モデル業のほか、テレビ・ラジオ出演、化粧品プロデュース、エッセイの執筆など、あらゆる方面で活躍を続けるアンミカさん。2022年9月から17年ぶりに上演される『シンデレラストーリー』では舞台に初挑戦し、シンデレラを幸せへと導く魔女役を務めます。初舞台にかける意気込みや、今もアンミカさんを応援してくれる大切な仲間と出会った韓国留学での思い出を、じっくりお聞きしました。
(※アンミカさんが初ミュージカルへのオファーを受けたときに心境や、コンプレックスを克服してモデルという夢に向かってまい進した学生時代については、インタビュー第1弾で語っていただいています。記事→50歳でミュージカル初挑戦のアンミカさん、舞台を見たがった亡き母の“忘れられない言葉”と思春期の悲喜こもごも)
舞台ならでは、自分ならではの歌声を求めて模索中
ミュージカルの舞台は以前からよく観に行っていましたが、中でも劇団四季が好きで、『オペラ座の怪人』『ウィキッド』は何度も観劇、そのたびに感動を新たにしています。
ミュージカルが好きすぎて、これまでは「興味はあるけれど、自分が舞台に出るなんておこがましい」と憧れるだけの世界でした。2019年に上演された『レ・ミゼラブル』にお笑いコンビ・トレンディエンジェルの斎藤司さんが出演されたときには、「違う畑の方があんな世界的なミュージカルで活躍してらっしゃるんだから、自分にもいつかチャンスがくるといいな」と、うらやましく思っていました。テレビ番組では、歌って踊って絵を描いて、クイズなども経験させてもらっていたものの、「まだ自分の知らない分野で何かできることが出てくるかも」と、新たな挑戦の機会が訪れることに期待していました。
幼稚園のときから聖歌隊に入り、土日は毎週、教会で歌い、大人になってからはゴスペルのグループでコンサートやライブのバックコーラスに参加していたので、歌は大好きだったのですが、今回のようなミュージカルは、まず声の出し方がまったく違います。台本の読み合わせのときに、周りのプロの声の演技に圧倒されてしまいました。リハーサルでは、台詞(せりふ)ではいい声を出せても、歌になると、急に魔女風に作り込んでしまう。「台詞から自然な流れで歌に入れるように訓練しないと」と指摘されました。これまで歌ってきた50年分の癖(くせ)を、一気に抜かなければなりません。
しかも、前回(’03年、’05年)の公演で同じ役(魔法使い)を演じたデーモン閣下の歌を聴きすぎて、自信をなくしてしまったり……。デーモン閣下の迫力を出そうとしても、ヘヴィメタルのロック調となると、さすがに私には無理です。でも、意識しすぎていたのをやめたとたん、やっと喉が開いてきました。今後も私の中にある、デーモンさんが演じた魔法使い像をいったん全部抜いて、私ならではの役を作り込んでいかなければ、と模索中です。今回は、シンデレラを優しく包み込むような、温かい大人の魔法使いを演じたいと思います。
舞台に生かすため、体力づくりと食生活にも気を使う
ミュージカルには体力も必要なので、ちょっとした時間に身体を鍛えることも忘れません。幼いころ、ぽっちゃりしていたので、50歳にもなると代謝的にすぐ戻るんです。ぜい肉が付きだすのがわかるので、やめていたヒールをはくようにして、階段につま先を半分だけ乗せ、上げて伸ばして下ろして、という動作を毎日100回くらい繰り返しています。気がついたときにやるだけで、足のむくみがなくなるのでオススメです。家では縄跳び、腹筋などマメに運動して、若いときに作った筋肉も呼び起こしていきます。
食生活にも、もちろん気を使っています。夫からは、「仕事をしている君の姿が好きなので、家でご飯を作って待っている妻は望んでいない」と言われていますが、夕食は私が作っています。と言っても、お互い忙しいので、家で一緒に食べるのは週2回くらい。
野菜たっぷりで具だくさんの味噌汁に納豆を入れたり、家で育てているハーブを入れてオリーブオイルとレモンを添えたサラダに、身体の脂肪をいちばん落としてくれる旬の魚を薄く切って散らしたり、蒸した鶏肉や発酵食品、漢方を摂り入れたりと、ジュニアベジタブル&フルーツマイスター(野菜ソムリエ)、漢方養成指導士の資格を勉強して得た情報も、日常生活にフルに生かしています。
両親が韓国出身なので、もともと韓国料理で育っていて、食卓に並ぶのは整腸作用のある発酵食品や、脂肪を燃焼させるカプサイシンの効果が抜群の唐辛子、お肉を包んで食べる大量の野菜などがメインでしたから、食生活は生まれたときからヘルシーでした。父がカレーでもシチューでも、なんにでもキムチをどぼどぼ入れてしまうほど、韓国料理オンリーでしたから。
30歳目前にして韓国留学、新たな学びと一生の友を得る
父は、日韓ワールドカップ(’02年)の前に亡くなったのですが、そのときに韓国の親戚とコミュニケーションがうまくとれなかったことから、両親のルーツを正しく知りたいと思い、29歳で韓国に語学留学をすることにしました。3か月でマスターできると思ったら、とんでもない、1年かかりました。
両親の会話は韓国語だったので、小さいころは当たり前のように聞いていたのですが、2人がそろっている姿を見たのは7歳くらいまで。8歳のときに母がガンになり、入退院を繰り返していましたし、のちに父もガンにかかり、2人とも声帯をとってしまう病気だったので、そのあとは、きちんと話した覚えがないんです。
大人の韓国語のニュアンスが、日本の生活が長くなったせいで理解できなかったり、昔、母が知人への引っ越し祝いにトイレットペーパーを配っていたことが恥ずかしかったりしました。でも、韓国に行ってそういう文化があることを学びました。生まれた地である済州島の親戚に家族のルーツも聞けて、いろいろな誤解がとけました。済州島に行ったとき、なぜか郷愁を感じて、懐かしい思いがあふれました。改めて、韓国は自分のルーツでもあるのだなと、感慨もひとしおでした。
帰国後、韓国観光大使に任命されたのですが、ちょうど日韓の関係が悪化して、イベントがすべて中止になってしまいました。観光大使として何にも携わることができなかったことが残念でなりません。今後は、国民レベルで前向きに交流していけることを強く願っています。
韓国留学で知り合ったクラスメートたちは、ひと回りくらい年が離れているにもかかわらず、今となっては大親友ばかり。私は韓国に行く前、パリコレに出たり日本でテレビ出演をしたりで、少し調子に乗っていたところがあったと思うんです。ところが、韓国に行ったら、私が期待していた扱いと違う。「在日なの? 苦労したね」とハグしてもらえると思いきや、とんでもない。在日韓国人は誤解されている部分もあって、学校の先生に、「あなたたちは韓国語が完璧ではないから、韓国人ではない」と言われてショックを受けたこともありました。そんな失望感を共有した同志でもあります。
日本で韓国の化粧品がブームになってからは、そこでの友人たちが私がQVC(テレビショッピングの専門チャンネル)で担当している化粧品会社に就職したり、世界でのイベントを企画している夫の会社に入ったりと、さらに心強い仲間たちとなりました。そんな、ともに苦難をのりこえてきた、何ものにも代え難い友も、初舞台を応援してくれています。
初舞台だからといって甘えは厳禁。「50歳、行くぞっ!」
舞台の出演メンバーと初めて顔合わせをしたときには、周りが憧れていたミュージカルスターの方々ばかり。「〇〇さんが同じ空間にいる!」と、ミーハー心にキョロキョロしてしまいました。わきあいあいとした雰囲気で、台本を読みを始めると、鴻上尚史さんの脚本がまた面白くて、爆笑の嵐です。
歌や踊りの先生からも先生呼びを禁止されるほど、なごやかな現場なのですが、私は上下関係に厳しい韓国式に慣れているので、つい「先生」と呼んでしまうんですよね(笑)。初舞台である私に対して親身になって指導してくださり、毎日、稽古場に行くのが楽しみです。反面、初めてだからと甘えてはいけない、という気持ちも。これまで培ってきた体力、持久力を生かしてハードな公演を乗り切っていけるように、「50歳、行くぞっ!」と気合いを入れ直したところです。
3回目の再演となり、ファンの方も多い作品ですが、これまでの経験を生かした“人の傷みがわかり、包容力のある魔法使い”を演じて、舞台を盛り上げていきたいと思います。ぜひ観にいらしてください。
(取材・文/Miki D’Angelo Yamashita)
【PROFILE】
アンミカ ◎’93年にパリコレ初参加後、モデル業以外でも、テレビ、ラジオ、ドラマや映画、時には歌手として、様々な表現分野で活躍。野菜ソムリエ、漢方養生指導士中級、ベジフルビューティーアドバイザー、NARDアロマアドバイザー、化粧品検定一級、ジュエリーコーディネーター3級など20の資格を活かし、服やコスメ、ジュエリーなど商品プロデュースを展開。ポジティブな考え方、幸せな生き方を提唱すること講演会も人気で、幸せに関する本も多数出版。’22年も自身プロデュース【アンミカのポジティブ手帳2023】を9/29に発売予定。舞台出演は『シンデレラストーリー』が初となる。
ミュージカル『シンデレラストーリー』
作:鴻上尚史、音楽:武部聡志、作詞:斉藤由貴、演出:ウォーリー木下
出演:加藤梨里香/水嶋 凛(Wキャスト)、大野拓郎、佐藤アツヒロ、アン ミカほか
《東京公演》9/6〜9/19 日本青年館ホール
《愛知公演》9/24〜9/25 東海市芸術劇場 大ホール
《福岡公演》10/1〜10/2 キャナルシティ劇場
《大阪公演》10/7〜10/10 梅田芸術劇場 メインホール
※公演詳細やチケット情報は公式サイトへ→https://www.cinderellastory2022.com/