ピーナッツくんとは何者なのか?
バーチャルYouTuber・バーチャルタレントとして活躍している、オシャレになりたい!ピーナッツくんの楽曲「刀ピークリスマスのテーマソング2022」が、シーンを飛び越えて大きなヒットの兆しを見せている。
オシャレになりたい!ピーナッツくん(以後ピーナッツくんと呼ぶ)は、2017年6月よりYouTubeにて投稿されている個人制作ショートアニメ「オシャレになりたい! ピーナッツくん」の主人公として登場し、’18年ごろから本格的に活動を始めたバーチャルYouTuberだ。
にじさんじ・ホロライブといった大手Vtuber事務所 に所属することなく、現在でも個人として活動を続けている。同じショートアニメ作品からデビューした甲賀流忍者ぽんぽこさんを相方にし、ファンや同業者から「ぽこピー」という愛称で呼ばれている。
名前のとおり「ピーナッツ」をモチーフにしたビジュアル、一度聞くと忘れることのできない粘っこいダミ声とクセのあるキャラクター性で、年を経るごとに活躍のフィールドを広げてきた。
生配信では友人らとゲーム配信でリスナーを楽しませつつ、ぽんぽことの収録では全国を飛び回ってさまざまな企画を届けてきた。その姿は、まさに「YouTuber」の姿と変わりない。「VTuberは画面上の存在でしょ?」という印象が強くあるが、ピーナッツくんはそれに当てはまらないだろう。
’19年7月には着ぐるみ姿となって現実世界に登場し、『ゆるキャラグランプリ2019』の「企業・その他」部門で優勝を果たした。これが契機となり、より活動領域を広げていくことになった。
ピーナッツくんの活動で見過ごすことができないのは、音楽活動だ。ヒップホップが好きであった彼は、’20年にファーストフルアルバムをリリースすると、現在まで3枚のアルバムを発表している。
‘21年7月2日には、自身の活動4周年を記念する初のオンラインライブである『NUTS TO YOU! 』を開催すると、そのユニークなビジュアルと音楽性が評価され、ヒップホップシーンでの認知度が高まっていった。
また、日本のヒップホップシーンの注目人物に質問・回答していくインタビューメディア『ニートTokyo』に出演、Red Bullが企画するラップ&サイファー企画『RASEN』に出演、フリースタイル・ラップの第一人者・晋平太のチャンネルでも注目されるなか、’22年5月21日・22日に開催された大型ヒップホップフェス『POP YOURS』にも出演した。
PUNPEEとBADHOPが大トリをつとめ、Awich、JP THE WAVY、tohjiなどシーンを代表するラッパーとともに、バーチャルYouTuberが出演したのだ。
公開から約1か月。TikTokでバズる「刀ピークリスマス」とは?
そんなピーナッツくんが、にじさんじに所属する剣持刀也とともに毎年クリスマスの夜に行われるコラボ配信で「刀ピークリスマス2022」を公開した。
この企画でピーナッツくんは、友人である剣持刀也への愛を歌ったテーマソングを毎年のように制作しており、ふたりがデビューしてから最初となった’18年からこれで5曲目の「刀ピークリスマス」楽曲となる。
年々クオリティが上がっていくサウンド、徐々に上がっていく互いの知名度、メンヘラ&サイコ化していくピーナッツくんの愛情、お互いに人気VTuberということもあって、この企画・同曲への期待はファンの中でもかなり大きかった。クリスマスシーズンの浮かれたムードで小躍りしながら、剣持へのゆがんだ愛情をラップする。ピーナッツくんのルックスも相まって毎年コミカルな面白さを届けてくれるのだが、今年はひと味違った。
公開された「刀ピークリスマスのテーマソング2022」は現在、当のふたりやファンの想像を超えるヒットとなり始めている。
「2021」バージョンではレトロ感あるシンセポップだったが、「2022」バージョンではラテン・トラップ~レゲトンを意識したトラックになっている。
