宝塚歌劇団・星組トップスターとして『眠らない男・ナポレオン-愛と栄光の涯(はて)-』など数々の話題作に主演し、歌劇団在籍中に日本武道館での単独コンサートを開催するなど、宝塚の歴史を代表する存在の柚希礼音さん。2015年に退団後も舞台を中心に精力的に活躍を続け、6月5日からは、2019年読売演劇大賞優秀作品賞を受賞した主演ミュージカル『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』が待望の再演。
2回にわたるインタビュー【前編】では、“自由”と“平等”を求めて闘った女性たちを描いた特別な作品への思いや魅力、人生に欠かせない友人について、人間関係で大切にしていることなどを語っていただきました。
身近な女友達が再演を大喜びしてくれた
──まずは、ミュージカル『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』が、4年ぶりに再演される心境をお聞かせいただけますでしょうか?
「初演のときは、女性の権利を求めた労働運動を描いた作品で硬いイメージがあったのか、実は公演前はお客様からすごく期待されている感じではなかったんです。ですが観に来てくださった方々が、どんどん口コミで広げていってくださって。身近な女友達も、いまだに『FACTORY GIRLS』の楽曲を歌っているくらいみんなこの作品が大好きで、再演を大喜びしてくれたんですよ。多くの女性にこの作品が刺さったのは嬉しいです」
──柚希さんが思われる今作の魅力とは?
「私が演じる主人公のサラ・バグリーは、もともとリーダー的な強い人物じゃなく、自分の夢を叶(かな)えるために故郷から出てきた女性。そんな彼女が紡績工場のひどい労働環境を目の当たりにして、悩んだり苦しんだり、ときには反省したり、いろいろな葛藤を抱えながら、それでも仲間のために自分のために、できることをやってみたいと立ち上がるんですね。
そういうふうに、誰でも変わろうと思えば変われるし、自分に期待できるという気持ちになる。明日から頑張ろうと思えるミュージカルだなと思います」
──ご自身とサラ・バグリーとの共通点はありますか?
「(脚本・歌詞・演出の)板垣(恭一)さんが、初めてご一緒したにもかかわらず私に当て書きをしてくださったので結構、共通点はあるのですが……。私は、宝塚時代もリーダーという感じではなかったんですね。トップになった最初のころは、がむしゃらに無理やり頑張ったときもあったんですけど、それだとみんながついてこないような気がして。最終的にトップとしてやっていけたのは、できないことはできないと言って、みんなに甘えて、全部ひとりで抱え込まずに、助けてくれるようにお願いして、手を差しのべてもらったからだと思うんです。弱いところや頼りないところをたくさん見せたほうが、逆に信頼関係が強くなったんですね。
サラ・バグリーも最初は何もできなくて落ち込んだりしながら、あなたのような人が必要なのだと仲間から盛り立てられる人なので、リーダーとして歩んで来た道のりは似ていると思います。あとは、正義感があるところも、ちょっと似ているかもしれないですね」
【STORY】
19世紀半ばのアメリカ・ローウェル。産業革命により大規模な紡績工場が誕生し、多くの先進的な女性たちがファクトリーガールズとして働いていた。貧しい家族を助けるため、自らの自由を得るためにローウェルにやってきたサラ・バグリー(柚希礼音)もそのひとり。
しかし、工場で彼女が目にしたものは、轟音をあげる機械、理不尽な抑圧、そして機械のように働くガールズ。衝撃を受けるサラだったが、心優しい仲間たちに出会い、刺激を受ける。中でも、自由を夢見る女性たちの憧れである寄稿集「ローウェル・オファリング」編集者のハリエット・ファーリー(ソニン)との出会いによって、彼女は文章を書くことに新たな自分を発見。ハリエットもまたサラの文才を認め、ふたりは深い友情で結ばれていく──。
高校時代の親友とはずっとつながっています
──サラ・バグリーと深い友情を結ぶハリエット・ファーリーを演じるソニンさんとは、初演に続く共演となりますが、楽しみにされていることは?
「再演が決まって、“一緒に頑張ろう!”と喜び合いました。初演でもすごくタッグを組んでやっていたので、お互いにいろいろな道を歩んできて、4年ぶりにまた一緒にできるのがすごく嬉しいです。さまざまな経験を経て、きっとお互いに成長して変わっていると思うので、初演を思い出そうとせず、またゼロから作り直すつもりで臨みたいですね。
再演されてよかったと言ってくださる声がある分、ハードルが上がっているので、本当にプレッシャーがかかってきます。だからこそ、みんなで力を合わせてものすごくいいものにしないと。そして、初演のときには見えていなかったところがきっとあると思うので、そのあたりを冷静な目で見ながら作っていけたらいいなと思います」
──サラとハリエットの友情も今作の重要なテーマだと思いますが、ふたりのように、お互いに高め合える存在として深くつながっている方は身近にいますか?
