2022年、CDデビュー25周年を迎え、この7月27日、ついに通算45作目となるシングル「Amazing Love」が発売となったKinKi Kids。この楽曲は、作曲担当の山下達郎らしい爽快なメロディーに、光一と剛が合作で作詩を手がけたナンバー。これまで、作詩→剛、作曲→光一というかたち(または作詩・作曲がその逆)での合作は見られたが、作詩を「KinKi Kids」としてふたりで担当したシングルは今回が初めてとなる。
ふたりのハモリに加えて、Bメロの「か」「も」「し」「れ」「ない」「でも」と一音ずつボールを投げ合うように掛け合うのも息がピッタリ。この夏の定番となりそうなほどキャッチーな楽曲だ。筆者個人は、光一の「カモン!」と、剛の「Goodbye」のときのさりげない手ぶりについて、パフォーマンスのたびに出来が変わるのを注視している(笑)。
しかも、この歌には、「Love」やその変化形にも聞こえる「LaLaLa」というフレーズが大量に出てくるうえに、ふたりのイメージカラーである「赤」や「青」という歌詩も相まって、パーソナルな恋愛よりも、「KinKi Kidsとファンの関係」、さらには自分を支えてくれる人々との相思相愛を感じさせる。それだけスケール感のある楽曲であり、今後、より多くの人に歌われる楽曲になることを願っている。
災難にも見舞われたが、それがふたりの成長につながった
さて、連載最終回となる第5回は、2017年から2021年における5年間のカラオケヒット曲ランキングを振り返ってみたい。この直近5年間の出来事としては、'17年に剛が突発性難聴を発症したこと、そして '20年以降、新型コロナウイルスのまん延やその防止のため、活動にさまざまな制約を受けたことがとても大きいだろう。
ただ筆者は、これらの経験がふたりを大きく成長させたようにも感じている。なぜならば、光一は、それ以前ならレーシングカーにまつわる知識の披露や、ライブでの“ドS”な観客いじりなど、ワガママ王子ぶりまでもが大きな魅力だったが、この時期に剛の体調を気遣いながら活動した影響からか、レギュラー番組でもスタッフをねぎらう場面がとても増えた。また、コロナ禍で舞台が延期や中止になっても“SHOW MUST GO ON”の精神を貫く、覚悟を決めたようなコメントも増えたからだ。
他方、剛のほうも耳の後遺症が残るなか、'18年からはソロ・プロジェクト名をENDRECHERIとして4年連続でファンク・ミュージックのアルバムを発表、また、中止となっていた平安神宮での奉納公演も'20年に再開した(こちらは“堂本剛”名義)。また、歌詩やトークにおいて、争いよりも互いに相手を思いやることの大切さを、人に諭すのではなく、まずは自ら実行しようという姿勢が伝わってくる。そうした彼の思いやファンク・
そんな2017年から2021年に発表されたKinKi Kids名義の作品は、シングルは前の5年間と同じく6作、アルバムも前5年間と同じく3作だが、今回はそのうち2作がベストアルバムと、新作のリリースはより少なくなっている。それでも、ふたりの人間的な成長ぶりや、音楽面の充実ぶりは、カラオケランキングからも見てとれる。以下、5年ごとに見ていこう。なお、20周年を迎え既存曲も増えてきたので、この回では各年TOP40を載せることにする。
「愛かた」総合TOP10入りの快挙! ベストアルバム収録曲も健闘
まず2017年は、発売から17年目にして、ついに「愛のかたまり」がJOYSOUNDの年間カラオケランキング(総合)でもTOP100を果たした。10年以上の歳月をへてカラオケのスタンダードになるという現象は、ジャニーズの中では初、また邦楽ジャンル全体の中でも、中島みゆき「糸」やスターダスト・レビュー「木蘭の涙」など、数年に一度あるかどうかだ。しかも、「愛かた」の場合は、後づけのタイアップもなく、純粋に楽曲のよさだけでジワジワと上昇してのTOP100入り。真の名曲と言えるだろう。
