高校・大学とあらゆるクイズ大会で優勝し、現在はクイズ法人カプリティオの代表としてクイズの制作やYouTube配信などで活躍している古川洋平さん。第1弾のインタビューではクイズにハマったきっかけについて伺った。
【第1弾→高校生で『アタック25』『タイムショック21』2冠、大学3連覇のクイズ王が「クイズでいじめを解決した」小学校での成功体験】
第2弾では大学から現在にかけての半生や、クイズのトレンド、クイズの持つ可能性などについて伺う。
『タイムショック21』優勝からみる非凡な巻き込み力
──前回のお話では『アタック25』(テレビ朝日系)の高校生大会優勝までを伺いました。このあと『タイムショック21』(テレビ朝日系)の高校生大会でも仙台第一高等学校(以下、仙台一高)を率いて優勝します。反響があったんじゃないですか?
「はい。ほかに出場した開成、筑駒、お茶の水のようないわゆる有名校と比べて知名度のない、地方の愛好会でしたからね。インターネットも普及していなかったんで“仙台一高って何者なんだ”という衝撃はあったと思います(笑)。
優勝できた背景として、僕のひとつ下に天才が入ってきたんですよ。いま一緒にカプリティオで仕事をしているAT(酒井英太)なんですが、彼が愛好会に入会したときはもう僕と同じくらいクイズが強かったんですよね」
──なるほど。Wエース体制というか。
「そうですね。それと僕が『アタック25』以降、実力がめきめき上がった結果、愛好会の中で僕だけが勝ちまくる時期があったんです。でもそれだとみんな面白くないじゃないですか。だから、他のメンバーもどんどん実力が上がったんですよね」
──なるほど。面白いです。前編で紹介した小学生時代の「壁クイズ」のエピソードにもありましたが、古川さんの「周りを巻き込む力」はすさまじいですよね。
「知り合いから“巻き込み力”はよくほめていただけます。僕は昔から“自分が楽しい”ではなく“周りに喜んでもらいたい”という気持ちでクイズに取り組んでいます。だから自然と人が集まってくるんだと思います。
だから巻き込むといっても、こちらから無理やり誘うことはしません。自分がクイズを楽しんでいるうちに、自然と一緒に楽しみたいという人たちが集まってくるんですよね」
日本最大の早押しクイズ大会『abc』で三連覇し「古川メソッド」を確立
──その後、立命館大学に入学されて、日本最大の学生早押しクイズ大会『abc』で3連覇します。この連覇記録は今でも塗り替えられていません。クイズ好きが全国から集まる中、これはちょっとハンパじゃないな、と(笑)。
「立命館大学にはクイズ推薦で進学したので、大学からはクイズ漬けの毎日でしたね。1年生のときに決勝で負けて準優勝だったんですよ。それがすごく悔しくて猛練習しました。この時期が最もクイズのスキルが高まった時期でしたね。
その結果、3年連続で優勝できたんですが、個人戦で大会に出場しつつ“自分の攻略法を使えば、クイズに興味がない人が勝てるようになるか”という実験をしていたんですよ」
──なるほど、もうレベルが一段階上だったわけですね(笑)。どういう実験をしていたんでしょう。
「まったくクイズ経験がないけど“クイズやってみたいんだよね”という友達が数人いたんです。彼らに僕が取り組んできたクイズ攻略法を用いて一緒に練習してもらいました。すると1年ちょっとで『abc』の予選を抜け、同時に行われる団体戦では僕と一緒に優勝することができたんです」
──え、すごすぎる……。ということは古川さんの頭脳はもちろんですが、クイズ攻略のメソッドが秀でていた証明になるわけですね。
「そうですね。そこからプレイヤーではなく、コーチ側にも興味が出てきました。僕は大学在籍時から卒業後にかけて10人の弟子をとったんですが、10人中4人が日本チャンピオンになったので、僕の学習法は正しかったんだな、と思えましたね。
その後インターネットが普及したり、僕が書籍で発表したりしたので、今はもうみんな普通に取り組んでいる攻略法なんですが、当時はごく一部しか意識していなかった。それが大きなアドバンテージだったんだと思います」
──”古川メソッド”を確立したわけですね。ここでも自分の能力を高めるというより「周りの成功」に重点を置いているのが素敵です。
「そう言われるとそうですね(笑)。やっぱりクイズを通して自分にメリットがあるというより“他人に喜んでほしい”という気持ちがずっと強かったんだと思います」
20代で「定年退職後の生活」を待ち望んだことが衝撃で、脱サラへ
──ただ、おもしろいのはここまでクイズを究めつつも、クイズ関係のところに就職するわけじゃなく、製パン会社のサラリーマンを経て公務員になるんですよね。
「そうなんですよ。まず“自分はプレイヤーとして日本一であり続けたい”という矜持(きょうじ)があったので“仕事にしたらクイズが嫌いになるんじゃないか”と思ったんですよね。それと、それぞれ自営業の家に生まれ苦労してきた両親から“商売は大変だぞ。やめとけよ洋平”と言い聞かされていて、クイズで起業するのは難しいのかな、と。
それで製パン会社に2年勤めたんですが、とにかくブラック企業でクイズどころじゃなかったんですよ。それで日本一のホワイト企業を探した結果、これは公務員だと思って転職しました」
──実際、公務員として働いてみていかがでしたか?
