2022年10月1日、ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』が3度目の幕を開ける。’16年の初演、’19年の再演に続き主演を務めるのは、ドラマに映画、舞台、音楽活動と幅広く活動し、老若男女から注目を集める小池徹平さん。’16年版、’19年版ともに全公演ソールドアウトと大人気の本作ですが、今回の出演を引き受けた決定打は? 前回まで、ともに主演した三浦春馬さん、そして今回から三浦さんが演じた役を引き継ぐ、城田優さんへの思いは? 飾らない心境をお聞きしました。
「春馬なしでこの舞台をやることには、葛藤もあるかもしれない」
『キンキーブーツ』3回目の上演を予定どおり決行したい、と聞いたとき、最初は「正直、できるだろうか」と、とても悩みました。
春馬があれほど愛していた作品だし、過去2回の舞台は、熱狂的にお客様が迎えてくださり、スタンディングオベーションの嵐で、こんなにも圧倒的に支持していただけるまでになった舞台を、はたして彼の存在なしに、自分がまた作り上げることができるのか。そして、コロナ禍のこんな状況で、みなさんが楽しめるのか。
深く悩んでいたので、なぜ3回目を予定どおり上演することを選んだのか、プロデューサーに訊ねました。
「春馬は『キンキーブーツ』が日本で長く続いていくことを望んでいた。ここで『キンキーブーツ』をやめていいのか?と考えたときに、皆が愛しているこの作品は、受け継がれていくべき作品のはずだという思いが強くなった」
そんな思いを聞いて、僕もそうだとうなずきました。
ただ、今回に関しては、キャストを変えて新しいカンパニーで作っていく、それは違う。そんなことはできない。「主演の僕がやらないと」という責任感もわき上がりましたが、一方で、こんな思いもよぎりました。
「3回目をやることは、誰しも迷いがあるに違いない。必ず初演、再演でやってきた場面がふと、よみがえるときがある。舞台に立つには相当なエネルギー、決意が必要だ。力を振り絞って取り組まなければならない」
葛藤の末、僕自身は出演する覚悟を決めたけれど、ほかのメンバーに対して「やろうよ」とは、ひと言も言っていないんです。これは、それぞれが自分で決めなければならないことですから。
「やるとなったら最高のものを作り上げる」という思いだけは持ち続けていましたが、どれくらいのメンバーが集まるかもわかりませんでした。どうなるのか、先が読めない気持ちだったメンバーもいたはずです。それが、蓋(ふた)を開けてみたら、過去の出演メンバーのほとんどが集まってくれました。過去2回で培ったチーム力や家族のような温かさをそのまま踏襲できる、その心地よさは、かけがえのないものです。
城田優とは同級生だが仕事場では“プロのいち役者同士”。彼に期待することは
初演・再演と違うのは、なんといっても、いちばん大切な存在である、ドラァグクイーンのローラを城田優が受け継ぐことです。ローラ役がどんな芝居をするかが、自分の芝居を作っていく中でもカギとなります。でも今のところ、心配や不安はありません。どちらかというと、僕らのカンパニーで今まで作ってきたものに、未知の刺激が加わって進化することができると期待を大にしています。
それから、優の参戦により、ビジュアルもこれまでとは明らかに異なります。186センチの身長に15センチのヒールをはいたときの優の巨大さ……(笑)。僕とはかなりの身長差がありますから、観客が見たときに、よりいい意味での“怪物感”が出ると思うんですよね。現実離れした雰囲気を出さなければならないキャラクターですから、そういう意味で優のサイズ感は、ローラの魅力を引き立てます。怪物的存在に立ち向かう人間のようにローラを見上げたときに、チャーリーはどんな感情を抱くのか、実際に舞台に立ってみないとわからない。そこは3回目の僕としても、心待ちにしているところです。
実は、優と僕は高校時代の同級生で長い付き合いなんですが、一緒に稽古場にいるのは初めてで、とても新鮮です。優の出演したステージや演出した作品はたくさん見てきましたが、ともに作り上げていくという共同作業は初。同級生ならではの信頼関係があるものの、仕事場では、“プロのいち役者同士”という意識を持つようにしています。
なんせ彼はガラスのハートの持ち主なので(笑)、今回ローラ役を演じることに、どれだけプレッシャーを感じていることかと勝手に想像しハラハラしているのですが、優自身は、人前で一切そんな姿を見せることなく、ひょうひょうと頑張っています。
LGBTQについて何かメッセージを伝える気はない。自由なとらえ方をしてほしい
ローラのキャラクターとして重要なのが、ドラァグクイーンという設定です。6年前の初演時には、「ドラァグクイーンってよくわからないけど、女装している男の人?」といった認識だったかもしれません。時が流れて、LGBTQが世の中にかなり浸透してきていたので、脚本のなかでも台詞(せりふ)のマイナーチェンジがあり、今の時代にあった表現方法に変わっているところもあります。初めて観る方には、聞きなじみがある言葉が多いかもしれませんし、初演・再演を観てくださっている方にとっても、より自然に台詞が入ってくるのではないかと思います。
ただ、LGBTQの何かを、ことさらメッセージとして必ず受けとってほしいとは考えていません。受け取るのはみなさんの自由だからです。役者側からどのように伝わってほしいと押しつけるより、演じたままを観て、LGBTQについて自由なとらえ方をしていただければと思っています。
3度目の公演に出演する決心をするまでの葛藤、深く信頼し合っている三浦春馬さんと城田優さんへの気持ちをぶつけてくれた小池さん。インタビュー第2弾では、舞台の世界に没頭することになったきっかけや、今回の『キンキーブーツ』への並々ならぬ意気込みを語ってくれました!
(取材・文/Miki D’Angelo Yamashita )
【PROFILE】
小池徹平(こいけ・てっぺい) ◎1986年、大阪府生まれ。’01年に『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』でグランプリを受賞し芸能界入り。俳優デビュー後、ウエンツ瑛士と音楽ユニット『WaT』を結成し、’16年まで活動。音楽活動のほかにも、ドラマ・映画と幅広く活躍するなか、’13年に宮本亜門演出の舞台『メリリー・ウィー・ロール・アロング 』でミュージカル初出演。’16年には『1789-バスティーユの恋人たち-』『キンキーブーツ』での演技が評価され、菊田一夫演劇賞を受賞。’22年後半は『キンキーブーツ』3度目の主演や、『科捜研の女 2022』(テレビ朝日系)への出演が決まっている。
【舞台情報】
ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』
脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン/音楽・作詞:シンディ・ローパー
演出・振付:ジェリー・ミッチェル/日本版演出協力・上演台本:岸谷五朗/訳詞:森 雪之丞
出演:小池徹平、城田 優、ソニン、玉置成実、勝矢、ひのあらた 他
◎東京公演:2022年10月 1 日(土)~11月 3 日(木・祝)@ 東急シアターオーブ
◎大阪公演:2022年11月10日(木)~11月20日(日) @オリックス劇場
※公演詳細やチケット情報は公式サイトにて→http://www.kinkyboots.jp/