2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』の主演も控えている、日本を代表する女優のひとり吉高由里子さん。デビュー以来、多くの映像作品でさまざまな役柄を表情豊かに演じ、また自然体でチャーミングなキャラクターで私たちの心をつかんでいる。
そんな吉高さんが10月7日から岩松了演出の舞台『クランク・イン!』に出演する。6年ぶりの舞台へ挑む心境、女優生活18年目で思うこと、最近の暮らしで大切にしていることなどを、語っていただきました。(※取材は稽古前に行われました)
稽古場では余計な発言は控えようと思ってる(笑)
──2016年の舞台『レディエント・バーミン』以来、6年ぶりの舞台出演になりますが、3作目の舞台として『クランク・イン!』に出演しようと思われた理由は?
「マネージャーさんの方針もあると思います。毎日同じ稽古を繰り返して、台詞とじっくり向き合う時間を経験させたい、と思ってくれているのかなと。私自身も言葉を掘り返す作業を勉強したいと思っています。岩松(了)さんは共演者として、私が10代の頃に出演した映画『転々』や『花子とアン』でご一緒しているので、10代の自分を知っていて、20代の自分を知っていて、そして今回30代の自分を見てもらう。すごく貴重な方だなと感じています」
──演出家・岩松了さんとは初仕事になりますが?
「岩松さんの稽古は、すごくハードだとか長いとか大変という噂なので、どういう演出が待っているのか、ちょっと怖い感じもありますね。“今なんでそれやったの? どういう意味で? どういう気持ちで?”って、理詰めをされても困るなと思うので、稽古場では余計な発言は控えようと思っています(笑)」
──なるほど(笑)。岩松さん演出の舞台はご覧になっていると思いますが、演出家としての魅力はどういうところだと思いますか?
「私は、岩松さんは言葉の人だなと思っていて。その一言のフレーズで、どれだけ風呂敷を広げられるんだろうっていうくらい、想像もつかないような物語が進んでいくというか。岩松さんがそのひとつの言葉の揚げ足をどれだけ取って伸ばせるかっていうのが魅力だなと。人が考えられないような意地悪さを持っている方なんじゃないですかね(笑)」
──そういった岩松作品を演じる役者としての醍醐味はどんなところに感じていらっしゃいますか?
「いろいろな人を見てきている方でしょうし、それをこう表面的なものじゃなくて、その内面的なギャップであったりとか裏表とかも考えながら、人の話や表情を見ている方なのかなと思ったりしていて。
それで今回、自分はそういう岩松さんに、どういうふうに見られるのか、どういう言葉をかけられるのか、どういうふうに挑発されるのか……。すごく怖いですけど人間に生まれた醍醐味(だいごみ)として、喜怒哀楽とか後ろめたさとかの感情をいろいろ経験する機会になるのかなと感じています」
日本のチェーホフと呼ばれ、人間の内部で無意識に動く感情を説明的な台詞を排し、物語の核を隠しながらもリアルに生々しく描き出すことに定評のある劇作家であり演出家・岩松了の新作。映画製作の現場で繰り広げられる、ある新人女優の死をめぐる映画監督と女優たちの愛憎と葛藤を悲喜劇として描く。
【あらすじ】
1人の新人女優・堀美晴が亡くなった。そのために暗礁に乗り上げていた映画の製作が、全員の「この映画を完成させなければ!」という思いで、クランクインの時を迎えた。
堀美晴の葬儀は撮影所内でごく内々にすませられた。監督の別荘の湖に溺れて死んだ事故となっていたが、真相はよくわからないままだったのだ。彼女が事故当時、持っていたはずのお気に入りのポシェットが見つからないことなど、本当に事故なのか、あやふやな状況だった。しかし、映画を完成させるために、動き出さなければならない。そんな状況下での撮影だったため、監督(眞島秀和)の殺気だった緊張感に満ちた指揮ぶりは常軌を逸していると言ってもよかった。飛ぶ鳥を落とす勢いの主演女優・羽田香織(秋山菜津子)にも容赦ないダメ出しが飛ぶ。そんな中、プロデューサーの紹介で抜てきされた女優ジュン(吉高由里子)が徐々に存在感を増してくる。
撮影のために世間から隔絶された場所で、主演女優、マネージャー(富山えり子)、ベテラン女優(伊勢志摩)、若手女優(石橋穂乃香)、それぞれの思惑と、監督への愛情が次々に彼を追い詰めてゆく──。堀美晴は殺されたのか、だとしたら誰が彼女を殺したのか……、映画の現場は次第に混沌(こんとん)としていき、やがて悲劇的な結末を迎える──。
気が強い役より柔らかな人の役がいい
──今作の台本を読んだ感想は?
「(インタビュー当時)まだ、さわりの部分しかいただいていないのですが、眞島(秀和)さん演じる監督が、全員と関係を持っていて、それで誰かに言い寄って新人女優を殺させたとか……。最低な人だと、面白いなと想像しながら読んでいました」
──そういう展開は面白そうですね。今回、女優役を演じることについてはどう考えていますか?
「芝居をする人の芝居をするという、なんだかこんがらがりそうな感じの役どころではあるのですが……。すごく勝気な性格の人じゃなければいいなって(笑)」
──勝気じゃないほうが演じやすいですか?
「そうですね。気が強い役って体力を使うので。柔らかな人だったらいいなとは思います」
──舞台の現場は、吉高さんにとってどんな場所ですか?