「高校の同級生の親友とは今でも一緒に旅行に行ったり、もうず~っと交流を持っています。宝塚に入ってからもトップになっても、高校時代と関係性はまったく変わらないから、すごく楽なんです。“柚希礼音”だから傍(そば)にいるわけではないという人たちなので、宝塚の話もしませんし、そういう友達がいるのはありがたかったですね。“大阪でおいしい店教えて”みたいな感じで、今も常に連絡を取り合っています(笑)」
──そういうお友達と一緒の時間は、仕事との切り替えになりますか?
「そうですね。落ち着きますし、いろいろツッコんでくれるのが面白いです。例えば、“インスタグラムがオフィシャルな情報ばかりで面白くないから、もっとプライベートなこと載せたら?”とか(笑)。そもそも、その同級生がおススメしてくれて、退団してすぐにインスタグラムも始めたので。身近で聞ける一般の方の声として参考にもなっていますね」
──柚希さんにとって、学生時代のお友達はどういう存在なのでしょうか?
「中学時代の友達も今でも仲良くしていますけど、やっぱり、ず~っと当時のまんまの関係なのが幸せですよね。一緒にゴム跳びしたり、先生に怒られたりした思い出がいっぱい詰まった友達と、今でもそんな話ばっかりしているっていうのがとても大切な絆だなと感じています」
自分の思いを相手にちゃんと伝えること
──学生時代のお友達と今でも変わらない関係でいられるのは、柚希さんご自身も変わらないからだと感じますが、人とのかかわりで大切にしていることは?
「まず、私が変わらずにいられたのは、宝塚入団からずっと在籍していた星組に、ピヨピヨのころからトップになってもずっと見ていてくれて、いつまでたってもちゃんと叱ってくれる先輩方がいてくださったからだと思います。
それから、先輩方にすごく教えていただいたのは、思ったことはちゃんと本人に伝えるということ。トップになってからも、本当に思うことや大切なことは、相手役さんとかにも直接話すようにしていました。そのときは怒られたみたいな気がするけれど、時間がたったら、絶対に直接言ってもらったほうがいいと自分自身も思ったことがあったので。今もちゃんと自分の思いを相手に伝えることは大切にしていますね」
──では改めて、ミュージカル『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』への意気込みと読者へのメッセージをお願いします!
「私が演じるサラと、ソニンちゃん演じるハリエットの友情も、より深く描かれますし、新メンバーも加わってどんな化学反応が起きるのか私も楽しみです。再演ではますますブラッシュアップしたものをお届けできると思います。すべての方々の背中を押せるような作品にできるよう頑張っていきますので、ぜひぜひ多くの方にご覧いただきたいです」
※インタビュー後編に続きます
(取材・文/井ノ口裕子、ヘアメイク/佐藤エイコ、スタイリスト/間山雄紀(M0))
《PROFILE》
柚希礼音(ゆずき・れおん) 6月11日生まれ。大阪府出身。1999年、宝塚歌劇団に85期生として入団し初舞台。2009年、星組トップスターとなる。主な主演舞台に『ロミオとジュリエット』、『オーシャンズ11』、『眠らない男・ナポレオン-愛と栄光の涯(はて)に-』などがある。2014年には日本武道館での単独コンサートも実現するなど、宝塚100周年を支えるトップスターとして活躍。2015年5月10日、『黒豹の如く』『Dear DIAMONDO!!』にて宝塚歌劇団を退団。退団後は、『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』『マタ・ハリ』『ボディガード』など多くのミュージカルに出演し、舞台を中心に活躍。2024年3月、『カム フロム アウェイ』出演予定。
●公演情報
ミュージカル『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』
【作詞/作曲】クレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニー
【脚本/歌詞/演出】板垣恭一
【出演】柚希礼音 ソニン/実咲凜音 清水くるみ/平野 綾/水田航生 寺西拓人
松原凜子 谷口ゆうな 能條愛未/原田優一・戸井勝海/春風ひとみ 他
【日程・会場】
東京公演:2023年6月5日(月)~6月13日(火)東京国際フォーラム ホールC
福岡公演:2023年6月24日(土)・6月25日(日)キャナルシティ劇場
大阪公演:2023年6月29日(木)~7月2日(日)COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール