先日、10代後半の方と話をしていてこんなことがありました。
「そうですそうです、それはいわゆる“Bダッシュ”ですね」
「Bダッシュ? おもしろい言い方するんですね」
少し驚きましたが、確かに若い方にとって「Bダッシュ」という言葉は珍しいかもしれません。なぜならこの言葉、最近はあまり使わないテレビゲーム由来の言葉ですから。
『スーパーマリオブラザーズ』から「Bダッシュ」が誕生
「Bダッシュ」という言葉は、ファミリーコンピュータの『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂株式会社)が流行したゆえに広まったと考えられています。
このゲームではマリオを操作してさまざまなステージをクリアしていくわけですが、基本テクニックとして重要なのが「Bボタンを押しながら移動するとマリオがダッシュする」というもの。幅の広い穴を飛び越えられるようになりますし、制限時間もあるので急ぐ必要があったのです。
『スーパーマリオブラザーズ』が大人気になった影響もあり、アクションゲームではこの操作方法を採用するケースも増え、ある種のスタンダードになりました。ひとつの言葉になっていることからわかるように、かなり重要な要素だったわけですね。
2005年にはトンガリキッズというアーティストが『B-DASH』という曲を発表。『スーパーマリオブラザーズ』のサウンドをサンプリングしたユニークな曲で、「ちょっと早すぎるかもよ B-DASH!!」という歌詞を覚えている人も多いかもしれません。当時、懐かしい曲としてヒットしました。
というわけで「Bダッシュ」は確かに世の中に根づいた言葉だったわけですが、そこからまた時代は変化していきます。テレビゲームの特徴のひとつはとにかく進歩が早いことで、本当に物事がすごい勢いで古くなっていくのです。
テレビゲームが進化、「Bダッシュ」ではなくなる
ファミリーコンピュータの次の世代は、1990年に発売されたスーパーファミコン。いろいろな部分が進化したわけですが、コントローラーもまた大きく変化しました。ボタンの数がかなり増えたのです。
それまではAボタン・Bボタンだけでしたが、スーパーファミコンではYボタン・Xボタン・Lボタン・Rボタンが増えました。となると、マリオの操作も少し変わります。
スーパーファミコンと同時に発売された『スーパーマリオワールド』(任天堂株式会社)では、マリオをダッシュさせるときに押すボタンはYボタンになっていました。そう、1990年の時点でもう「Yダッシュ」になっていたのです。
もちろん、「Bダッシュ」という言葉があるので「Yダッシュ」とは呼ばれませんでしたが、実態がなくなってたわけです。こうなるとBボタンによるダッシュを経験していた人はともかく、後の世代の人からすれば意味のわからない言葉になっていくわけですね。
また、テレビゲームが進化していくことでさらなる変化が起こります。テレビゲームはそのうち3Dグラフィックも主流になってくるわけですが、こうなると十字キーではなくアナログスティックでの操作が直感的になってきます。
アナログスティックで操作するタイプのゲームの場合、Bダッシュが採用されることはあまりありません。現在はアナログスティックを押し込むとダッシュ状態になる、などの操作がスタンダードでしょうか。
つまり、Bダッシュは『スーパーマリオブラザーズ』のような2Dアクションゲームではいまでも存在するのですが、ゲーム機が変わっていったり、ゲームのジャンルが増えていったことにより、常識ではなくなっていったのです。
今でも消えたわけではないBダッシュ
とはいえ、すべてのBダッシュがなくなったわけではありません。
例えばNintendo Switchの『あつまれ どうぶつの森』では、ダッシュを行う際はBボタンを押す必要があります。ほかのゲームでも、Bボタンでダッシュすることはありえるでしょう(とはいえ、これをわざわざBダッシュとは呼ばないとは思います)。
また、『マリオカート8 デラックス』には「Bダッシュ」という名前のカートが存在します。もちろんこれはあのBダッシュから来ており、ニンテンドーDSの『マリオカートDS』(ともに任天堂株式会社)からおなじみのカートとなっているようです。
そんなわけで、残念ながら言葉としてはあまり使われなくなってしまったBダッシュ。もはやこの言葉を使うのは(筆者を含め)おじさん・おばさんだけかもしれませんが、『スーパーマリオブラザーズ』が生み出したテレビゲーム史上の重要な存在であることは間違いありません。
(文・渡邉卓也/編集・FM中西)