その大きな後押しとなったのが、'17年1月に発売されたバラード・ベスト『Ballad Selection』で、この発売に合わせて、テレビ番組では「愛のかたまり」も何度か披露された。収録されたスロー・テンポの“『M album』バージョン”は、前年の42位から34位に上昇、また、オリジナル・バージョンもより頻繁に歌われるようになった。ほかにも、同アルバムからは「青の時代」、「雪白の月」、「むくのはね」、「銀色 暗号」などが顕著に上昇。コアなファンの中には、とかくベストアルバムを敬遠しがちな人もいるが、やはりファン層が広がったり、名曲が再認知されたりという効能を考えると、ベストアルバムはアーティスト寿命を延ばすためのマストアイテムと言えよう。
特に伸びたのが、'13年の『L album』に収録された「むくのはね」。玉置浩二作詩・作曲による温かくも切なくなるバラードで、本作は、KinKiのレギュラー番組『新・堂本兄弟』にゲスト出演した玉置の即興曲をベースに仕上げられた。サビの「愛してる 愛してるって」の部分は玉置の声が聞こえてきそうなほど熱を帯びており、KinKi Kidsの新たな魅力を引き出すこととなった。
「Anniversary」が上昇、「雪白の月」は光一と剛も太鼓判
2018年は、'04年のシングル「Anniversary」が5位に上昇。もともとは、愛する気持ちがより強くなった今日を“記念日”だと歌ったストレートなラブソングだが、その美しいメロディーとふたりの歌声に心酔するファンが増えたのか、'07年の10周年ベスト『39』のファンリクエストでは「愛のかたまり」に次いで2位に。また、20周年となる'17年の記念ライブ『KinKi Kids Party!~ありがとう20年~』でも、横浜スタジアムにいる光一と耳を患ったため別スタジオにいる剛が中継しつつ、さらに会場にいるファンが一体となって大合唱したことが、カラオケ人気にもつながったのだろう(この模様は'17年末発売のベストアルバム『THE BEST』の初回盤DVDに収録)。
12位には'18年の新曲「Topaz Love」が登場、この5年間の新曲の中では最高位となる。本作は、前述の『KinKi Kids Party!』のライブ1日目に光一がメロディーを披露し、それを聴いた剛が2日目に「突発Love」として歌詩を仕上げたものが原形となったアッパー・チューン。「聴こえなくなった続きへ耳を澄ます」と自身の症状をリンクさせ、「青い色に赤らむ唇」とふたりのイメージカラーを盛り込んだことも、ファンにとって大切な楽曲になった要因だろう。
2019年は、新曲が21位に登場した前年末発売のシングル「会いたい、会いたい、会えない。」のみ。久保田利伸が詩曲を手がけたメロウなラブ・バラードだが、本作よりも上位となったのが18位の「雪白の月」で、前年より7ランクも上昇。'05年のシングル「SNOW!SNOW!SNOW!」の通常盤のみに収録されたカップリング曲だったが、'10年代になってライブで歌われる頻度が増えたことや、'17年の『Ballad Selection』にも収録されたこと、さらにはKinKiのふたりや共同制作の多い堂島孝平も「名曲!」と語るようになったことから、発売から14年をかけて過去最高の18位となった。
光一は、今年出演した『Love music』(フジテレビ系)にて、「KinKi Kidsらしい魅力がつまった楽曲」、なおかつ「難しくてあまり歌いたくない曲」として「雪白の月」を挙げた。確かに、ハモリパートが複雑だったり、地声と裏声を交差する部分が多かったりと歌いづらい曲だが、光一の内省するような甘い歌声も、剛の寂しくも凛とした歌声もじっくり堪能できるバラードゆえに、徐々に人気が出ているのだろう。今後、「愛のかたまり」の対抗馬としてさらに伸びると、ここで予言しておきたい(笑)。
