1980年代から、スーパーアイドルグループ『少年隊』のメンバーとして、そして2021年からは、ソロとしても音楽を中心とした活動に精力的な植草克秀(愛称・かっちゃん)。第1回では、ジャニーズ事務所退所後の心境や、10月から11月末にかけて全国で行われたランチタイム&ディナーショー『植草克秀 SHOW&TIME 2021』に向けての意気込みについて、第2回は近年、再評価が著しい少年隊やその楽曲について、それぞれ貴重なエピソードを伺った。
第1回:少年隊・植草克秀、明るい笑顔の裏で燃えたぎる「挑戦心」と新たに気づいた「思い」
第2回:少年隊・植草克秀、たゆまぬ努力を続ける背景にある「ジャニーさんの教え」
最終回となる第3回は、少年隊名義の楽曲の中から植草のソロ曲の魅力や、今後の展望について語ってもらった。(インタビュー日時:2021年11月中旬)
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歌声は今でも全然変わらない
──私が担当するラジオ番組『渋谷のザ・ベストテン』(コミュニティFMの渋谷のラジオ)には、少年隊ファンのリスナーさんがたくさんいらっしゃるので、今回のインタビューに先立ち、植草さんの歌唱面における魅力をファンの方に改めてお尋ねしてみました。すると、のべ200件以上のご意見をいただきましたので、その感想をいくつかお聞かせください。
──まず、ソロの楽曲でもっとも意見が多かったのが『Season of Love』(アルバム『Prism』収録)について。“かっちゃんのボーカルが冬景色に溶け込むよう”と評判の華やか
「この曲は、歌詞が大好きですね。主人公の幸せな感じが出ていますから。ちなみに、この大サビ前で一瞬、静かになる間奏部分は、“山下達郎さんの楽曲『クリスマス・イブ』をイメージしたアレンジを足してほしい”と、僕からお願いしました」
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──この楽曲は1999年の録音ですが、2020年に新録音されたほかの曲でも、キラキラした歌声は健在ですよね。普段から歌声を維持しようと意識されているのですか?
「いえ、特別なことはしていませんよ。ただ、(以前にTwitterに投稿した)台湾製ののどあめは、10代のころからコンサートに向けての必需品です。僕は声を張って歌うパートが多く、それが何曲も続くときなどに喉を守れるし、これはオススメですね。だけど、今回はリハーサルで張り切りすぎて、なんとショーが始まる前から声が枯れちゃって。“これはなんとかしないと!”って、大急ぎで病院にも行き、さらに、苦いのを我慢しながら(笑)、プロポリスの原液を何度も飲んでいました。それで声が戻りましたね。プロポリスは声だけでなく、内臓や肌の調子もよくなるので、普段から飲むようにしています。
確かに僕は、話し声は(以前と)多少変わっているんですが、歌声は録音してみると、“あれ、これ今の声だっけ?”と思うほど、変わらない部分もありますね。もしかして、小学校のときに合唱部に入っていたのがよかったのかな(笑)。かなりの名門で、東京の全国大会までいったこともあるんですよ。実は、“お前は落ち着きがないから”って、親に入れられただけなんですが。でも、そこで鼻濁音の「が」の発声が自然と身についたり、喉の負担が軽くなったりしたのかも。あとは、スイミングクラブの育成コースに入っていたことで肺活量が伸びたのか……自分でもわかりませんが(笑)。
ただ、それ以上に、10代から歌いまくったことで鍛えられた気がしますよ。なにせ俺らは、ジャニー(喜多川)さんに最初のコンサート(1984年)で1日5公演もやらされましたからね(笑)。1公演めが朝10時くらいからで、何公演目かであまりのつらさから、胃がけいれんするほどでした。だけど、そこで救急車を呼んじゃったら公演が中止になってしまうから、我慢しながらやりきっていましたね。あの時代のスケジュール感は、今から考えるとちょっとクレイジーですよね」
──しかも、少年隊の場合は、ダンスもボーカルも完璧なスタイルですから、5公演もやってのけたのは本当にすばらしいです。続いて、ソロ曲で意見の多かった2番手が『氷の国』(アルバム『Heart to Heart 5years 少年隊・・そして1991』収録)。“冬の厳かな情景が浮かぶなかに、かっちゃんの透明な歌声が突き
「それは、クリスマスプレゼント的な意味合いで冬にリリースされたアルバムが多かったからじゃないかな? 実際には、『Stripe Blue』や『First Memory』(アルバム『PRIVATE LIFE -Light & Shadow-』収録)など、ハワイで春夏の曲を録音したこともありますよ。
だけど、『氷の国』にそんなに意見が集まるとは思ってもいませんでした。ファンのみんなも当時はそこまで意識してなかっただろうし、僕、これは必ずしもヒット狙いの曲じゃなく、ちょっと難解だと思っていたんですね、時代より早すぎたというか。だけど、確かに歌っていて気持ちよかった曲ですね。
ソロ曲は、この中から自分で選んでいいよって言われて歌ったものもあれば、ディレクターが選んだものを、“えっ、この曲?”って戸惑いながら歌ったこともあるんですよ。『Season of Love』はもちろん自分で選んだし、逆に、『氷の国』はスタッフ判断だったけれど、自分の声に合っていたことで、意外に面白くて意見が多くなったのかもしれませんね」