どこか哀愁が感じられつつ、張りのあるベースサウンドや4つ打ちのクラップ/キックサウンドで踊れるダンストラックであり、筆者としては’20年から大きなヒットを飛ばすBad BunnyやRauw Alejandroといったラテン系シンガーの楽曲を感じさせてくれる。
ちなみに彼の音楽活動や「刀ピークリスマス」楽曲ではタイプビート(※)が使用されている。海外でヒットしているサウンドへ目配せするあたり、ラッパー・ピーナッツくんが高い感度で音楽と接しているのが伝わってくる。
※:タイプビート:“●●っぽいビート”として制作された音源。人気楽曲に寄せて制作されており、海外ではビート販売サイトなどで購入可能
●実際に使用されたタイプビート
雨宮こころ、あのちゃん、超学生、たなか……刀ピークリスマスが起こした影響
楽曲を聴きながら剣持とトークしている中で、ピーナッツくんは配信中にこのように話している。
剣持「ダンス、あんま曲に合ってないだろ」
ピーナッツくん「いやTikTokで流行(はや)るから!」
その場のノリで発した言葉だとは思うが、リリース後本当にTikTokでヒットを飛ばし始めている。サビ直前から始まって「Be My Own!」でバチッと落とす流れまでわずか12秒ほど、この部分を使った投稿動画が急増しているのだ。
剣持が話していた「合ってないダンス」は「上半身だけで踊れる簡単なダンス」として一般の方にも広まり、プロにとっては自由な振付を考える余地を与えた。4つ打ちリズムがメインとなっているサビ部分が主に使われて、バウンシーなリズムとそれに合ったライミングは不思議と心地よくさせてくれる。
最初は剣持が所属するにじさんじのメンバーたちやピーナッツくんの友人などのVTuberとそのファンたちに。その次は同じネットカルチャーで活動するTikToker・プロダンサー・歌い手、モーニング娘。・超学生(湯月凜空)・たなか。そして、元ゆるめるモ!に所属していたシンガー・anoと本田翼は2人そろってダンス動画をアップ。
わずか1か月ほどの間で、アイドルやインフルエンサーたちにこの波がバッチリと届いていたのだ。
@anovamos はちわれって猫への勧誘をかわしまくってる
@morningmusume_uf ご本家様の動き、なるべくリスペクト🥜#刀ピー #刀ピークリスマスダンス #石田亜佑美 #野中美希 #モーニング娘23 #morningmusume23 ♬ 刀ピークリスマス2022 – サブ子🍃🥜
何となく口ずさみたくなるメロディと歌詞が相まって、動画を見ていなくても口ずさんでしまう中毒症状を訴えるリスナーが非常に多く、実際VTuberや配信者らが「頭から離れない」と口に出して歌いだすレベルだ。
刀ピーOVERDOSEが頭から離れないめいちゃん pic.twitter.com/gfH4PfW0jT
— めいちゃんインフォ (@meychan_info) January 28, 2023
TikTok上で調べてみると、昨年1年ほどかけて大ヒットしたTani Yuukiの「W/X/Y」が約4万4800本の動画が投稿されているのに対し、「刀ピークリスマスのテーマソング2022」は公開から1か月ほどで約3万8400本の動画が投稿されているのがわかる。この数字をまともに受け取るなら、2023年現状でTikTokで最も大きなヒット曲だといえることがわかるはず。
残念ながらこの曲はSpotifyやApple Musicなどで音源が公開されておらず、ストリーミングサイトなどではフルで楽しむことはできないうえ、ビルボードランキングなどを席巻する……といったことはなさそうだ。もしもこの曲がストリーミングサイトに公開されていたらどれほどにチャートを荒らし回っていたか……想像すると恐ろしいほどだ。
ピーナッツくんにとって棚からぼたもちのようなヒットとなったが、バーチャルYouTuber・ラッパーとして陽の目を浴びるタイミングとなったのは間違いない。「刀ピーさん」ではなく、「ピーナッツくん」と「剣持刀也」。ふたりの名前だけでもぜひ覚えていってほしい。
(文・草野虹/編集・FM中西)