それまで「男の子の遊び」という印象が強かったテレビゲームを「女の子が夢中に」「家族みんなで楽しめる」娯楽に昇華させた作品が、1991年の『ぷよぷよ』。同作を世に出した株式会社コンパイルの創業者にして社長だった仁井谷正充氏は現在、家賃5万円のアパートの1室でこたつに入り、自分で作った料理を食べたりゲームをプレイする様子をひたすら流す、白髪の年配YouTuberになっていた──。
インタビュー前編『女の子を夢中にさせた『ぷよぷよ』を作った仁井谷さん、年商70億円からの転落「夢は『ぷよぷよランド』だった」』では、『ぷよぷよ』をヒットさせて最盛期は年商70億円も稼ぐも、その後一転、負債総額90億円を抱えて倒産するまでの半生を聞いた。
コンパイルの失敗とともに仁井谷さんも自己破産。『ぷよぷよ』の権利も売る羽目に。ちなみに『ぷよぷよ』ヒット前の39歳の時に1度結婚するも、1年以内に離婚している。完全に裸一貫となった氏はその後、転々と……。
『ぷよぷよ』から『にょきにょき』
「基本的には普通のちょっとしたアルバイト。特に40、50代になったらもうダメなんですよ、仕事ないんだよ。だから警備員とか。時にはゲーム系の専門学校の講師とかもしてましたけども、それも流れの中で立ちいかなくなって、また警備とか」
そんな生活の中で、“賭けてみたい”と思えるアイデアが浮かぶ。
「『ぷよぷよ』に関して言うと、改善できる点がある。2つに絞ると、1つは、連鎖を組むのに時間がかかるんですよ。特に6連鎖、7連鎖やるためには4~5年くらい練習しないと。これがツラい。それって遊ぶ人を選んじゃうわけじゃないですか。最初のうちはみんな遊んでたんだけど、そのうち“私は連鎖できない”ということで離れていくわけです」
──もう1つは?
「遊び始めて1週間の子と、マスタークラスの人が対戦すると、100対0で勝てない」
──あっという間にやられますからね。
「そうそう。100人のうち数人しか何年も継続して遊ぼうと思わなくて、しかも新規の初心者がすぐ諦めちゃう。この2つを改良したいと思って、新しいゲームを考えてみたんです。それが2016年に出した『にょきにょき』なの」
──構想はいつから?
「今からもう10数年前。例えば、ここに初心者とゲーム好きな子が10人くらいいるとするじゃないですか。遊び始めると1時間後に全員でドカーンと面白おかしく、しかも、個々人が自分なりの作戦を持って遊べる。後ろで見ている人も、“ああしなさい、こうしなさい”ってコメントができる。80歳、90歳のじいちゃん、ばあちゃんが、“ちょっと私もやらせて”というふうに言える。お絵描きする感覚で3歳児も遊べる。
しかもね、ここが大事なんだけど、1週間やり込んだ人と初心者がやったとして、50対50とは言えないけど、70対30ぐらいは、初心者も勝てる」
──それはなぜ?
「囲碁、将棋、ゴルフと同じで、ハンディキャップがつけられるの」
年金は借金500万円の返済に
この『にょきにょき』のために、会社も立ち上げた。
「自分のアイディアがよかったら任天堂で出してほしいなと思っていたけど、やってくれないからしょうがなしに。だいたい僕、自分の会社、いつもしょうがなしに作ってる。人に雇ってもらえていると、どうも自分のテンションが上がらないんで」
その名もコンパイル〇(マル)株式会社。2016年の4月に創業し、同年11月にニンテンドー3DSのダウンロード版として『にょきにょき』が世に出ている。
──いかがですか反響は?
「並の売れ方なんでしょうね、よくわかんない。(投資額を)取り返すためには1桁か2桁足りない。定価800円ですから。何がダメだったかって、基本的にはネット対戦できないんですよ。だからそれがもう。それは出すまで気づかなかったんで」
──今の時代、どんどんネット対戦になってますもんね。ちなみに資金の回収は?
