わりづらかったり、抱えなきゃいけないので、そこは少しデメリット……かもしれませんね」
利益を出せるのはかなり先?
裏の顔!! なんか怖いけど次の話題へ。
──月あたりの収益は?
「収益化するには、チャンネル登録者数1000人突破と、直近12か月の動画の総再生時間が4000時間を超えないといけないようですが、1月18日に1000人突破したばかりでして、まだまだなのです。でも、リスナーの皆さんの暖かいコメントと気持ちを、毎回たくさんいただいています! ありがたいです」
2022年2月7日段階で登録者数1090人のアイルさんが、それなりの売上を出していけるのはまだまだ先といった感じで、そこからさらに経費などもまかなって利益を出せるのは、はるか向こうかもしれない厳しい世界。本人も「知名度とセンス」がもう少しほしいとか。
それでも、その瞳に映る炎は強く、声も明るい。
──億単位を稼ぐVTuberも現れています。そういう存在に自分が負けてないところは?
「リスナーの皆さんを“楽しませたい! 楽しませよう!!”という気持ちとエンターテインメント性は負けてないと思います。あと、リスナーさんからはよく“アイルさんはもってるね”といわれるので、そういう所とか!!」
プロ意識の高さは“リアル”
──VTuberとして気をつけていることは?
「つねに“誰かに見られている”、“誰かがいる”ということを忘れないようにしています。画面の向こう側といえど、不特定多数の方が配信や活動を見てくれています。不適切な発言や態度をしないことはもちろんですが、“見てくれている誰かに届ける、楽しませる”という気持ちも忘れないよう心がけています」
──VTuber業界のタブーってなんですか?
「『現実』と『非現実』、どちらかに寄り過ぎてしまうことだと思います。例えば、普段の振る舞いでしたり、何か話す時とか、魂が強すぎるといろいろと崩れてしまうのです。かといって魂が眠ったままだと、それはそれで面白味がないと言いますか……。要するに、リアルとバーチャルのバランスをどう取るかが大事かなぁって。あくまで個人的な考えですが」
魂のバックボーンを知ったあとだけに、プロ意識の高さがうかがえる。苦労するのはやっぱりアレのようで……。
「配信内容を考えているとき、ネタ探しのときですね」
頻度が高いだけに大変そうだ。
──誹謗中傷や炎上が問題になっています。変なコメントとか書き込みへの対応はどうしますか?
「私のほうで見つけたものは、スパッと削除、対応します。今はまだそこまでひどいものがないのが幸いですが!」
思い切りのよさが大切。
──意外と知られていないVTuber“あるある”は?
「“サムネイル制作が意外と大変”ということですかね……。配信開始までに用意しなきゃいけないのはもちろんですが、だいたいが1回の使い切りっていう感じなので。あらかじめ作成しておくっていうのもできなくはないのですが、シリーズものの実況とかだと、“次はどんな内容をやるのか”が都度、変わってきますので、予測できないからギリギリの制作になってしまいます。同じ事務所に所属しているタレントさんとコラボ配信の時にお話しした際も、“あー! 明日のサムネ作ってない!!”とバタバタしていらっしゃったので、結構あるあるなんじゃないかなぁ〜と」
キズナアイに憧れるというアイルさん(の魂)。目標はというと?
「大きなものとしては、“VTuberって言ったら誰が浮かぶ?”っていう話題があった時に、私・奉城アイルの名前を挙げてもらえるようになることです。それと“常に楽しいを届けられるような存在”になりたいです。どんなかたちであれ、エンターテインメントをリスナーの皆様にお送りするのがバーチャルYouTuberとして大事なことだと思うので、いついかなるときも、エンターテインメント精神を忘れずに活動していきたいです!」
その熱いソウルは間違いなくリアルなのだ──。
(取材・文/相良洋一)
《PROFILE》
奉城アイル(ほうじょう あいる)『Mi→RiSE』所属/1月21日生まれ。自称メイドで、もともとは王族の者だそう。
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