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ショーで披露する曲はオリジナルを重視して工夫を重ねた
──35周年記念ベストの限定盤では、先ほどの『Season of Love』のほか、『My Little Simple Words』を新録音で収録されていますね。ファンの方からは“『My Little Simple Words』は、かっちゃんの強い思いで収録したのでは?”と推測したご意見もいくつかありますが……。
「それは当たっていますね。その曲は、僕が特に大好きなんです。『My Little Simple Words』は、サビの部分が初めは《♪Simple Words 大事なことさ~》だったんですが、《♪KO TO BA 大事なことさ~》に変えてもらったんですよ。そのほうが、言葉がバッチリはまって、歌詞の深みも出たんですよね。
それと、ほかに歌詞が好きなのは『ロングタイム・ロマンス』。特に気に入っているのは、大サビの《♪もしも僕が僕のために恋をしたら(中略)愛はなんてさびしい出来事~》や、その前の《♪100年たったあと ひろいあげても 同じ声がするだろう~》という部分ですね。
ショーの準備をしていたこともあって、僕もひと通り聴き直していたんですが、みなさんからの意見を見ると、“なるほど、この曲が好きなのか”って、新たな発見があって面白いですね。例えば『Super Star』(サウンドトラック・アルバム『PLAYZONE ’90 MASK』)なんて、もともとはミュージカルのなかの曲だから、自分だけでは思いつかなかったです」
──確かに、名曲の数々をすべて聴き直すだけでも大変ですね。ショーにかける思いの強さも伝わってきます。
「はい。ランチタイム&ディナーショーは、たとえどんなに来場者が少なくてもやりたいと思っていました。まずは、いま来てくださるファンの方たちが1人でもいてくれたら、それを無理して増やそうという気持ちはなく、来年も来ていただけるように精いっぱい頑張る、というのが自分に合っている。(大々的にアピールしたいとか、)そういう欲がないんですよ。
だから、2022年もショーは続けたいですね。長年のファンの方が来てくださっていることは本当にありがたいし、こうして自分の思ってもいない意見を言ってもらえるのも、すごくうれしいし、素直にすごいな、と感心します」
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──それにしても、みなさんが“植草克秀”というボーカリストに惚れ込んでいることがよくわかります。また、少年隊の曲について、“間奏で激しく踊ったあとの第一声は、圧倒的にかっちゃんが多い”という指摘もかなりの数がありました。
「いやいや! おそらく僕が主旋律を歌うことが多かったから、印象がより強くなっているんじゃないかな。歌うパートは、当時の担当ディレクターだった鎌田俊哉さんが決めていましたが、ちゃんと3人で歌っています。
鎌田さんには今回のショーで、バンド演奏の音のバランスをチェックしたうえで、なるべく原曲の持つイメージに近づけてもらっていて、おかげでだいぶ変わりました。今回は、これまで3人で歌っていたものを1人でやるわけなので、とっても大変です。でもやっぱり、好きなアーティストの曲を聴いたときに、オリジナルの雰囲気とずれていたら、ファンのみんなも嫌でしょ? そこで、3人で掛け合っていた部分は、コーラスに入ってもらうなど工夫して、とにかく“やらなきゃいけない”と思って頑張りました。
このショーが一段落したら、そのあとはいろんな仕事をやってみたいですね。退所したからには、いま55歳の僕だからこそできることに挑戦してみたい。僕のことをよく知らない人からは、“植草がいちばん何もやらないんじゃないの?”なんて声もありそうですが、そうやって思ってくれるのは全然かまわないんです(笑)。そういうふうに、のほほんとしたイメージでとらえてくれているんだろうなって。でも実際のところ、ずっと以前からやりたいことはあったんだけれど、
──新たなる挑戦のひとつが、2022年の2月、舞台『TARKIE THE STORY』(主演:凰稀かなめさん、共演は彩凪翔さん、夏樹陽子さんら)の演出を手がける仕事なんですね。
「そうですね。もともと自分たちが出演してきたミュージカルも、制作はジャニーさんを筆頭にやりつつも、自分のパートは自分で演出したり、全体に対して提案したりしていたので、ある程度、客観的な視点で作ってきたんですよ。かといって、簡単にできるもんじゃないと思って覚悟していますが、それも自分へのチャレンジだと思っています。
以前にミュージカル『PLAYZONE』(プレゾン。2008年まで少年隊が主演を務めた)で『WEST SIDE STORY』(2004年)を作ったときは、世界的な演出家の方が配役もすべて決めるなど、それまでとの舞台の作り方の違いに戸惑いましたね。日本では、普通はまず立ち稽古から始まるんだけど、海外の方は、配役の背景の説明、例えば、人種問題や宗教問題を理解させることから始めるので、準備が大変でした。しかも、そのときはニシキが敵役だったので、“メシも一緒に行くな、味方どうしで行け”などと徹底されるわけです。でも、そういう経験でも、これからの生き方を教えていただいたような気がしますね」
