2022年9月から、17年ぶりに上演される伝説のミュージカル『シンデレラストーリー』。かの有名な童話「シンデレラ」を子どもから大人まで楽しめるようにと、鴻上尚史さんが書き下ろし、ウォーリー木下さんが演出を担当します。この作品でミュージカル初参加となるのが、モデルでタレントのアンミカさん。テレビで見ない日はないほどマルチに活躍されているアンミカさんに、初ミュージカルへの誘いを受けたときの心境や、コンプレックスを克服し、努力を重ねてきた半生について語っていただきました。
「自分にピッタリ!」と二つ返事で快諾。夫も初舞台にエール
8月の頭にハワイでのバカンスから帰ってきたばかりで、まだ少し気分が南の島モードです。滞在中は、初舞台となるミュージカル『シンデレラストーリー』の台本をすべて暗記しましたし、海に向かって、歌の練習もしていました。波の音にまぎれるので思う存分、声を出せて、隣人に気をつかう東京では考えられないほど思い切りお稽古ができました。
その様子を見ていた主人も、私のミュージカルへの初挑戦を楽しみにしてくれています。いつもはバカンス先に単行本をたくさん持っていくのですが、今回は台本だけに絞りました。普段は推理小説が好きで、読んでいると眉間にシワが寄ってしまうのに、台本に目を通しているときは「ニコニコしている、よかった」と、彼も喜んでいました。
私が演じる魔法使いの役は、しいたげられて、つらい思いをしているシンデレラが、美しくピュアな心を忘れずに王子様と結ばれるためにひと役買って、ハッピーエンドに導くというキーパーソン。ポジティブな言葉をカレンダーや手帳などにして、前向きになれる思考をみなさんにお伝えしている私ですが、「自分にピッタリの役のお話をいただけた」と、二つ返事で迷いなくお受けしました。
東京に出てきてすぐのときに、バラエティ番組『歌うま女王は誰だ!? 歌がうまい王座決定魂の大激突スペシャル』(フジテレビ系)に出場して初優勝してから、CDデビューや、テレビのバラエティ番組で歌う機会があった中で、「アンミカさんは歌えるみたい」とキャスティングしていただいたようです。学生時代にヒップホップのダンスグループで踊っていたので、別の番組でダンスをご披露する機会もありました。たまたまミュージカルに必要だった2つの要素を持っていましたが、プロの中に入るとまだまだなので、ここからは50歳の新人。自分磨きを頑張ります。
自分を変えてくれた母に舞台を見せてあげたかった
舞台への出演が決まり、まず、亡くなった母に報告しました。コンプレックスだらけだった幼少期に、勇気を与えてくれたのが母でした。太っていたし背も低く、けがの傷跡が唇に残っていて笑えなかった子ども時代に、“4つの魔法”を教えてくれたんです。短命だった母が伝えてくれた次の言葉を、今も守っています。
「目鼻立ちが美しいことだけが美人ではないのよ。一緒にいて、心地いい人が美人。姿勢、笑顔、目線には“心”が表れるから、目線の運び方、そして会話術が大切。相手の目を見て話すこと、人の話をきちんと聞くこと、姿勢をよくすること、口角を上げること。すべてができる人が、最高の会話上手。この4つを忘れないで」
母の言葉を実践するうちに、自信がついてきたんです。きょうだい5人が年子だったので、母は私たちが争わないようにと、一人ひとりの個性を上手に育てて、「将来、こういう人になれば」と夢を与えてくれました。姉は音感があるから音楽、兄には、弁が立って正義感が強いからと法律関係への道をすすめ、私には、
「ミカちゃんは、“4つの魔法”を実践してモデルになれたらいいね、背は低いけど手足は長いよ」
と励ましてくれたんです。幸い、高校1年で身長が11センチも伸びて、「モデルになる夢が実現するかも」と希望を持つことができました。
大阪に住んでいたので、週末はテレビで宝塚や吉本新喜劇を見る機会も多く、母から「ミカちゃん、踊りもうまいから、ミュージカルに出られたらすてきね」と言われていたことを思い出しました。母にいつか見せてあげたかったことの1つがかなって、うれしく思っています。
とにかくポジティブ! 幾度も逆境を跳ねのけモデルの道へ
とはいえ私、もともとは体育会系で、小学校ではキックベースボールでキャプテンを務め、男子と対戦していました。中高は陸上、社会人ではクラブリーグのバスケに関わり、ひたすらスポーツに励んでいました。バスケは、「なぜ学生のときにやらなかったんだろう」と後悔するほど楽しかったです。短距離的な要素、長距離的な要素、ジャンプと、運動機能がひと通り学べることも役に立ちました。
中学では、陸上部の前に演劇部に入ったのですが、いじめられていたんです。でも、自分では気がつがなかったんですよね。腹筋の最中におなかにバッグをぶつけられたりしても、「期待されているのね」と問題にもしない。根がポジティブなんです。一度、私だけ「校庭を笑顔で走れ」と命じられたことがありました。演劇の稽古に必要なんだと思って、ほほえみながら走っていたら、みんなは上から見て笑っていたらしくて。
