今年、CDデビュー25周年となるKinKi Kidsの堂本光一と堂本剛。彼らは、同じ名字、同じ関西出身、同じ1979年生まれ(学年は光一が1つ上)と、まるで運命に導かれるように同時期にジャニーズ事務事務所に入り、1993年、グループ名が正式にKinKi Kidsに決定。そして1997年7月21日、シングル「硝子の少年」とアルバム『A album』を同時発売するというかたちでCDデビューを果たした。しかも、卓上カレンダー付きの初回プレス盤は、シングルとアルバムが1セットとなっているにも関わらず、オリコン的に個別に集計されるように2つのバーコードが印字されている、というこだわりも異例だった。
デビューから毎年出しているシングルが、すべてオリコン1位
彼らは、デビュー作から2022年3月発売の44thシングル「高純度romance」までオリコンシングルチャートで44作連続1位(オリコン調べ、以下セールスに関してはすべて同じ)を飾っており、この記録はギネスにも登録されている。驚くべきは、彼らの場合はどんなに忙しくてもグループとしての活動が途絶えることなく、26年もの間、少なくとも毎年1枚はKinKi Kidsとしてシングルをリリースし続けていることだ。
今年はCDデビュー25周年ということもあってか、デビュー記念日となる2022年7月21日には、
彼らの楽曲は、ジャニーズの中でもカラオケヒットが多いというのも大きな特徴だ。それは、ほかの大人数グループのようにダンスを前面に出す曲が少ない(とはいえ、「雨のMelody」のようにキレキレに決める曲もあるので油断ならない)というのもあるだろうが、何より多くの楽曲提供者が語るように、2人の個別の歌声や、2人でしか出せないハーモニーが絶品だから、という側面も大きいだろう。
そこで、今回は彼らがデビューした1997年から2021年までの25年間について、それぞれの年の「KinKi Kids限定のカラオケヒット曲ランキング」(JOYSOUND調べ)を見ていくことで、どんなヒット曲があったのか、全5回にわけて改めて振り返ってみたい。初回となる今回は、1997年から2001年までの5年間を見てみよう。
両A面シングルが2曲ともヒットする、まれなアーティスト
まず、5年分を総じて見ると、どの年のランキングでも、その年、あるいは前年末に発売されたシングルが1位となっている(1年ごとのランキング表は後述)。つまり、ほぼ毎年新たなカラオケヒットが生まれているということだ。ちなみに、この5年間はリリースされた全13作のシングルの売り上げがすべて累計50万枚以上、うち4作が年間ランキングでもTOP10入りするほど、CDでも大ヒットとなっている。
また、’98年の「青の時代」、’99年の「to Heart」、’00年の「もう君以外愛せない」と、シングルの2曲目に収録された楽曲がかなりの上位になっている。これらの3曲はいずれも両A面曲、しかも、彼らのどちらかが主演するドラマの主題歌となっており、テレビ番組での歌唱機会も少なくない。このこともカラオケで2曲(両面)ともヒットする理由だが、両A面シングルが2曲とも大ヒットするアーティストは、当時はほとんど見られなかった。
その一方で、アルバムからの人気曲も意外とある。このころは、シングルのみならずアルバムもすべて初登場1位、累計50万枚以上を売り上げており、シングル曲が圧倒的な人気のためさほど目立っていないが、コンサートやタイアップなどで徐々に評判となっていったアルバム曲もちらほら見られる。以下、1年ごとに見ていこう。
CDデビュー前から、すでに主演ドラマとタイアップ曲を担当
1997年は、同年7月発売の「硝子の少年」と11月発売の「愛されるより 愛したい」が2トップとなっている。デビュー曲は、作詩の松本隆にも、作曲の山下達郎にも、「単なるオリコン1位ではなく、ミリオンセラーとなる作品を」という依頼があった。それを受け、まず作られたのが、のちにアルバムに収録される「Kissからはじまるミステリー」と、3枚目シングルとして発売されることになる「ジェットコースター・ロマンス」。この2作を経て、“3度目の正直”としてデビュー曲に採用された楽曲が「硝子の少年」だ。
無理な注文をするジャニー喜多川もすごいが、少年の繊細な心を「硝子」と喩(たと)えてメランコリックな情感を際立たせた松本隆も、2人の声質を「濡れている」と評価し、デビュー曲ながらあえて「40才になっても歌えることを想定した」マイナー調のポップスに仕立てた山下達郎も、やはりただ者ではなかった。その結果、累計売上180万枚という、数字にも見劣りしない極上のポッ
デビューアルバム『A album』からは、KinKi Kids名義で4曲がカラオケでも配信されている。うち人気の「FRIENDS」と、前述の「Kissからはじまるミステリー」はそれぞれ、2人が主演のドラマ『若葉のころ』主題歌と、剛主演のドラマ『金田一少年の事件簿 第2シーズン』の主題歌。
いずれも’96年に放送されたが、CDデビュー前にしてすでに主演ドラマとそのタイアップ曲を担当していたことにも驚くし、デビュー曲として予定されていた「Kissから~」が作られてから、実際のデビューまで丸々1年延期されたというのも、プロジェクトの大きさを物語っている。
1998年には、前年末発売のシングル「愛されるより 愛したい」が1位に。2人が主演するドラマ『ぼくらの勇気 未満都市(みまんシティ)』の主題歌で、サビの「真剣(マジ)で」を声を裏返して強調するなど、シングル2作目にしてすでに大衆のハートをわしづかみにするテクニックに驚かされる。なお、シングル2作目でも当初は、作詩:売野雅勇、作曲:坂本龍一による「イノセント・ウォーズ」が予定されていたものの急遽、差し変わったというエピソードを持つ(その経緯については、2021年8月に公開した売野雅勇のインタビューに詳しい。記事:近藤真彦は「いそうでいない男」作詞家・売野雅勇がシビれた“マッチ像”とは)。
同じく’98年発売『B album』からは「スッピンGirl」が最上位の8位に。2人がレギュラー出演するバラエティー番組『Gyu!と抱きしめたい』のエンディングテーマ曲だが、作詩:戸沢暢美 、作曲:飯田建彦と、少年隊やSMAPで実績のあった作家を起用することで、近年の彼らにはありえないほどのメチャクチャ明るい楽曲となっている。
出演番組『LOVE LOVEあいしてる』を通して音楽性が広がった
1999年は、「フラワー」が1位に。当時は、レゲエ調のアレンジやANAのCM「パラダイス沖縄」キャンペーンソングに起用されるなど、この楽曲にまつわる明るい要素がハマって3作ぶりのミリオンセラーとなり、カラオケも大ヒット。
また、同年発売のアルバム『C album』では「Natural Thang」が最上位の13位に。同作は、シンガーソングライター・米倉利紀が作詞・作曲を手がけたスリリングなアッパーチューンで、10周年ベストアルバム『39』では剛が本作を選曲している。剛が’00年代以降のソロ活動で、ファンク・ミュージックを追求していったルーツをも感じさせる。
米倉は、2人がレギュラー出演していた音楽バラエティー番組『LOVE LOVEあいしてる』にも出演していたが、この番組の出演者とKinKi Kidsには、さまざまなつながりがある。同番組をKinKi Kidsとともに司会進行していた吉田拓郎がシングル「好きになってく 愛してく」をプロデュースしたり、彼が番組テーマ曲として書いた「全部だきしめて」を、KinKi Kidsがカバーして大ヒットさせたり、現在もコンサートのバンドマスターを吉田建が務めたりと、同番組が縁となり、彼らの音楽性が広がっていったことがよくわかる。
「夏の王様」と「もう君以外愛せない」の順位が1年で逆転
2000年は、剛主演ドラマ『Summer Snow』主題歌の「夏の王様」と、光一主演ドラマ『天使が消えた街』テーマ曲の「もう君以外愛せない」が初登場1位、2位となった。発売年では、圧倒的に陽気なリズムの「夏の王様」が上位だが、翌年以降は、しっとりバラードの「もう君以外愛せない」のほうが上位に残っており、やはり2人の歌声と真摯(しんし)なメッセージソングとの相性のよさが、カラオケヒットからもうかがえる。なお、「夏の王様」は、サビでどんどん高音に駆け上がっていくメロディーラインが突出しており、喉への負担も考慮してなのか、今ではコンサートでほとんど歌われないようだ。
そして、2001年は剛主演のドラマ『向井荒太の動物日記 〜愛犬ロシナンテの災難〜』の主題歌となった「ボクの背中には羽根がある」が1位に。未来を2人で乗り越えよう、というエールソングだが、松本隆による硝子の心を持った青年像や、織田哲郎によるフォルクローレ調のメロディーと、KinKi Kidsの歌声との相性が抜群で、KinKi Kidsの持ち味をさらに広げた。ちなみに、同年末に発売された「Hey!みんな元気かい?」は10位で、そのカップリング曲だった「愛のかたまり」は44位。まだ、「愛かた」人気が起こる前だった。
以上、この5年間は互いに毎年1~2本、ソロでのドラマ主演をしていたことが、コンスタントなカラオケヒットにも大きくつながっていたことが分かる。このころは、ドラマ撮影と並行して、コンビとソロで複数のバラエティー番組や音楽番組、ラジオ番組への出演、新聞や雑誌の取材、海外ツアーも含む全国コンサートと、今から考えれば超人的なスケジュールをこなしていたはずで、それでいて音楽面の高いクオリティーを保っていたとは驚くばかりだ。改めて、トップアイドルの矜持を強く感じさせる。
《取材・文/臼井孝(人と音楽をつなげたい音楽マーケッター)》