「緊張します。自分に興味を持って観てくれている人をちゃんと知ることができる機会でもありますね。あと、映像作品ばかりだったので、舞台上で失敗したときに自分を立て直す心のモチベーションの持ち方というか、メンタル強化の場ではあるなと感じます。
うれしいことは、観てくださる方が高揚している表情や感情が、重いくらい伝わってくること。舞台を観るために仕事を休んだり、予定を変えたりして来てくれているんだなと思うと、すごくうれしいですよね。たまに眠っている人を目の前にするとやっぱり寂しくはなりますけど(笑)、そういうのも本番の力に変える訓練なんだろうなって」
──久々の舞台稽古になりますが、期待していることや楽しみにしていることは?
「今までの舞台でも、形も見えなかったものがどんどん形に育っていく過程や、自分の役を知っていく過程が楽しかったので、今回も楽しくあってほしいなと。そして、誰も怪我などすることなく、無事に走りきれたらいいなと思います」
丁寧に花を生けるようになりました
──デビュー以来、常に輝き続けている吉高さん。すごいスケジュールが今後も続きますけれど、16歳から女優を続けてきて34歳になられた今、改めて思うことは?
「デビューした頃は18年も続くと思わなかったから、“こんなはずじゃなかった”っていう今になっています(笑)。ある時期から自分のペースがあるんだなって思ったんですよね。『花子とアン』のあとに少し休んで仕事を再開してからは、仕事を詰め込むのをやめて、ちゃんと紡いだあとに見つけたもので作品にとりかかるようになったんです。スタッフとチームで答え合わせのように紡いでから意見交換をしたりして。ひとつの作品に取り組む時間とか丁寧さの濃度が変わってきたのは、そのおかげかなというふうには思っています」
──最近、普段の暮らしで大切にしているのはどんなことですか?
「映画やドラマのクランクアップなどで、お花をいただく機会が多いんですけど。以前はそんなにお花に興味がなかったんです。それが最近は花瓶を買ったりして、丁寧に花を生けるようになりました。一本ずつ一輪挿しに生けたりして楽しんでいます。今までは水が腐るまで放置してしまうこともありましたけど(笑)、どうしたら花の寿命を伸ばせるかを考えたりしています。お母さんって、お花好きじゃないですか。だから、私も大人になったってことかなっていう感じがしている」
──お花のある生活、いいですね。では、プライベートの一番のリラックスタイムは?
「アラームをかけないで眠れる休日。明日は朝起きなくていいって思うと、安心できるんです。自分でも本当に休みが好きなんだなって思うんですけど。今年は夏休みをもらって旅行に行ってリフレッシュしたので、それで自分を軌道修正して。今は仕事を頑張るぞ!って感じです(笑)」
──今回、8年ぶりに取材させていただきましたが、正直で自由な人柄が変わられていなくてほっとしました。
「(笑)。私はもうちょっと大人になっているかと思っていたけど、人って成長しないのかなって思うくらい変わらないですよね」
──よく取材をさせていただいていた10代~20代前半の頃と今の自分で、変わった部分は何かありますか?
「ずっとヘラヘラしているんですけど、まだ10代の頃のほうが頑固さとか、尖っている貫いている自分がいたなって思います。今はそれがそぎ落とされて、ただのふざけたおばさんになっている気がする(笑)」
──(笑)。では、美しくあるために気をつけていることは?
「美しくあるために……。特別に気をつけていることはないですよ」
──女優は美しくあらねばならぬとは考えない?
「外見よりも、私は内面の人柄がきれいな人のほうに惹かれるんですよね。自分もそうありたいなって思います」
(取材・文/井ノ口裕子)
《PROFILE》
よしたか・ゆりこ 1988年7月22日、東京都出身。2006年、映画『紀子の食卓』でスクリーンデビューし、「第28回ヨコハマ映画祭」最優秀新人賞受賞。2008年に映画『蛇にピアス』で主演を務め、「第32回日本アカデミー賞」新人俳優賞と「第51回ブルーリボン賞」新人賞をダブル受賞。デビュー以来、ドラマや映画で活躍し主演作は多数。2014年にはNHK連続テレビ小説『花子とアン』に主演し、ヒロイン・村岡花子を好演。同年『第65回NHK紅白歌合戦』の紅組司会を務めた。舞台作品は、2015年『大逆走』、2016年『レディエント・バーミン』に出演。今後の予定は、2023年1月スタートのドラマ『星降る夜に』(テレビ朝日)主演。2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』で主演・紫式部/まひろ役を務める。
●公演情報
M&Oplays プロデュース『クランク・イン!』
作・演出:岩松了
出演:眞島秀和、吉高由里子、伊勢志摩、富山えり子、石橋穂乃香、秋山菜津子
日程・会場:
【東京】2022年10月7日(金)~30(日) 本多劇場
【静岡】2022年11月2日(水)~3日(木・祝) 三島市民文化会館 大ホール
【大阪】2022年11月11日(金)~13日(日) 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
【名古屋】2022年11月19日(土)~20日(日) ウインクあいち 大ホール
【吉高】衣装協力:Y.M.Walts(MARVIN&SONS/Tel.03-6276-9433) CHARLOTTE CHESNAIS(EDSTROM OFFICE/Tel.03-6427-5901) DIANA(ダイアナ 銀座本店/Tel.03-3573-4005)