でも、笑顔で疾走している私を見た陸上部の人から、「なんて楽しそうに猛スピードで走っているんだ」とスカウトされて、入部することにしたんです。800メートルや3000メートルなどの中長距離を走っていましたが、ペース配分が難しく苦しすぎて、ほかにやる人がいないんですね。「誰も選手がいないから」と選んだらハマってしまいました。持久力が培われたかと思います。
高校2年以降はケガに悩まされ、陸上は続けられなかったのですが、中学3年生のころから、すでに「モデルになりたい」という気持ちが強くて、モデル事務所に何十回も書類を送っていました。不採用続きで、ついには「写真写りが悪いだけなので、実物を見てください!」と直談判に行ったところ、面接してくださった方が社長さん。面接には落ちたものの、「また遊びにきていいよ」と声をかけてくださったことを真に受けて通い続け、モデルオーディションのレッスン生に欠員が出たところで、ぎりぎり入れていたただくことができました。
数か月ものあいだ、誰よりも早くレッスンに行っていた姿を社長が見て、「こんなに頑張った人は見たことがない」と評価していただき、「高校卒業までに芽が出なかったら、モデル事務所にいたという肩書きを武器に世間に出たらいいよ」と、思いやりのある条件で所属させていただけました。でも結局、卒業まで、モデルとして芽は出ませんでした。
そのころ、父は「大学に行ってほしい」、私は「モデルをやっていきたい」と意見が合わず、ついには「モデルをやるんだったら、ひとりで暮らして世間とお金の厳しさを経験しなさい。たまに仕事をして、家でぶらぶらしてる大人をきょうだいに見せたくない」と言われ、一流モデルになるまで帰らないことを条件に家を出ました。
努力は苦にならない。資格やさまざまな勉強への意欲大
その際、「新聞を読んで社会の動向を知ること」「自分がワクワクできて、今後の役に立つような資格をとること」の2点を父と約束したんです。言われたとおり、資格をたくさん取りました。若くて常識を心得ていると社長秘書になれる、と思い秘書検定、言葉を知っていると便利かも、と漢字検定、ちょっとでも雑誌にたずさわれる仕事ができたら、とマスコミ校正などなど、モデルで独り立ちできなかったことを考えて、実用的な資格を中心に勉強していました。今は「芸能界での仕事に役立つような知識を得たい」と考え方は変わりましたが、資格を取ることにはますます積極的です。
幼いころから、やると決めたら、なんでもひたすら努力します。
例えば絵は、想像ではまったく描けないのですが、写生は得意。だから、きちんと勉強して描いていました。天才肌ではないので、成長できる過程が楽しく、努力が全然、苦にならない。常に目標がある日々を送ってきました。
コロナ禍になってからは、家にいる時間が増えたので、この機会に新たな資格の勉強をすることに決め、「漢字検定」の準1級に挑戦。30年近く前に漢検2級をとってから、しばらくぶりに漢字を学び始めました。過去に勉強した漢字を全部おさらいして、大阪で仕事があれば、行きの新幹線では出演番組について頭に入れ、帰りは猛スピードで漢字を暗記していきます。
常に前向きな精神で自身の道を切り開かれてきたアンミカさん。インタビュー第2弾では、ミュージカルの初舞台にかける意気込みや、生まれ故郷である韓国へ30歳間近で留学した際の思い出などを語っていただきます!
(取材・文/Miki D’Angelo Yamashita)
【PROFILE】
アンミカ ◎’93年にパリコレ初参加後、モデル業以外でも、テレビ、ラジオ、ドラマや映画、時には歌手として、様々な表現分野で活躍。野菜ソムリエ、漢方養生指導士中級、ベジフルビューティーアドバイザー、NARDアロマアドバイザー、化粧品検定一級、ジュエリーコーディネーター3級など20の資格を活かし、服やコスメ、ジュエリーなど商品プロデュースを展開。ポジティブな考え方、幸せな生き方を提唱すること講演会も人気で、幸せに関する本も多数出版。’22年も自身プロデュース【アンミカのポジティブ手帳2023】を9/29に発売予定。舞台出演は『シンデレラストーリー』が初となる。
ミュージカル『シンデレラストーリー』
作:鴻上尚史、音楽:武部聡志、作詞:斉藤由貴、演出:ウォーリー木下
出演:加藤梨里香/水嶋 凛(Wキャスト)、大野拓郎、佐藤アツヒロ、アン ミカほか
《東京公演》9/6〜9/19 日本青年館ホール
《愛知公演》9/24〜9/25 東海市芸術劇場 大ホール
《福岡公演》10/1〜10/2 キャナルシティ劇場
《大阪公演》10/7〜10/10 梅田芸術劇場 メインホール
※公演詳細やチケット情報は公式サイトへ→https://www.cinderellastory2022.com/