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音楽のチカラを再認識。歌を中心に頑張りたい
──おっしゃるとおり、舞台演出はハードルが高いでしょうが、これまでの経験を糧に新たなことに挑戦しようとされる姿勢がすてきですね。
「僕はイチから作り出すのが好きなんですよ。できているところに乗っかるよりも、乗っかる手前までを作るのが好き。それと、この前、以前に日常についてつづっていたノートが出てきたんですが、レーシングのときの路面温度やタイヤの空気圧なども細かく書き込んでいるんですよ。釣りに行ったときも、天気や水温、水深なども書いてあって。いろいろなことを詳細に調べたり、決めたりするのも向いているのかも。
今、オリジナル商品を企画して作っているのですが、Tシャツ1枚にしても、“そんなにこだわったら高くて誰も買いませんよ”、ってスタッフに苦言されることもあるんだけど、でも俺が“着たい!”、“使いたい!”と言えるものを作りたいんです。スタッフに任せっきりなんて、無責任な気がするんですよね。
だから、Tシャツを作ったからには自分で着る、着るからにはカッコよくなきゃダメだ、と思うんです。デザインから形、色、生地に至るまで、全部こだわって作っています。そうじゃなきゃ、“かっちゃんのTシャツ買って、1回洗濯しただけでチビTみたいになりました~”なんてリプをもらったら申し訳ないでしょう? もちろん、商品を作る過程で独りよがりにならないよう注意を払っていますよ。それは、ベストアルバムやショーの選曲のときも同じですね」
──周囲の意見を聞きながら作り上げていくというのは、大変なことだと思います。演出するとなると、今度は自分でも演じてみたくなるのでは?
「演劇の舞台に立つことについては、決して嫌ではないのですが、
実は、今回のショーのために作った新曲『SHOW&TIME』
もっと時間があれば、アルバムも作りたかったのですが、どうにも間に合わないので、まずは2曲だけ聴いてもらって、2022年以降、じっくりと取り組んでいこうと思います。現在の年齢に合った大人の魅力の歌もいいけれど、今もアイドル時代のような曲も好きで、どっちにせよ、ファンの方に愛される曲を歌っていきたいです」
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──ちなみに最近は、どんな音楽が気に入っているのですか?
「今年だと、ヒゲダン(Official髭男dism)が、何曲かヒットしたあとに『Cry Baby』という楽曲を持ってきたことに感心したなあ。あの曲って、マイナーからメジャーに転調したり、ヘヴィメタルかと思えばポップスに振り切ったり、さらにクラシックの要素も入っていたり、音楽的に高度なものをサラっとやっているのがすごいと思いました。
少し前になるけど、いきものがかりも耳に残る音楽を作っていて好きですね。『ありがとう』や『ブルーバード』のサビの部分など、馬飼野さんや筒美(京平)さんに近いテイストを感じるんです。
それと、最近はアニメから入るものも多いですね。寝る前にちょっと時間が空いていたら観られるので。ヒゲダンの『Cry Baby』は『東京リベンジャーズ』、LiSAさんの『紅蓮華』も『鬼滅の刃』からですよね。『紅蓮華』なんか、まだそこまでヒットしていないときに、“この曲、すっげーぞ!”って周りに言っていたんですよ。そのあと社会現象になってから、“ほら、やっぱり俺が言ったとおりじゃねーか!”って思いました(笑)。アニメ主題歌はまったくバカにできませんよ」
──今でも若々しい感性をお持ちなのが、よくわかるエピソードですね! では、最後の質問です。植草さんは、今後も、“かっちゃん”と呼ばれていたいですか?
「そうやって呼んでほしいとかはないですが、ファンのみなさんに呼ばれたら自然に振り向きますよね。だから、いくつになっても大丈夫ですよ!(笑)」
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全3回にわたって行ったインタビュー中、植草の言葉の数々は、常に“感謝”と“努力”に根づいたものであることが、ひしひしと伝わってきた。そして、そのまぶしすぎる笑顔ゆえに、
《取材・文/臼井孝(人と音楽をつなげたい音楽マーケッター)》
【PROFILE】
植草克秀(うえくさ・かつひで) ◎1966年7月24日生まれ、千葉県出身、O型。1980年代前半に少年隊のメンバーとして活動を開始し、1985年12月、シングル『仮面舞踏会』でレコード・デビュー。以降、9作のシングルでオリコン1位を獲得。少年隊の活動と並行し、ソロとしてドラマ『さすらい刑事旅情編』や『渡る世間は鬼ばかり』などの人気シリーズにもレギュラーで出演。2020年末にジャニーズ事務所を退所し、2021年1月より新会社「2steps」を設立。2021年12月22日にオンラインショップをオープン予定、ならびに2022年5月には、コンサートツアーも開催予定。
◆ファンクラブ:https://fan.2steps.jp/
◆twitter:@katsuhideuekusa
◆Instagram:https://www.instagram.com/katsuhideuekusa
◆YouTube:『ニッキとかっちゃんねる』
◆SHOP:http://ku-shop.jp(2021年12月22日オープン!)