2022年10月1日および2日、東京ドームホテル『天空の間』にて、錦織一清と植草克秀によるランチ&ディナーショー「ふたりのSHOW&TIME『SONG for YOU』」が開催された。各々のファンクラブを持つふたりが「いつかファンミーティングを行えれば」と思っていたところ、運よくこの会場が取れたため、思い切ってショーを開催することになったそうだ。
’21年末に同会場で行われた植草ソロでのランチ&ディナーショー『SHOW&TIME 2021』の最終日(奇しくも少年隊のデビュー記念日!)に、錦織がサプライズでゲスト出演して数曲歌ったことが大きな話題となったが、今回は、ひとつの公演を通しての共演。その最終公演(10/2夜の部)を観劇したので、当日の様子をじっくり振り返ってみたい。
錦織も植草も絶好調! 序盤の5曲で魅せた、ふたりの“底力”
開演前のスクリーンには、赤色と黄色(錦織と植草のメンバーカラー。ちなみに、少年隊のもうひとりのメンバー・東山紀之は黒)の星をちりばめていて、どこかアットホームなパーティーのようだ。そんななか、1988年のヒット曲「ふたり」をジャジーなピアノ演奏にアレンジした「Overture」が始まり、続いてふたりがステージ映えするアップテンポのナンバーで煌(きら)びやかに登場!オープニングから華やかだ。
錦織は現在、演出など裏方的な活動をメインとしている人とは思えないほどステップが軽やかだし(そもそも、こんな57歳見たことない!)、植草は昨年からソロのディナーショーやコンサートツアーを始めていたこともあり、バンド演奏との相性バッチリ。また、これまでより耳元をサッパリと整えたヘアスタイルも新鮮でイイ感じだ。
次の「ダイヤモンド・アイズ」は、もともと中音域が多いナンバーゆえ、50代になった今のふたりの歌声に合っている気がした。続く「HEAVEN」はシングル「封印LOVE」のカップリング。バンドブームの最中となる’90年に発売されたこともあり、その時代に沿ったナンバー「封印LOVE」が表題曲となったが、「HEAVEN」のほうがショービズ系のキラキラ感がまばゆい曲想で、少年隊らしさがある。会場中の歓声から、そのことがよくわかった。
さらに「トワイライト・フィーリング」が続く。 ’84年のレコードデビュー前に発売されたビデオ『少年隊』に収録され、’20年にようやく初CD化された青春ポップスだ。あのころのようにシャカリキに踊ることはないが、錦織の身のこなし方からは天才肌が透けて見えるし、植草のボーカルに残る少年性も、この歌の魅力をしっかりと受け継いでいる。
MCでハジける錦織のマシンガントーク、明るい笑顔で応じる植草
ここまでの5曲だけで、すでに最高潮に達したように見えるほど盛り上がる中で、ふたりのMCがスタート。華麗なショーとは打って変わって、錦織のハジケまくったマシンガントークに驚かされる。例えば、「トワイライト・フィーリング」の歌唱中、《♪君はもう少女にさよならさ~》の歌詞にのせて客席とアイコンタクトをとったら、前方の女性ファンが「うん」と頷いたなど、あること、ないことを織り交ぜた話の展開が天才的。落語家のようであり、企業の有能なプレゼンターのようでもあり、とにかく頭の回転が速く、ウィットに富んでいて会場内の笑い声が絶えない。
そして、そんな錦織の横で、終始ニコニコしているのが植草だ。呆(あき)れたような安心したような反応を見せるが、これもまた、相手への信頼あってのことだろう。親友・植草を強めにイジる錦織のジョークも、踊りすぎたあと、なかなか息切れがおさまらない様子も、会場にいる400人の観客が、優しい笑顔でまるっと包み込んでいる。そう、少年隊の結成から、もうすでに40年もたっているのだ。その中で培われたメンバー同士の絆、そして、ファンとふたりとの絆を感じさせるステージであることが、ここまでの30分でもビシビシと伝わってきた。