コロナ禍の影響で“隠れ名曲”が人気に、歌詩が響く曲も愛される
そして2020年に入ると、1位独走中の「愛のかたまり」が総合ランキングでも2度目の年間TOP100入り。また、よりスローな「愛のかたまり-from M album-」も32位に上昇した。
これは、ジャニーズ事務所の新型コロナウイルス感染防止の支援活動「Smile Up! Project」の一環として、光一が「愛のかたまり」の替え歌として「家のかたまり」の動画をアップし、ステイホームを呼びかけた影響が大きい。「まるでかよわい女の子 とか関係ないよ 危ない」「手洗いうがいは わたしだけの為じゃないから」「思い切り抱き寄せられると 近い」「明日の朝も 自粛するよね」といった、厳しさの中にも優しさを内包する光一らしい歌詩が、SNSで大きな話題を呼んだ。
また、この年から感染拡大防止のために、カラオケは大勢ではなく、ひとりや少人数で楽しむ割合が格段に増えた。その結果、“お付き合い”を重視して誰もが知る有名曲を歌うのではなく、自分だけが知っているような隠れ名曲がより人気を得るようになった。その影響がこのランキングにも表れており、「雪白の月」が18位から15位、'05年のアルバム『H album -H・A・N・D-』収録の「恋涙」も25位から21位と、シングル表題曲以外の上昇が目立つように。この傾向は、引き続きコロナ禍の影響が色濃い'21年以降も続いている。(「むくのはね」が27位で最高位更新、「欲望のレイン」が29位で8年ぶりにTOP30入り)
なお、'20年には、剛の作詩・作曲による「KANZAI BOYA」が34位にランクイン。ノリノリのファンキーなナンバーで、後半、光一の扮(ふん)するジャニー喜多川が“降臨する”という場面も、中毒性の高い「KANZAI BOYA!」という歌詩をリピートする部分もインパクト絶大。
そして、2021年は前年末に発売された約4年ぶりのアルバム『O album』から「新しい時代」が26位、「彗星の如く」が36位にそれぞれランクインした。特に前者は、マシコタツロウによる曲に、剛が詩をつけた美しいバラードだが、コロナ禍で容易に人と会えなくなったことや、人が亡くなったことを乗り越え、「また会えるその日へ 抱き合えるその日へ」と切なくも力強く歌いあげている。この柔らかな風が吹き抜けるような作風も、CDデビューからおよそ25年にしてたどり着いた新境地といえそうだ。
この原稿を書いている途中、最新シングル「Amazing Love」が発売前日(いわゆるフラゲ日)だけで18.6万枚! というニュースが飛び込んできた。もし累計30万枚を超えれば、'06年のシングル「Harmony of December」以来、実に16年ぶりの快挙となり、それだけ本作に向けたキャンペーンが大々的だったことがわかる。
今回、本連載を含むさまざまなメディアで25年間の名曲が紹介されたことで、「久々にカラオケで歌ってみたい!」と、うずうずしている読者の方も多いのではないだろうか。それだけ彼らには、歌いたくなる名曲が多いということでもあるだろう。そして、それと同時にデュオ・KinKi Kidsとして、それぞれが唯一無二の歌声と絶妙なハーモニーを奏でているというすごさも、よくわかった。
この25年間、J-POP全体でのヒット曲の傾向は、サビのインパクトが重視されたCDミリオン時代から、半径2メートル内の恋愛ソング中心のダウンロードの時代、そして、イントロを削って曲を複雑に展開させるストリーミングの時代と大きく様変わりしてきたが、KinKi Kidsはその流れとは関係なく、ゆるやかに、けれどさまざまな音楽ジャンルをしなやかに吸収しながら成長を遂げていることが改めてわかった。だからこそ、われわれファンは「このふたりなら大丈夫」とどこか安心しながら、新たな活動に期待し続けることができるのではないだろうか。
《取材・文/臼井孝(人と音楽をつなげたい音楽マーケッター)》