「基本的には生活だけなら年金でできたハズなんです。でも年金は『にょきにょき』を作ったときの借金500万円の返済に使っていて。あと1年はかかるんだけど、それが終われば一応、年金とYouTubeでギリやっていける」
開発、制作にかかった総額は約1000万円だったそうで、それまで貯金があったかといえば、
「0円です。僕はいつも貯金できないですよ。仮に月20~30万円稼いでも毎月お金が飛んでいきます。1000万円は、親の援助で500万円と残り500万円は国の政策金融機関から借りて。それが今、返しているやつね。いや、だから国はすごいなと思うんだよね。やっぱり経営者に優しいですよ。とりあえず500万円貸してくれる」
僕の視聴者、8割とか9割はコリアン
10年ほど前から何度かYouTubeのトライ&エラーも繰り返してきた。しかし、うまくいかず。『にょきにょき』を知ってもらうために、またYouTubeに熱心に取り組み始め、そして、さらに2017年からは現在のチャンネル『MOOTV』を開設したところ、意外な人たちに発見されて、2021年12月下旬の時点で登録数7700人を超える反響になった。
「韓国にコンパイルファンがたくさんいるんですよ。その人たちが気づいてくれて。僕の視聴者、8割とか9割はコリアン。だから書き込まれるコメントもハングルが多い。聞いてみると、どうも日本のゲーム会社で最初に韓国現地法人を作ったのがコンパイルみたいなんですよ。『幻世酔虎伝』っていう1997年のゲームがあるんだけども、それが韓国の学校のパソコンに全部入ってたんです。おかげで、ある意味で韓国でいちばん知られている日本のゲーム会社という……」
現在の配信頻度はというと、
「生放送が週1回。土曜日の18時から24時までやってるかな。あとは動画を本当はもう1本、週に1回上げたいんだけど、なかなかね。編集も自分でやっているので。このマイクとかのYouTube用機材も自分で買ったし」
精力的に活動を続ける理由がそこにはある。
FXでもうけてNintendo Switch版を出したい
「今は『にょきにょき』をNintendo Switchからも発売して、最低でも10万本とか20万本売りたい。本当はもう1桁上の100万本にいきたいんだけど。たぶんNintendo Switch版を出してネット対戦できるようにすれば全世界で売れるし」
──ニンテンドー3DSで出されてるじゃないですか。それをNintendo Switchに変えるって、どれくらいお金がかかるものなんですか?
「5000万円位。スタッフが5~6人で、やっぱり半年はかかる。結局そうですよ。やるとしたら、ルールはちょっと進化させる予定。もっとわかりやすく」
──資金のめどは?
「これですよ」
そう言いながら、部屋の片隅にあるノートPCのモニターに映るチャートを指さす。
「本人が稼ぐか、株投資しかないでしょ。これ、FXね。でもまだ全然稼いでくれないので腹が立って(笑)。お金いっぱいかけたのに」
──FXでまだ稼げてないですか?
「今度のシステムで稼ぐ。年ウン倍になるって、きっと」
──生活のためのお仕事は?
「今の主な収入源は週2回やっている介護のアルバイト。デイサービスって言うのかな。基本的にはお泊まりで、夜の6時から翌日の9時まで、施設にいるご老人のいろんなお世話。基本的にはご飯を食べさせたり、トイレのお世話をするぐらい。ほかにも雑務がありますけど。ちょっとオシッコ、うんこは大変だけど、それもそんな大したことない。夜勤だからそこにスタッフは自分1人で、5人くらいの老人を見てる」
──71歳で高齢者介護って、肉体的に大変なお仕事じゃないすか。
「いや、そこは全然。体力はあるほうでしょう。どっちかいうと冬も寒いと感じないし、夏に暑いとも思わないし。ほかの人と比べて体力はたぶんあるんでしょうね」
その瞳の奥はギラギラしている。
「FXでもうけて、Nintendo Switch版の『にょきにょき』を出したい。YouTube登録者も10万人になれば、たぶんいけます」
そう、『ぷよぷよ』に大逆転があるように、人生にだって、きっと──。
(取材・文/相良洋一)
《PROFILE》
仁井谷正充(にいたに・まさみつ)◎1950年2月10日生まれ。広島県出身。1982年に株式会社コンパイルを創業。『ぷよぷよ』や『魔導物語』といったヒット作を出し年商70億円を記録するも、拡大路線がいきすぎて1998年に同社は倒産。本人も自己破産をする。職業を転々とした後、2016年にコンパイル〇株式会社を立ち上げ、新作ゲーム『にょきにょき』をリリース。復活を狙う。
コンパイル〇ホームページ=https://compile-o.com/
公式YouTube=https://www.youtube.com/channel/UCbDeKSeBY2EXMMNEanG_nlA
公式Twitter=https://twitter.com/mooniitani