「公務員の仕事はすごく大事な、とてもいい仕事だと思うんですけど、正直自分のしたい仕事とは違う印象でした。毎日、目の前の仕事をこなすような日々が続きました。そんなある日“早く定年にならないかな。クイズいっぱいできるのに”と思っている自分に気づいたんですよ。早く定時にならないかな、じゃないですよ(笑)。定年退職はまだか、と思ってしまったんです。
そのときに“まだ20代なのに……! これはヤバい”と、ハッとしたんですよね。それで、29歳で独立して現在も続くクイズ作家の仕事を始めました」
──それは確かにヤバいですね(笑)。ではそこからはクイズ作家として活躍されるわけですね。
「はい。その後、自分が独立したのを聞いて“古川が脱サラして東京でクイズ作家してるらしいぞ”って、おもしろがって仲間が集まってきてくれました。
それで高校で一緒に『タイムショック21』に出たATや、10人目の弟子だったリコ(松崎利浩)と一緒に仕事をすることになり、3人の当時のハンドルネームのアナグラムで『カプリティオ』という名前の会社を設立することになりました」
──ここで仲間が集まってきてくれるのがドラマティックですよね。ずっと「周りにクイズで楽しんでほしい」と思っていた古川さんが撒(ま)いた種が実った瞬間というか……。
「本当にありがたかったですね。今でもクイズ法人カプリティオは僕ではなく、社員のみんなに成功してほしいという気持ちで運営しています」
クイズは「人間としての力」が試される時代に
──ここまで古川さんの半生をお伺いしましたが、想像以上にクイズ漬けというか(笑)。飽きることはないんですか?
「ないですね。というのも『クイズ』とひと言でいっても楽しみ方はさまざまなんですよ。例えば回答者と出題者でも楽しみは全然違います。クイズの中でも知識量を問うものがあれば推理力を試すものもある。ハマれるポイントはまったく別なんですよね」
──クイズって時代によって「トレンド」もありそうですよね。
「流行(はや)りはあります。最近でいうと、カプリティオが出している『ウミガメのスープ』シリーズがありがたいことに、累計で17万部を突破したんですが、これは“人間としての力”を楽しんでいただけているからヒットしたのかな、と思います」
──「人間としての力」ですか。
「はい。これまでクイズといえば“知識量”を試すものだったんですよね。いかに膨大なデータベースと検索機能が脳内にあるかが重要で、そこが評価されるポイントでした。
でも今はGoogleの検索窓に打ち込めばいくらでも正確な答えが出てくるじゃないですか。だから正直インターネットが普及したとき、僕は“ヤバい”と思ったんですよ。
ただそんな中『ウミガメのスープ』は、出題者がオリジナルで答えを作って、回答者はいくつかの質問をしながら推理しつつ相手の考えを探り当てる、というものです。つまりGoogleで検索しても正答が出てこないわけですよ。
では何が試されるのかというと、知識ではなく“推理力”や“想像力”です。つまりコンピュータではマネできない、人間本来の力が重要になるんですね」
──なるほど……。最近だとAIの流行もありますよね。
「おっしゃるとおりですね。僕はペーパークイズだと、もう人間はAIに勝てないと思っています。でも、耳で聞いて文面を想像する早押しクイズでは人間がまだ優勢だろうと考えていますね。
以前のクイズ業界といえば“人間の中で物知りマシーンを決める”という性質でした。しかし今は、逆に人間らしさを競うようになっているのが面白いですよね。クイズ業界的には過渡期だと思います。そう考えると、まだまだ飽きないですよ(笑)」
──いやぁ、ワクワクするお話です。最後に古川さんがいちばん「クイズを続けていてよかったなぁ」と思ったことを教えてください。
「周囲とコミュニケーションをとれることだと思いますね。前編でご紹介した小学生のときの“壁クイズ”もそうですが、今でもクイズはコミュニケーションを円滑にするツールだと思います。
例えば僕はよく初対面の人同士が集まった場で、クイズでアイスブレイクをするんですよ。“好きなものを教えてください”と質問して、その回答に合わせて即興でクイズを作る。すると、その方も得意分野のクイズなので楽しんで取り組んでくれるし、そこから会話が広がります。
こんな感じでクイズによって人とのコミュニケーションは活性化するんですよね。その結果、周りの方に楽しんでいただけたらやっぱりうれしいです」
──今日お話を伺っていて、最後に「周りの方」という言葉が出てくるのが古川さんらしいなぁ、と思いました。
「人生でずっとクイズに取り組んできましたが、小学生のころから“クイズを通して周りがポジティブな気持ちになること”を目的に置いているんだと再認識できました。
今後もクイズ法人カプリティオとして、多くの方に楽しんでいただけるような活動をしていきたいですね」
他人のために知識を生かすクイズ王のあるべき姿
かつて
友人:「ジュウ・ショさんって誕生日いつ?」
筆者:「え~っとね……いつだと思う~?」
友人:「ちょ、ウザいからマジでやめて」
という、われながら鬼のようにめんどくさい絡みをカマしたことがある。
これはクイズによるコミュニケーションにしっかり失敗した例だ。なぜなら自分の誕生日をクイズにすることに他人への優しさはない。そこにあるのは「自分の話題を広げたい」という気持ちのみだからだ。そう。自己愛が暴走すると、人はなぜかこういうクイズを出す。
その点、古川さんが語った最後の「他人の得意分野のクイズでコミュニケーションをとる」という話は非常に優しさに満ちている。これほどのクイズを究めた結果、クイズを続けてよかった瞬間が「自分の優勝」ではなく「他人の笑顔」という点には感動すら覚えた。古川さんがここまでクイズを究められたのは「クイズで他人が楽しむ姿」を見てきたからなのだろう。
かつて脳内の知識と検索能力で圧倒した古川さんは「優しさ」という人柄も非凡だ。記事内で「これからのクイズで必要だ」と紹介した推理力・想像力は、きっと相手を思いやる気持ちが作用する。そう考えると、古川さんはAIが発達した令和でも、引き続きクイズ王として活躍を見せてくれるだろう。
(取材・文/ジュウ・ショ、編集/FM中西)