人間とともに社会で生きる猫たちの姿を、一歩一歩あゆむように伝える連載「猫の道フミフミ」。第4回はタイのバンコクで暮らす地域猫を紹介します。
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先日見たタイの映画はとても印象深い作品でした。大衆食堂の料理人の立身出世ものでしたが、主人公の女性がたくましく、かつクールビューティーで、以前出会ったタイ・バンコクの猫たちに似ていると思いました。
コロナ渦前のことになりますが、たくさんの観光客が行き交うカオサン通りでは、猫が人に混じって闊歩(かっぽ)しているし、細い路地に入れば、塀の上やバイクの上からこちらを一瞥(いちべつ)する。とてもたくましく生きていると感じました。でも野生児ばかりでもなく、シャム猫の血筋をうかがわせる優美なタイプの猫も。そんな生粋のタイ猫たちをご紹介します。
カオサン通りで見つけた猫は超マイペース
カオサン通りは以前、バックパッカーの聖地として安宿や格安マッサージ店が集まる通りでしたが、今はオシャレなホテルや屋台、夜はクラブでにぎわっているそうです。確かに当時も外国人率が高かった。立地的にはバンコクでいちばんの観光スポットといえる3大寺院が徒歩圏内。観光客を当て込んで現地の人が集まり、それに合わせて現地猫も、この界隈に姿を現すようです。
そんな通りで強者と遭遇しました。道路は車が行き交い、歩道も屋台がひしめき、歩くのもやっとな隙間を上手に人を避けて進むシャム猫風の猫。お土産店の前に陣取るとそのまま寝てしまいました。こんな人も車も激しく往来する場所でよく眠れるものだと感心することしきり。バンコクの猫は肝がすわってます。
環境に合わせて対応する、したたかなバンコクの猫
もちろんバンコク中の猫すべてがそんなタイプではありませんし、同じバンコクの猫でも、猫カフェの猫はたくましさは限りなくゼロ。外のうだるような暑さを知らずに清潔で快適な環境でうたた寝をするのと、とても眠れそうもない場所でもかまわず寝る。
冒頭で紹介したタイ映画も格差社会が描かれていましたが、人も猫も生まれた環境の差は大きいものですね。でも猫の可愛らしさは変わりません。
バンコクの中心を流れる穏やかな「チャオプラヤー川」。バンコクのシンボル的な川には便利な水上バスもあって、生活には欠かせない交通手段。ただ川としてそこにあるわけではありません。
たとえ生まれ育った環境が違っても、環境に合わせて対応する、そんなことをバンコクの猫たちから感じました。みなさんもたくましくて美しいバンコクの猫たちに、会いに行ってみてはいかがでしょう。
《執筆者プロフィール》
南幅俊輔(みなみはば・しゅんすけ) 盛岡市生まれ。グラフィックデザイナー&写真家。デザイン事務所コイル代表。現在、デザイン以外にも撮影、編集、執筆を手がける。2009年より外で暮らす猫「ソトネコ」をテーマに本格的に撮影活動を開始。日本のソトネコや看板猫のほか、海外の猫の取材・撮影を行っている。著書に『ソトネコJAPAN』(洋泉社)、『ワル猫カレンダー』『ワル猫だもの』(マガジン・マガジン)、『踊るハシビロコウ』(ライブ・パブリッシング)、『ハシビロコウカレンダー』『ハシビロコウのふたば』(辰巳出版)など。企画・デザインでは、『美しすぎるネコ科図鑑』(小学館)、『ねこ検定』(ライブ・パブリッシング)『ハシビロコウのすべて』『ゴリラのすべて』(廣済堂出版)などがある。