錦織が「最終日の今日が本番、昨日まではリハ、リハ!(リハーサル)」といたずらっぽく笑うと、植草も「この日まで振りがそろったことがない(笑)。(だから、このあとはお楽しみに)」と続け、このあたりのファンを喜ばせるトークもうまい。かと思えば、散々ジョークをかましたあとで、錦織が自分も表に立つことについて「こういう舞台は最高!」「やっと足並みがそろった」と感慨深く本音を語る様子に、この光景をずっと心待ちにしていたファンは胸を熱くしたことだろう。
ソロコーナーの選曲に感じた強い思い、“3人でのショー”の可能性
そして、ここからはお互いのソロコーナー。まずは植草が着替えに入り、その間に錦織がバンドのメンバーを紹介。デビュー当初からテレビやコンサートで共演してきた懐かしい顔ぶれも多いようで、コメントの節々から、ミュージシャンたちへの感謝が感じとれる。途中、自身のTwitterを閉鎖したことについて、「僕にはもう、書き込みされる場所はありません。またmixiからやり直そうと思います」とジョーク混じりに語る。だからこそ、「今ここにいる生の自分を見てほしい」という意気込みも伝わってくる。
その後、錦織に「長めの上着ー!」と茶化されて登場した植草が、近年制作したソロ曲を3曲続けて披露。
スリリングかつ大人の色気がただようポップス、これまでの感謝をつづったバラードに続いて3曲目に歌ったのは、’22年に作った明るくノリのいいミディアム・ポップスの「Sha la la」。観客も左右に腕を振るなどノリノリで、途中、錦織もダンサーに交じって登場! 会場が前のめりに盛り上がったためか、植草が大サビの歌詞を前のめりに間違えて歌うというハプニングまで起きてしまった。
本人はその後、「いい気分になっちゃった……。こんなこと、めったに……あります!」と苦笑いしつつ、何度も悔やんでいたが(このあたりは実にまじめ)、会場はそんなハプニングなど気にならないくらい、楽しい雰囲気で包まれていた。
そして、ここからは錦織のソロコーナー。いずれもカバー曲で構成された。
少年隊の楽曲の多く(特にシングル以外の楽曲)では、植草がメインパートを多めに歌うことで土台をしっかりと支え、錦織はAメロの一部を歌ったりサビでハモったり、とサポートする形がやや多いように感じる。だが、自身のソロコーナーではいずれの曲に関しても、“いまの自分を表現して、伝えたい”という錦織の思いがあふれていた。
そう、植草も錦織も、そして今回は会場にいない東山も、ソロ・アーティストとして確実に前に進んでいるのだ。つまり、今回は“3人それぞれが自分の道を歩んでいる途中で、このふたりが日にち限定のユニットを組んだショー”という感じがした。だからこそ今後、別のふたりによるユニットでのコラボも、さらには、3人でのショーの可能性も感じられた。
錦織が選んだカバー曲は、アップテンポの洋楽曲2曲と、それらのあいだに歌われたのが「青い瞳のステラ」(正確には「青い瞳のステラ、1962年 夏…」、原曲:柳ジョージ)。これは錦織が演劇の世界にどっぷりと浸かるきっかけとなった、つかこうへい氏への哀悼を込めて選曲したのだが、《♪ほめてくれよ しゃがれた声で 芝生の下で眠っていずに》の部分を熱唱する様子は、会場中が何とも言えない寂寥(せきりょう)感に包まれた。この1曲だけでも、つかこうへい氏を錦織がどれほどまでに尊敬し、慕い続けているかが手にとるように伝わってきた。
そして、感動が渦巻く中で植草が戻ってきて、また和やかなトークに戻る。10月20日(木)に公開予定のライブレポートの第2弾では、このあとに続く衝撃(笑撃?)のデュエットや、終演直後に敢行した植草へのミニ・インタビューなどの様子をお届けしたい。お楽しみに!
(取材・文/人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝)